理解されない苦悩 「社会に戻りたくても戻れない」 課題解決に不可欠な企業の力
■静岡市の「ポコアポコ」 ボランティアでリトルベビーの支援
リトルベビーを取り巻く環境は確かに変わってきた。だが、解決すべき問題は少なくない。静岡市で活動するボランティア団体「ポコアポコ」の代表を務める小林さとみさんは情報発信の場や企業の理解を求めている。【全2回の後編】
【写真で見る】11月1日まで静岡県庁で開催中 リトルベビーの展示会に込めた想い
ポコアポコは現在、静岡県庁の別館21階にある展望ロビーで展示会を開催している。小さく生まれた赤ちゃん「リトルベビー」を育てる母親の声や医療関係者からのメッセージ、リトルベビーをサポートする企業の紹介やポコアポコを中心に作成した「リトルベビーハンドブック」など展示内容は幅広い。
県の協力を得た展示会は、リトルベビーへの関心や理解が少しずつ広がっている証とも言える。小林さんは「ここ数年でリトルベビーの環境は変わってきました」と話す。
しかし、課題は少なくない。展示の機会を1つ取っても十分ではない。今回の展示会は10月18日から11月1日までと期間は短い。県庁の展望ロビーに来る人も限られる。小林さんは県に感謝しながらも、悩みを明かす。
「スーパーや観光地の一角のように日常的に多くの人が訪れ、目に触れる機会が多い場所に展示できたら、リトルベビーに関心を持つ人が増えるのかなと思っています。ポコアポコはボランティア団体でメンバーや予算が限られているので、なかなか難しい面があります」
■活動費はメンバーの自腹 想いに賛同する企業を切望
今回の展示会も、ポコアポコのメンバーが展示に必要なものを自腹で購入している。大きな金額ではないと言っても、サークルの活動には当然お金がかかる。専門家を招いたリトルベビーを育てる母親向けの研修会や勉強会、国や県への要望など、活動を続けていかなければリトルベビーの支援や社会の理解は広がらない。
リトルベビーに限らず、少数派の人たちの立場や気持ちを想像できる社会は理想の形だろう。決して簡単ではない社会の実現に向けて、ポコアポコは20年近く歩みを進めてきた。必要なのは「想い」に共感してくれる仲間。賛同する企業が現れれば、強力な後押しとなる。小林さんは「リトルベビーを応援してくれる静岡県の企業さんが1社でも2社でもあるとうれしいですね。スポンサーとなる金額の大小ではなく、みんなで一緒にやっていけたらと良いなと思っています」と願う。
企業による支援を金銭面だけに期待しているわけではない。小さな赤ちゃんを出産した母親に共通する悩みに「職場復帰」の問題がある。早産になると産休や育休を前倒しで使い、育休明けの時期も予定より早くなる。ところが、リトルベビーには一般的な体重で生まれた赤ちゃんにはない苦労がある。自身もリトルベビーの双子を育てた小林さんが語る。
「小さく生まれた赤ちゃんは入院や療育の必要があります。子どもの成長がゆっくりなので、社会に戻りたくても戻れないお母さんがたくさんいるんです」
こうした実情を小林さんたちは国に訴えている。ただ、仕組みを変えるのは想像以上にハードルが高い。リトルベビーを育てる母親の育休期間を延ばすよう要望しても、期待する回答は返ってこない。それぞれの企業に判断は任されているのが現実だ。
■「リトルベビーについて学ぶ余裕ない」 保健師の環境改善も課題
精神的に母親をサポートする立場にいる保健師にも課題がある。人手不足の問題もあって、保健師がリトルベビーに関する知識を深める機会がなく、リトルベビーを育てる母親との接し方が分からない保健師が少なくないという。小林さんが言う。
「NICU(新生児集中治療室)で実習していない保健師さんは少なくありません。そうすると、リトルベビーのお母さんに対して腫れ物に触るように対応してしまいます。お母さんたちは敏感に気付くので、保健師さんへの不信感が大きくなります。お医者さんや看護師さんほどの知識はなくても、母親の言葉に共感してくれる保健師さんが増えてほしいですね」
小林さんは決して保健師を責めているわけではなく、仕組みの改善を求めている。自身が保育士をしていることもあって「今は保護者や園から発達障害の相談も多いので、保健師さんの業務内容は幅広く過酷だと思います。リトルベビーについて学ぶ余裕はないと感じています」と推し量る。
人口動態統計によると、日本では2500グラム未満で生まれる低出生体重の赤ちゃんの割合は10人に1人で、1500グラム未満は100人に1人となっている。子どもは社会の宝。出産しやすく、子育てしやすい環境を整える政策も大切だろう。ただ、今まさに支援が必要なリトルベビーと母親に目を向ける社会の実現が期待される。
(間 淳/Jun Aida)