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発達障害息子が高校生になって急に語り出した!?保育園の記憶に母驚き。「クレヨン事件」と記憶の特性

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発達障害息子が高校生になって急に語り出した!?保育園の記憶に母驚き。「クレヨン事件」と記憶の特性

監修:室伏佑香

東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程

コウが突然語り出した「保育園の頃の思い出」

現在高校生の息子のコウは、よくしゃべります。ADHD(注意欠如多動症)による多弁やASD(自閉スペクトラム症)による「博士モードの独演会」もあるのかもしれません。自分でも「僕って騒がしいよね?」と笑うくらいで、家にいる間は、ゲームの話、勉強の内容、学校でのちょっとした出来事など話題が尽きません。

そんな彼が、ある日静かな調子で「保育園の頃の僕は、何も考えてなかったな」と言いました。唐突な話だったので、『ん?何の話?』と思いながら聞いていると、彼は詳しい内容を話してくれました。

リビングの床に寝転がりながら、コウが話してくれた内容は以下のようなものでした。

・保育園の頃、友だちが黒のクレヨンで絵を描いていた。
・書いた黒い線の上から白を塗った。そうしたらグレーになって、『なんで~?』と言って困惑していた。
・それで、僕が『黒と白が混ざったらグレーになるんだよ』って言った。

ここまで話した息子は、ちょっと遠くを見るような目をしました。「今思うとさ、そんなの見ればわかることじゃん。目の前で起きてることなのに、僕はどうしてあんなに自信あり気に言ったんだろ……って思うんだよね」と苦笑し、「あのときの自分は……どうしてあんなに何も考えないで生きてたんだろう……」と溜息をつきました。

私はその言葉と彼の様子に、なんともいえないおかしさと『今そんなことを思うんだな~』という少しの興味深さを覚えました。その当時、彼はきっと、いいことを教えてあげたつもりだったのでしょう。目の前で起きている現象を自分の知っている言葉で説明できたことが、うれしかったのかもしれません。

記憶すること、振り返ること

ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)のある子どもたちのなかには、過去の出来事をとてもよく覚えているタイプがいるそうです。 その記憶の鮮明さは、時に、昨日のことのように語られるほどだと聞いたことがあります。ただ、それをどう受け止め、どう位置づけるかという自己理解は、もう少し時間をかけて育つことが多いようです。

息子は今、「あのときの自分は何も考えていなかった」と振り返りますが、それは、自分自身を少し離れたところから見られるようになった今だからこそ出てきた言葉でもあるのでしょう。

そう思いつつ、「グレーになるって言われて、その友だちはなんて言ったの?」と聞くと、息子は「友だちはね、『へー、そうなんだ!』って、すごく感心してくれたよ」と答えました。そして、少し照れたような苦笑いをして「だから僕も、“いいこと言ったな”って思ってたんだよね……」と言いました。

こうして一通りの思い出話を終えたコウは、「保育園児って、そんな感じだよね……」と呟きながらもう一度、遠い目をして床を転がりました。そんなコウを見て、何だか彼らしい過去の振り返り方だなと思いました。

『長期記憶が得意』『記憶の選別が苦手』と表現すればそれだけのエピソードですが、その中には、コウなりの記憶と感情と『振り返りによる気づき』が詰まっているのだろうと感じました。「何で今保育園の頃の記憶?何がきっかけで?」と思いつつ、コウに対して改めて小さな面白さを感じる出来事でした。

執筆/丸山さとこ

(監修:室伏先生より)
とても興味深いエピソードを共有していただき、ありがとうございます。ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)のあるお子さんの中は、過去の出来事を非常に細かく記憶していることがあり、臨床の現場でもそうした様子を目にすることがあります。特に、ご自身の興味のあることへの記憶力の高さには驚かされることが度々あります。その一方で、過去のトラウマ体験や嫌な出来事などの記憶が鮮明に残ってしまい、フラッシュバックのように何度も思い出されてしまうようなケースもあります。
保育園の頃の記憶を「今の自分の視点」で再解釈し、過去の自分に対して問いを持つことができているという点は、自身を客観的に見る力の発達が進んでいる証拠でもあります。これは、自己理解や他者理解の土台となる重要な能力です。今後もご家族のあたたかなまなざしの中で、コウさんの豊かな自己理解がさらに育まれていくことを、心より願っています。

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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