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10月4日は<イワシの日>! 日本近海で急速に増加する「4種類目のイワシ」を食べてみた

サカナト

カタボシイワシ(提供:椎名まさと)

10月4日は「イワシの日」。

イワシはニシン目に含まれる魚の一部を指しますが、日本人に馴染み深い種はマイワシ・カタクチイワシ・ウルメイワシの3種でしょう。

しかし、近年はもう1種東シナ海から別種の「イワシ」も入ってきているようです。

その新顔のイワシとは一体どのような魚なのでしょうか。

古くから知られる日本における3種の「イワシ」

1を「い」、0を「わ」、4を「し」と読むことから「いわし食用化協会(現・いわし普及協会)」によって1985年に制定された記念日が10月4日の「イワシの日」です。

日本において「イワシ」といえば、「マイワシ」「カタクチイワシ」「ウルメイワシ」の3種が代表と言えるでしょう。

いずれも多獲性の浮魚であり、定置網やまき網などで多量に漁獲され、琉球列島をのぞく各地で漁獲されます。

マイワシ Sardinops melanostictus(Temminck and Schlegel, 1846)

マイワシはニシン科・マイワシ属の魚です。

北海道から九州までの各地で見られ、日本産ニシン科魚類の代表的な種といえるでしょう。

本種に似たものにチリ産のSardinops sagax(Jenyns, 1842)や、カリフォルニア産の Sardinops caeruleus(Girard, 1854)、オーストラリア近辺の Sardinops neopilchardus(Steindachner, 1879)、そして南アフリカ産の Sardinops ocellatus(Pappe, 1853) が知られ、これらの種は Sardinops sagax の亜種として扱われることもあります(例として「Fishbase」など)。

マイワシ(提供:椎名まさと)

マイワシの形態的特徴としては、上顎前縁中央部に欠刻がないこと、上顎後端が眼中央下に達すること、鋤骨に歯がないことなどが挙げられます。

この他にも、主鰓蓋骨に隆起線が多数入ること、“ななつぼし”の地方名がある通り体側には1列か2列の黒い斑点があること、さらにその上方にも鱗に黒点の列が見られることによって、ほかのニシン科の魚とは容易に識別することが可能です。

マイワシの前鰓蓋骨。多数の隆起線が入る(赤い矢印)(提供:椎名まさと)

日本国内ではもっとも多く漁獲される魚類の一つといえ、1988年には448万トンを超える漁獲量がありましたが、平成に入ってからは不漁や漁獲可能量制度の導入により大きく減少することになりました。

刺身、焼き物、煮ものなどにして美味であるほか、缶詰や魚油に加工されたり、養殖魚の餌として利用されたりと非常に重要な水産資源です。

カタクチイワシ Engraulis japonica Temminck and Schlegel, 1846

カタクチイワシはニシン目の中でもニシン科ではなく、カタクチイワシ科という別の科とされている魚です。

カタクチイワシ科の魚の大きな特徴として口が非常に大きく、口の後端は眼の後縁をはるかに超えることが挙げられます。

実際にカタクチイワシの名前の由来は「口が大きく開き、下顎が上顎よりも短いのが目立つ」こと。漢字では「片口鰯」と書きます。

カタクチイワシ(提供:椎名まさと)

分布域は北海道~九州までの各地沿岸、沖縄県与那国島、海外では極東ロシアから香港、フィリピンなどに見られる東アジアの特産種です。

また、カタクチイワシ科の中には海域だけでなく淡水域で見られるものや、海と川を行き来する種も知られています。日本では10数種のカタクチイワシ科が知られていますが、九州以北の沿岸に普通にみられるのはカタクチイワシのみです。

変わった形のカタクチイワシ科

福岡県柳川で購入したエツ(カタクチイワシ科)(提供:椎名まさと)

カタクチイワシ科の魚の中には体の形が変わっているものもいて、中には全身が金色に染まるような種類や、胸鰭によく伸びた軟条をもつ種もいます。

日本では有明海とそれにそそぐ河川にのみ生息する絶滅危惧種エツもこの科のメンバーです。本種はとてもカタクチイワシ科とは思えない細長い体をしており、胸鰭に長い遊離軟条を持ちます。

エツ(カタクチイワシ科)の稜鱗(提供:椎名まさと)

また、この科の魚の多くは腹部に稜鱗をもちますが、さらに腹鰭の前後に稜鱗があるもの、腹鰭の前方にのみ稜鱗があるもの、腹部に稜鱗がないものがおり、同定のために重要な形質です。なお、科の標準和名になっているカタクチイワシは稜鱗を持っていないようです。

カタクチイワシは刺身や塩焼きでも美味しいですが、小型種であるため、丸ごと唐揚げにしても美味しい魚です。また稚魚は「しらす」でおなじみです。

ウルメイワシ Etrumeus micropus (Temminck and Schlegel, 1846)

ウルメイワシは従来はニシン科のウルメイワシ亜科とされてきたものの、近年はウルメイワシ科を復活させ、これに含めることが多くなりました。

眼はあつい脂瞼(しけん)におおわれており、死後眼が潤んで見えることから「ウルメイワシ」という名前がついたとされています。生鮮時は背中が鮮やかな青色をして美しいですが、目立つ斑紋はありません。

ウルメイワシ (提供:PhotoAC)

ウルメイワシの特徴は背鰭と腹鰭の位置関係で、多くの日本産ニシン科魚類では背鰭のすぐ下に腹鰭がありますが、ウルメイワシの腹鰭(赤い矢印)は背鰭基底の後端(青い矢印)よりも後方にあることにより、容易に見分けることができます。

従来ウルメイワシの学名はEtrumeus teres(DeKay, 1842)とされ、ひとつの種が世界中にすむものとされていたのですが、日本などアジア沿岸に生息するものは別種とされ、テンミンクとシュレーゲルが命名した Etrumeus micropus(Temminck and Schlegel, 1846)という学名が復活しました。

沖合底曳網で漁獲されたウルメイワシ(提供:椎名まさと)

また Etrumeus teres(DeKay, 1842)という学名も、現在は Etrumeus sadina(Mitchill, 1814)の異名とされているようです。なおウルメイワシ科はほかにギンイワシ属を含みますが、こちらも近年までは2種のみが知られていたものの、再検討や新種記載などもあり、現在では8種ほどが知られています(ただし日本に見られるのはギンイワシのみとされる)。

ウルメイワシはお刺身や塩焼きでも食することができますが、干物で食べられることが多いです。漁法は沿岸の定置網漁業や沖合のまき網漁業が中心ですが、沖合底曳網漁業などでも漁獲されます。

増えてきたぞ!カタボシイワシ

最近日本国内において増えてきたイワシの仲間に、ニシン科・サッパ属のカタボシイワシという魚がいます。基本的には南方性のニシン科魚類ですが、近年、急速にカタボシイワシが増えているという印象を受けます。

日本国内の分布域について2013年の『日本産魚類検索 第三版』では「九州南岸、琉球列島」とされていたのですが、現在は若狭湾および神奈川県横須賀以南の各地沿岸に見られるようです。

さらにSNSを見ていると、淡路島沿岸や大阪湾などでの生息も確認できました(一方、トカラ列島以南の琉球列島からは確実な記録がないとされた)。

カタボシイワシ(三重県南伊勢町)(提供:椎名まさと)

もともと日本においては稀な種であったようですが、1985年ごろから東シナ海で散発的に獲れるようになり、それから10年すると済州島周辺でまき網で多く獲れるようになりました(東シナ海・黄海の魚類史)。

さらに2000年代になると九州でも漁獲されるようになり、それ以降日本国内のあちこちで確認され現在に至るようです。しかし、反対にほかのイワシ類が減っており、そのニッチ(生態的地位)に入り込んだようにも思います。

また、同じサッパ属の魚としては日本においてはサッパがよく知られていたのですが、筆者は最近サッパを見ていません。もしかしたらサッパと置き換わるように、このカタボシイワシが増えているのではないかと思うのです。

同属のサッパ(兵庫県尼崎)(提供:椎名まさと)

実際、カタボシイワシが多量に漁獲されている鹿児島県本土沿岸においては、『大隅市場魚類図鑑』のなかでは「鹿児島県近海における産卵群が消滅したマイワシとの関係性も検討の必要があるものと思われる」とされています。

ニシン科としては異例? 凄まじく広い分布域

カタボシイワシの学名は従来 Sardinella lemuru Bleeker, 1853とされてきましたが、現在は地中海産のものをタイプ標本(レクトタイプ)とした Sardinella aurita Valenciennes, 1847と同種とされているようです。

そうなると、分布域は欧州の地中海・黒海から北米東海岸、そしてインド-西太平洋域におよび、ニシン科としては異例なほど、凄まじく広い分布域をもつということになります。そして、その勢力を日本の本州にのばしつつあるところなのかもしれません。

なお、日本産のサッパ属魚類としてはカタボシイワシとサッパのほか、オグロイワシ、ナンカイサッパ、ギンリンサッパ、シオサイイワシ、シマカゼイワシといった種が知られています。

従来は琉球列島などに生息していたオグロイワシは、九州以北でも確認されるようになりましたが、ほかの種はまだ九州以北においては見られないようです。

カタボシイワシを食べる

サッパ属のサッパは全長16センチ程度の魚ですが、カタボシイワシはそれよりも大型になり、全長25センチを超えるくらいの大きさのものも水揚げされています(Fishbaseによれば最大で全長41センチにもなるとされる)。

さらに体形も、サッパはやや体高が高く見えますが、カタボシイワシはスレンダーな見た目で、従来サッパとカタボシイワシは別の属と考えられていました(サッパ属とヤマトミズン属)。そうなると、サッパとは別の食べ方を考える必要がありそうです。

カタボシイワシの煮つけ(提供:椎名まさと)

カタボシイワシの見た目は先述したサッパよりも、マイワシやウルメイワシ、ヤマトミズンの仲間に似ています。イワシや、ヤマトミズン、ホシヤマトミズンなどは刺身や焼き物、揚げ物、煮もので美味しく食べることができるため、今回のカタボシイワシも煮もので食べました。

その味は非常に美味しいもので、サッパよりも身の量が多かったのも印象的でした。

これほど美味しいのであれば一般消費者にも届きやすいかなとも思うのですが、カタボシイワシについてはほかのマイワシやウルメイワシとは異なり知名度が低いため、売りにくいかもしれません。

試食コーナーを設けたりするなどの地道な工夫が必要になるでしょう。

(サカナトライター:椎名まさと)

謝辞と参考文献

今回の魚類の入手においては、石田拓治さん(長崎魚市場 マルホウ水産)、漁庄丸さん(三重県南伊勢町)、小野さとこさん(大阪府)にお世話になりました。ありがとうございました。

榮川省造(1982)、新釈 魚名考、青銅企画出版

小枝圭太・畑 晴陵・山田守彦・本村浩之(2020)、大隅市場魚類図鑑.鹿児島大学総合研究博物館

松原喜代松(1955)、魚類の形態と検索、石崎書店

中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.

下瀬 環(2021)、沖縄さかな図鑑、沖縄タイムス社

山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次(2007)、東シナ海・黄海の魚類誌.東海大学出版会

一般社団法人いわし普及協会

Search Fishbase(Sweden Mirror)

食品新聞-きょうは「いわしの日」

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