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キャリアブレイク、期間やお金はどうした? 3人の経験者が語る「やって分かったメリット・デメリット」

りっすん

一時的に仕事を離れてキャリアを見つめ直す「キャリアブレイク」に興味はあるけれど、「空白期間があると転職に不利になるのでは」「貯金が少ないのでお金の不安がある」など、ハードルの高さを感じていませんか。

今回は、キャリアにおける選択肢として注目を集めている「キャリアブレイク」を経て復職・転職した経験を持つ3人の座談会を開催。

メリットはもちろんのこと、期間や金銭面への不安、転職の際のデメリットも含め、リアルな体験を振り返っていただきました。

***

<参加者プロフィール>

吉田さん(30代/仮名)

書籍編集者。大学卒業後、食品メーカーで経理として約3年、広告制作会社でコピーライターとして2年間勤務。その後退職し8カ月ほどのキャリアブレイクを経て、伝統工芸にまつわるメディア運営の仕事に転職。その後ふたたび転職して現職に。

山内さん(20代/仮名)

大学卒業後、メディアの営業担当として約2年勤務。退職して1年ほどのキャリアブレイク期間を設けた後、転職。現在は新卒で入社した企業に戻り、営業チームのリーダーとして働く。

花海志帆さん(30代)

フリーランスのMC・ナレーター。新卒で採用コンサルティング会社に入社し、6年間働いたのちに退職。会社員時代から副業で受けていた司会の仕事を継続しながら、半年ほどのゆるいキャリアブレイクを経て現職。

※座談会参加者のプロフィールは、記事公開時点(2024年9月)のものです

一度思い切って休まないと“次の道”が見えてこないと思った

勤めていた会社を辞めて、キャリアブレイクを選択した理由を教えてください。

吉田さん(以下、吉田) キャリアブレイク前は広告代理店でコピーライターとして働いていたのですが、仕事以外でインタビュー記事を書く機会があり「コピーライティングよりもインタビューの方が面白いな」と気づいたのがきっかけです。

悩んだのですが、数年間仕事のことだけを考えて過ごしてきた分、一度思い切って休んでみないと次の道が見えてこないなと考えて、ちょうど大きなプロジェクトが終わったタイミングで、転職先を決めずに会社を辞めました。

山内さん(以下、山内) 僕はもともと30歳を過ぎた頃に結婚して家庭を持ちたいと考えていたので「20代のうちに、自分のためだけに時間を使って自由に生きてみたい」という漠然とした思いを持っていたんです

新卒で入社した会社で2年間営業の仕事をしたことで一定のスキルは身に付けられたと感じていたので、26歳のとき、200万円ほど貯金が貯まったのを機に思い切って会社を辞めました。

花海さん(以下、花海) 会社員として働く中で、自分の専門性のなさに悩んだり優秀な後輩が自分より活躍しているのを見たりして「このまま今の会社にずっといていいのだろうか」という不安が徐々に大きくなっていくのを感じていたんです

そんなとき、祖父が脳梗塞で倒れたことで心の整理がつかなくなり、会社も休むことが増えてしまって。副業で司会の仕事を始めたタイミングでもあったので、思い切って会社を辞め、この先のことをゆっくり考えてみようと思いました。

ある程度の貯金が心の余裕につながった

転職先を決めずに仕事を辞めたあと、みなさんキャリアブレイク期間をどのように過ごされていたのでしょう。

山内 休み期間の記録を残しておきたかったので、ブログを開設して日々の日記をつけていました。最初の頃は本を読んだり内省をしたり、ぬか漬けを作ったり、ずっと弾いてみたかったギターを始めてみたりしながら、思うままに一日を過ごしていました。

吉田 ブログは私も書いていました! それから「いい進路が見つかるまではじっくり時間をかけてやりたいことを探そう」と考えていたので、自分の興味の赴くままに、とにかくいろいろなことを試していました

お花屋さんでブーケの作り方を教えてもらったり、自分で企画してWeb記事を書いてみたり、図書館に通ったりとかなり自由に過ごしましたね。

花海 コピーライティングからヘアアレンジまで、単発で受けられる講座やセミナーを探して受講し、会社員時代には時間がなくてできなかったインプットをしていました

そのほかにも、いくつか決まっていた司会の仕事に向けてレッスンをつけてもらうなど、最初の数カ月は猛勉強していました。その後は秋田で闘病していた祖父に会いに行ったり、ひとりでスノボに行ったりと、ゆっくりした時間を過ごしていましたね。

会社を辞めると安定収入が途絶えるので、お金の不安もあったのではないかと思います。キャリアブレイク期間中の生活費はどのように準備・工面していたのでしょうか。

吉田 私は本当になにも準備していなかったんですよね……。一応貯金はしていましたが大きな額ではなく、退職後に役所に相談に行き、失業保険をもらいつつ、とにかく節約して暮らしていました

山内 僕は退職時に失業保険のことを調べて書類も揃えてはいたものの、「自由に生きたいから退職」という自分のケースが制度の趣旨に沿っていないと感じ、申請はしませんでした。

もともとそんなに生活コストがかからないタイプなのと、退職を機に一度実家に戻ったこともあり、200万円ほど貯金があれば十分かな、と漠然と考えていました

花海 司会の仕事で月に3〜5万円の収入は得られていましたが、退職前に目標金額を決めお金を貯めていたので、基本的にはその貯金を切り崩して生活していました。

不安が大きかったので、お金関連の情報収集は必死にしましたね。失業保険の制度や申請方法についてはじっくり調べましたし、ハローワークに行ったり税務署の無料相談会などにも足を運んだり……。

なるほど。個々の性格にもよると思いますが、やはりある程度お金にまつわる情報を集めたり、貯金を持っておくことが安心感につながる面はありそうですね。

花海 そうですね。基本的に「人生なんとかなる」と思っているタイプなのですが、月数万円の収入と貯金のおかげである程度楽観的にいられたのだと思います

キャリアブレイクを経て、自分の「特性」が見えた

お休み中、みなさんは「次にやりたいこと」をどのように見つけていったのでしょうか。キャリアブレイク期間を振り返ってみて「してよかった」と思うことや、結果的に次のキャリアにつながったことがあれば教えてください。


吉田 休み期間中、焼き物作家さんの展示を見に行ってお話を聞いたり、いろいろな習いごとにチャレンジしたりしているうちに、自分は文章や言葉のほかに、生活を少し豊かにするような“手仕事”に関わるのが好きだな、ということが徐々に分かっていきました。

あとは、自分の好きなことや得意なことを知る上で、仕事に関係ないなんらかのコミュニティに所属してみるのは良いなと思いました

利害関係がない人と自分を比べることで仕事では見えなかった自分の長所が見えてきたり、「この人の前だと自分の性格のこの部分が前面に出るんだな」と気づいたりすることで、結果的に「どんな人と働きたいか、仕事をする上でどんな自分でありたいか」が分かると感じました。

山内 自分の得意・不得意を自覚するのは大事ですよね。僕は「時間ができたらいつかやってみたい」と思っていたことを手当たり次第に試してみた結果、自分の得意なこと・苦手なことがはっきりと見えてきました。

個人的には「僕、意外とできないことだらけなんだな」と気づけたのが良かったです。これまでは「試してみたらなんでもできるだろう」という漠然とした万能感があったのですが……文章を書いてみたり楽器を弾いてみたりしたことで、どちらも思っていたよりうまくできないな、と気づかされて。

かえって、今まで僕が仕事を通じてなんとなくできていたことが実は得意なことだったんだ、と浮き彫りになり「やっぱり自分には営業の仕事が合っているんだ」と再認識できました

花海 定番ではありますが、「やってみたいこと」をノートに100個書いて、上から順番にチャレンジしようとしてみました。結果的に全然思いつかなくて数個しか書けなかったのですが(笑)、じゃあこれからいろいろ見つけていこう、とポジティブに捉えていましたね。

頭が凝り固まっているとなかなか「したいこと」も思いつかないんだなと気づいてからは、本屋さんにふらっと入って、自分の興味の向くものを探したりもしていました。

それから、スキルアップの時間をじっくり取れたのはよかったですね。会社で働いていたときは目の前の仕事に常に追われ、スキルアップに時間を割くことがまったくできず自信もなくなっていく一方で……。さまざまな講座やセミナーを受講して新たなスキルが身についていくたびに、自己肯定感や安心感が増していく感覚がありました

しばらく休んでいると「ずっとこのままが良いな……」と思ってしまいそうですが、「そろそろ復職しよう」と考え始めたタイミングやきっかけを教えてください。

吉田 転職を決めたのはキャリアブレイクに入ってから5カ月ほどたった頃ですが、休み期間中も常に仕事の情報を集めてはいました。ハローワークに行ったり、気になる企業を見つけたら気軽に面談を申し込んでみて、経営者の方とお話ししたり。

その中で、転職サイトに掲載されていた伝統工芸にまつわるメディア運営の仕事を見つけ、「ここなら自分の好きな“手仕事”に関わる仕事ができそう」と思い、転職を決めました。

山内 僕は当初、数年間じっくりと自分のために時間を使おうと考えていたんです。でも、内省を続けるうちに、組織に所属してチームで働くことと、安定した収入を得ることへの執着が思いのほか大きいことに気づき、退職して9カ月ほどたったタイミングで転職活動を始めました。

転職サイトに登録しつつエージェントも利用し、結果的に復職を決めてから2カ月程度で次の仕事が見つかりました。

花海 私は半年ほど過ごしたあとで「心の充電期間が十分に取れたな」と感じたんです。その頃には他の会社に転職するのではなく、フリーランスのMCとして働きたいという気持ちが固まりつつあったので、「新しい仕事で十分食べていけそうだ」と家族に安心してもらうために、本腰を入れて営業活動を始めました。

「誰しもキャリアブレイクを選んだ方がいい」わけではない

休んでいる間、不安や焦りなどネガティブな気持ちを抱くことはありましたか?

吉田 私は「自分には何もできないのではないか」というネガティブな気持ちと「きっとやりたいことが見つかるはずだ」というポジティブな気持ちを行ったり来たりしていました。

自分の状況を素直にブログにつづったりもしていたので、知人や友人からおおむね応援してもらえていたことはありがたかったです。ただ、家族はきっと心配させてしまうと思い、次の仕事が決まるまでは、会社を辞めたことは内緒にしていました。

山内 僕も、仕事を辞めたことは家族には事後報告でしたね……。みんな驚きつつも、僕が意志の強いタイプであることは知っていたので、特に何か言われることはなかったのですが。

では、山内さんの場合はあまり不安になることは多くなかったのでしょうか?

山内 いえ、それがもう、ずっと不安で仕方なかったんです(笑)。SNSを日々チェックしては、一生懸命働いている同年代の友人たちと自分を比較して「僕、何もできてないよな」と思ってしまって。落ち込みそうになるたびに、あえてこういった期間を過ごしているんだから焦る必要はないんだ、と自分に言い聞かせていました。

花海 分かります、焦りますよね……。私は休み期間中、電車でスーツを着ている人を見かけるたびに、自分だけが社会から取り残されているような感覚に陥っていました。周囲には「会社辞めて大丈夫? 食べていけるの?」と聞いてくる人もいたので、いや、こっちが聞きたいよ! とずっと思っていました(笑)。

いま振り返ると、当時はなるべく働き方に対して柔軟な考え方を持っている人や、頭ごなしに他人を否定しない人とだけ会うようにしていました。家族や当時の交際相手(現在の夫)からは「もう決めたんでしょ、頑張って!」と背中を押してもらえたので、それは幸運だったなと思います。

「キャリアの空白期間は転職に不利」と言われることもありますが、会社員としてお仕事に復帰した吉田さん・山内さんは、実際に転職活動をしてみて、キャリアブレイクのネガティブな影響を感じましたか?

( http://f.hatena.ne.jp/blog-media/20240906091933 )
吉田 いえ、私の場合はそこまでネガティブな影響は感じなかったです。Webメディアの運営会社に応募したので、休み期間中に書いたブログやWeb記事を「成果」として提出でき、キャリアブレイク期間中に何を考えてどんなことをしていたか示せたことも一因ではないかと思います。

山内 僕も、IT系に絞って転職活動をしていたからか、理解のある企業が多かった印象です。なぜ空白期間があるかを面接官に聞かれた際は、休みを取った目的と背景を素直に話していました。

企業からすると「またすぐに辞めるのではないか」という部分がネックになるだろうなとは思っていたので、面接では「休みを経て、組織に所属する方が好きだと気づいた」とキャリアブレイクがあったからこそ気づいた「アピールポイント」を正直に伝えましたね

振り返ってみて、キャリアブレイクはみなさんの働き方や考え方にどのような影響をもたらしましたか?

吉田 Webメディア運営の仕事を経て、今は書籍編集の仕事をしていますが、「私はこの先も言葉を扱う仕事をしていくんだ」という覚悟はキャリアブレイクがあったから定まったと思っています。

なおかつ、さまざまな経験をしたことで「きっとこの先違う仕事でも食べていける」という自信を持てたことも、人生にプラスになりました。

山内 自分の強みを生かした仕事や、自分に合ったカルチャーの中で働くことの重要性を感じられたことが一番の収穫だったと思います。ただ、僕の場合はほかの1社を経て最初の会社に戻ってきたので、退職ではなく休職でもよかったのでは? という気持ちもあります。

とはいえ、人生の中で思い切ってこういった時間を取らなかったらいつか後悔しただろうし、休み期間があったからこそ今の仕事へのモチベーションがより高まったはずだ、とポジティブに捉えています。

花海 目の前の仕事から距離を置くことで、自分の特性に合った働き方を模索できたと感じています。家族との時間やプライベートの時間をより大切にできるようになりましたし、「ちょっと働き過ぎているな」と思ったときは仕事を入れない期間をつくるようにもなりました。

採用コンサルの会社にいた頃はバリバリ働くことを美徳だと思っていて、「休むのは抜け駆け」「休んだら周りに迷惑をかける」という思い込みがあったんです。キャリアブレイクを通じて、自分が休みが必要な状態にあると自覚できるようになったこと、自分に合った休み方に気付けたことは大きな収穫でした。

もしキャリアブレイクを検討している方が周囲にいたら、みなさんはどのような言葉をかけますか?

吉田 私は一人暮らしで、実家に帰る選択肢もありませんでした。だからこそ、身軽な一人暮らしであれば特に「どうにかなると思いますよ……!」と伝えてあげたいです。

もちろんお金への不安などから軽率に辞めたことを後悔するケースもあるとは思うのですが、私の周りも、思い切って仕事を辞めて自分を見つめる時間を取ったことがプラスに働いた、という人は多い印象です

日々忙しく働いていると、どうしても視野が狭くなってしまいがちです。いったんニュートラルな状態になってみると、自分の好きなものや新たな選択肢が見えてくることも多いのではないかと思います。

山内 たしかに、内省って一度立ち止まらないとなかなかできないので、自己分析の時間を設けることは大切だと思います。

ただ「辞めたい」という衝動は、業務量の調整や一時的な休職で解消されるケースもあると思うので、周囲にも相談しつつ、慎重に考えた方がいいのかなと個人的には思います。

花海 誰しもキャリアブレイクをした方がいい、というわけではないですよね。ただ、自分の中で「ここは譲れない」という軸を持っていると、仮に次のことを考えずに仕事を辞めたとしても、その軸に沿ってキャリアを検討できるのではないかなと。

周囲の信頼できる人の意見も聞きながら、自分の次の道を、焦らずに考えてみてほしいなと思います。

取材・文:生湯葉シホイラスト:二本松マナカ編集:はてな編集部

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