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エンジニア採用バブルの終焉で「ビジネスに強いエンジニア」が高収入を得る時代に?【久松 剛、Brandon.K.Hill、IT菩薩モロー】

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エンジニア採用バブルの終焉で「ビジネスに強いエンジニア」が高収入を得る時代に?【久松 剛、Brandon.K.Hill、IT菩薩モロー】

「もっといい条件で働きたい」「年収を上げたい」ーーエンジニアが転職を考える理由として、これは極めて自然な発想だ。

しかし、いざ転職を決断しようとしたとき、「どんな職種が年収アップに向いているのか?」「転職するなら、どんなスキルを磨いておくべきか?」といった疑問が浮かぶ人も多いのではないだろうか。

本記事では3名の識者の意見をもとに、エンジニアが年収を上げるために意識すべきポイントを整理し、今後さらに市場価値が高まり、高収入を狙える職種についても解説する。

※本記事は、過去エンジニアtypeに掲載された記事より抜粋して作成しています

目次

転職で年収アップを図るのは、もはや狭き門に必要とされるのは「どうすれば実現できるか」を考えるエンジニア技術を起点にビジネスの意思決定に関わるポジションへ

転職で年収アップを図るのは、もはや狭き門に

「転職によって年収を上げるのが当たり前だった時代は、もう終わった」そう語るのは、エンジニアのキャリア戦略に詳しい久松剛さん(@makaibito)だ。

久松さん:2015年のアベノミクスからエンジニア待遇が上がり始め、慢性的なエンジニア不足とDX需要、スタートアップ投資が最高潮に達した2022年にかけて、ITエンジニアの市場価値が急騰したのは事実です。

資本力に勝る国内メガベンチャーや外資系ITコンサル、またベンチャーキャピタルから多額の投資を引き出した直後のスタートアップには、2000万円を超えるような高額年収を提示することすら珍しくありませんでした。

しかしイケイケだったIT業界にもやがて陰りが見えはじめます。コロナ禍が終盤に差し掛かる2022年に入ると、急速な物価高による景気後退で、企業のIT投資やスタートアップ投資を鈍らせてしまったからです。

一時は天井知らずとすら思われたITエンジニアの年収だが、今では当時の熱狂がまるでウソのように冷静さを取り戻している。現在、転職による年収アップ幅はよくて1割程度(参照)、過半数はそれ以下の上げ幅か、現状維持に留まるような状況だ。

久松さん:ITエンジニアの採用バブルは2022年末に終わりました。じっとしているだけで、企業側から「好待遇で迎えたい」と、あなたのもとにオファーが殺到する時代は当面戻ってきません。

転職で年収アップを狙うのが難しい時代だからこそ「安易に転職に走るのはやめて、現職にいる段階で、できる限り社内評価を上げ、昇格・昇給をしておくべき」というのが私からの提案です。

大事なのは、採用する側の立場や気持ちに思いを馳せ、立ち居振る舞うことができるようになること。相手に自分の魅力や実績を伝える準備を怠らないことが、最終的に年収アップ転職を成功させる鍵なのです。

とはいえ、ITエンジニアの採用バブルが去った中でも、転職によって年収を上げたITエンジニアは多くいる。年収アップ転職を実現するポイントとは、一体何なのだろうか。その答えは、ぜひ久松さんの記事をチェックしてほしい。

「転職した方が年収上げやすい」は過去の話!それでも“年収アップ転職”をしたいエンジニアがやるべき三つの対策https://type.jp/et/feature/27057/

必要とされるのは「どうすれば実現できるか」を考えるエンジニア

エンジニア採用バブルがはじけた今、年収アップのためには「いかに市場価値を高めるか」が最優先事項となった。しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。

そもそも「市場価値」とは何を指すのか? 何を持って「価値がある」と判断されるのか?

この問いを考える上で、 「日本と米国のエンジニアの給与体系の違い」に目を向けると、一つのヒントが見えてくる。米国のテック業界やそこで働くエンジニア事情にも詳しいブランドンさん(@BrandonKHill)は、次のように指摘する。

ブランドンさん:米国のエンジニアが年収2000万円、3000万円もらえるのは、前提、優秀な人材だからです。できない人は採用しませんし、入社後にできないと分かれば解雇できるので給与設定を高くできるんです。

それと比べて日本は、初学者を一人前にしていく文化がベースにある。中途採用で経験者を迎えても、本当の実力は働いてもらわないと判明しませんし、能力が低いと分かったところで辞めさせることができません。

企業はそのリスク込みで給与設定しなくてはならないので、月給20万円、30万円なんていう下限設定になってしまう。それはそうですよね、ハズレを引いてしまった時のために会社へのダメージを最小限にしておきたいと考えるのは無理もありませんから。

ただ、近年では日本でも終身雇用制度の更改やジョブ型雇用の導入といった動きが見られるようになっており、今後は解雇に関する制度や価値観も米国に近づいていく可能性もある。

では、米国では「市場価値の高いエンジニア」とはどのような存在なのだろうか。

ブランドンさん:私の会社は日本企業向けのワークショップや研修を行っていて、その際に日本のエンジニアと接する機会も多いのですが、米国のエンジニアとの違いを感じるのが「どうすれば実現できるか」を考える力です。

例えば、日本のエンジニアとの会話でよく出てくるのが「理論的に無理です」という言葉。「このスケジュールでプロダクトを成長させるにはどうすればいいか」を議論している時に、技術的・時間的に障害になることを機械的に並べて「だから無理です」と結論づけるんです。

技術者だから理論的に考えるのは当然かもしれませんが、そもそも私たちは「どうすれば実現できるか」を話し合っているのに、「なぜできないか」を答えてしまう。これではクリエーティブな仕事はできないし、米国ならすぐにクビを切られます。

米国の優秀なエンジニアは「こうすればユーザーが使いやすいと思う」といったアイデアを積極的に出す。誰かに指示されるのを待つのではなく、自分の頭で主体的に考えて動くのだと、ブランドンさんは強調する。

ブランドンさん:言われた通りのことをやるだけなら、AIにもできる。生成AIならコードも書いてくれるし、修正を頼めば文句も言わずに作業してくれます。

エヌビディアのジェンスン・フアンCEOも「AIがコードを書くのでもうプログラミングを学ぶ必要はない」と発言していますが、少なくともコーディングスキルの価値が下がっていくのは間違いありません。

ではエンジニアはどこで価値を出すかといえば、アーキテクチャの全体像やプロダクトのコンセプトを考え、AIに指示を出して実現させることが仕事になる。そうなれば当然、デザインやユーザビリティといったエンジニアリングの周辺領域に関する知見やセンスも必要です。

さらには「このプロダクトを事業としてグロースさせるにはどうすればいいか」といったビジネス領域への理解もあれば、AIに置き換えられない価値の高い仕事ができるはずです。日本のエンジニアは甘すぎ? 「初学者への育成論」が米国からみると超不毛な理由https://type.jp/et/feature/27363/

米国の最新解雇事情から浮かび上がる「肩たたきされるエンジニア」の特徴【Brandon.K.Hill解説】https://type.jp/et/feature/26503/

技術を起点にビジネスの意思決定に関わるポジションへ

日本の雇用環境が米国的な価値観へとシフトする可能性が高まっている中、エンジニアが年収アップを目指すには「技術の専門性+ビジネス視点」 を兼ね備えた存在へと進化する必要がある。

そんな中、エンジニアのキャリア・転職に特化した情報発信で支持を集める、「IT菩薩モロー」こと毛呂 淳一朗さん(@it_bosatsu_moro)は、高収入が見込める「狙い目のIT系職種」として「ITコンサルタント」と「PM」を挙げている。

毛呂さん:2025年、最も高収入を見込める職種を挙げるなら「ITコンサルタント」を推します。

現代では多くの企業が、システムの力で自分たちのビジネスやサービスをいかに伸ばしていくかを日々模索しています。ただ、今のような変化の激しい時代では、社長や役員クラスですら確証を持てないケースは少なくありません。不確実性の高い状況の中で判断する際、「客観的に第三者から見たときのアドバイスが欲しい」「プラスアルファで、壁打ち相手が欲しい」というニーズは変わらず多いものです。

その点、ITコンサルタントは言われた通りにシステムを作るだけではなく、事業やサービスにどのような影響があるかを考慮した上で「意思決定」を行うポジション。事業やサービスへ影響力が大きい役割を担当する分、高収入を見込みやすい職種だと考えています。

毛呂さん:次にお勧めしたいのが、プロジェクトマネージャー(PM)を含むマネジメント系の職種。イメージとしては、7~10名以上のチームを管理し、125~150人月規模のプロジェクトを一人で運営できるレベルの人材です。

このポジションはさまざまな要因で年々希少価値が高まっており、高収入を期待できます。特にDX推進が急務の企業にとって、ITや業務フローを深く理解した上で関係者と適切なコミュニケーションが取れる人材は、非常にニーズが高い。顧客折衝や課題解決といったPMの役割は、DX推進の成功可否を握る重要な要素の一つです。

PMの年収は年々上昇し続けており、現在の最低ラインは800万円ほどですが、1200〜1500万円を提示する企業も増えてきました。フリーランスでは月150〜200万円(税抜)という単価も珍しくありません。2019年頃は、一定数の企業が600〜650万円ほどでPMを採用できていた状況を踏まえると、この4〜5年の間にPMの年収相場が150~200万円以上も上昇したことになります。

企業は、単にコードを書ける人材ではなく、「技術をどう活かすか?」を考え、意思決定に関与できる人材に高い報酬を支払うようになっている。今後、エンジニアに求められるのは「ものを作る力」だけでなく、「価値を生み出す力」だろう。

これを意識できるかどうかが、年収アップを実現できるかの分かれ道になるはずだ。

【稼げるIT職種2025】「年収800万円以上欲しいエンジニア」が知っておきたい、今狙い目の職種TOP4https://type.jp/et/feature/27534/

文・編集/今中康達(編集部)

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