自閉症息子、小学校で博士キャラなのに「提出物0点」!?私立中進学で自ら見つけた解決策は
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
「提出物が0点」と小学校の先生に言われたとき
ASD(自閉スペクトラム症)のタケルは小さい頃から「博士キャラ」。
小学校では、泣き始めたら止まらなかったり、授業中に脱走したりといった問題行動も見られましたが、テストを受けるとほぼ完璧に覚えているので、「勉強ができる子」として周囲に認識されていました。
しかし、通知表はオール5とは程遠く、4があれば3もちらほらといった具合でした。
私としては、日々の生活上の困りごとを何とかするほうが優先で、通知表の成績にはあまり関心がありませんでした。
しかし、タケルは内心、「勉強が取り柄なのに、この成績では物足りない」と感じていたようで、ある日、先生に直接その理由を尋ねたことがあったそう。すると、先生は「提出物がきちんと出てこないから、その部分が0点なんだよ。ちゃんと出してね」と答えたのだそうです。
そもそも家に持ち帰っていない
提出物とは、宿題プリントやワークブック、授業ノートだけでなく、学校からのアンケートやボランティア活動の出欠確認なども含まれます。
それまでも私は、毎晩タケルのランドセルの中身を確認し、プリントがあればファイルにまとめ、返信が必要なものは本人に聞いて書き込んでランドセルに戻すという作業をしていました。
しかし、小学校4年生で通級指導教室に通うようになり、学校と頻繁に連絡を取る中で、タケルがほとんどプリント類を家に持ち帰っていないことが判明!問題は「家でやらない」「出さない」ことだけではなかったのでした。
行方不明のプリントは、学校の机の中に大量に溜め込まれ、学期末に学校で処分されていたようです。これは、発達障害のある子どもを育てる親にとって、あるある話かもしれませんね。
疲れて宿題ができないことも
ようやく家まで持ち帰った学習プリントも、無事に書き込んで提出されるとは限りません。
タケルは学校から帰宅すると、まずやるべきルーティンがあり、それが終わらないと宿題に取りかかりません。学校での疲労がたまり、泣いたり怒ったりして帰宅後にルーティンをこなし、お風呂に入ると、もう宿題をする気力が残っていないことも頻繁にありました。
冊子形式のワークブックは「埋めなければ」という意識があるらしく、比較的積極的に取り組むのですが、プリントは「やったら終わり」という感覚なのでしょう。どうしても後回しになってしまうのでした。
提出物が大事な本当の理由とは…?
小学校時代はそんな感じだったタケルですが、中学生になると「どうすれば提出率を上げられるか」を自分で考え始めました。
と、いうのも、進学した私立中学校では先生が「内申点が高くないと大学の推薦は出せない。内申点は成績表からほぼ自動集計され、テストの点数が5割、提出物の評価が3割、授業態度が2割。授業態度と提出物の評価は、よほどのことがなければ悪くはつけないので、テストを頑張れ」という指導をするようになったからです。
そして、タケルの提出率は「よほどの」レベルでした。
ASD(自閉スペクトラム症)のタケルには「ちゃんと」とか「きちんと」というフワっとした指導では響かず、「提出物の提出率が悪いと成績に影響する」と言われたほうが「悪いことだったんだ」と分かりやすかったみたいです。
苦手は克服するより避ける!?タケルの最適解
そして、タケルが考えた解決策はというと……「提出物は学校で仕上げてから帰る」という荒業!
提出物が多い時は「自習室に寄るので遅くなります。電車に間に合わないので迎えにきて」というメールが届くようになりました。学校までは高速を使っても30分以上かかり、往復で1時間半ほどの時間がかかる上に、高速代もかさみますが、これがタケルにとっての最適解。付き合ってあげることにしました。
タケルは「確実に持ち帰り、正確に書き、期日までに提出する」という苦手なプロセスを克服するよりも、「学校で仕上げて提出する」というシンプルな方法を選んだのです。正直私は「賢いな~」と思いました。
苦手なことを克服することは大切ですが、自分の苦手なことを避けて結果に到達する方法を考えることも時には必要だと思います。
この「提出物は学校でやる」というタケルのハックは、大学院生になった今でも続いています。
執筆/寺島ヒロ
(監修:森先生より)
提出物に関する体験談をありがとうございます。提出物を忘れるとどう困るのかが分かりにくかったのかもしれませんね。忘れると成績の評価に響く、と意識したら、どうしたらいいかを真剣に考える必要が出てきたのでしょう。
実は、「学力と成績が必ずしもリンクしない」という問題は、発達の偏りのあるお子さんに多くみられます。好奇心旺盛で勉強が好きでも、提出物や遅刻などの生活態度面で、学校での総合的な評価が下がってしまうという「もったいない」ケースが少なくないのです。
締め切りを守れなかったり、忘れ物をしてしまう、という場合も、決して自分を責める必要はありません。発達の偏りという特性から起きてしまうミスですから、まずは「ミスをしたらどのように困るのか」をしっかりと意識して、「ミスが起こる原因」→「ミスをしないような仕組み」を考えて実践していくことが大切です。
タケルくんは自分で解決策を考えて習慣化したということで、とっても素晴らしいですね。これからも、困難にぶつかるたびに、こうやって工夫して乗り越えていけるのではないかと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。