見た目がすべて?【後編】容姿のみを評価する価値観と差別問題の具体的事例
世界各国で「ルッキズム」をなくそうという取り組みが進んでいます。その背景にはSDGsとのつながりも含め、さまざまな複合的な要素が絡み合っています。この記事では「ルッキズム」や「見た目問題」について、以下の4点について解説します。
前編 容姿のみを評価する偏った価値観と見た目問題 見た目重視や容姿差別の問題と社会の動き 後編 容姿や見た目を差別して問題となった国内事例 ルッキズムという社会課題にどう立ち向かう?
容姿や見た目を差別して問題となった国内事例
ルッキズムや見た目問題に対する意識を向上させようとの動きとは裏腹に、官民の責任ある立場の人たちが容姿や見た目を差別して問題になる事例も見受けられます。
例えば、大阪市にある冷凍宅配弁当のベンチャー企業「ナッシュ」の取締役が社内チャットで「デブの人は採用しないようにしましょう」と発言。その理由として、同氏は「仕事ができない確率が高いと考えており、かつ、権利主張が激しく、ナッシュと相性悪く双方不幸せな結果になると思っています」と述べたとされています。(※4)
また、麻生太郎・自民党副総裁が講演で、上川陽子外相について「そんなに美しい方とは言わない」「おばさん」などと発言(その後撤回)したことに対し、ジェンダー差別、ルッキズムだという批判が巻き起こったことは記憶に新しいでしょう。(※5)
さらにSNS上でも看護師がポストした「どうか、肥満体型の方、痩せてください」というコメントについて、共感のリポストが多いものの、中にはルッキズムだと批判する人もいました。
出典
※4 <チャット入手>NHKも紹介した宅食ベンチャー・ナッシュ取締役「デブの人は採用しないように」「権利主張が激しい」
※5 麻生氏発現に指摘された「ルッキズム」 米国での差別との闘いに源流
ルッキズムと向き合う女性芸人の想い
M-1グランプリ2016で決勝進出を果たし、活躍中のお笑い芸人コンビ「相席スタート」の山崎ケイさんは、2018年に初のエッセイ集『ちょうどいいブスのススメ』を出版しました。山崎さんが発信したフレーズは容姿に自信のない女性がいったん自分をブスと認めた上で、内面やオシャレなどで愛される魅力を高めようという“ポジティブワード”でしたが、「女性蔑視」「女性の自己肯定感を下げるもの」として厳しい意見が飛び交ったといいます。ルッキズムに敏感になるあまり価値観が「0か100か」になってきていると山崎さんは感じています。
ルッキズムという社会課題にどう立ち向かう?
外見にとらわれずに脱ルッキズム社会を目指すには、どうすれば良いのでしょうか?大切なことはすぐに善悪二元論で決めつけず、ルッキズムの本質や背景を知ることです。そうすることで、容姿に対する固定観念から少しずつ解放されるはずです。
スタイリストの小泉茜さんは、数年前にあるきっかけで性差別や社会課題に向き合うようになり、ジェンダーやボディポジティブに関する発信も積極的に行っています。ルッキズムを乗り越える視点として、小泉さんは「自分を知ることが大切だと思います。わたしたちは他者を満足させるために存在しているわけではないので、自分はどうしたいのか、どういうときに幸せな状態であるかを、意識的に振り返る時間を作るようにしています」と述べます。
また、日本社会では見た目で「若い」「年配」と判断されることがあり、若く見える人がより魅力的だとされることもあります。新見公立大学地域福祉学科講師の朴蕙彬(パク ヘビン)さんは、年齢に基づく固定観念、偏見、差別である「エイジズム」に対して問題提起をしています。
朴さんは「エイジズムはどの世代であっても被害者にも加害者にもなりうる。そこがこの概念をとらえづらくしている要因です。時に、自分自身でさえエイジズムの対象になりえます」と述べていますが、ルッキズムにも同じ構造が見え隠れします。
アイドルとして活躍するゆっきゅんさんは、「男らしさ」「女らしさ」について「自分の気持ちも目の前にいる人も、そもそもどんどん変わっていくもの…目の前にいる人に優しくしていればいい」と語ります。ゆっきゅんさんは「知識と創造力の両輪」が必要と言いますが、ルッキズムという社会課題に立ち向かうためにも欠かせない要素でしょう。
まとめ
もともとアメリカに源流をもつ「ルッキズム」という社会課題は、日本では「見た目問題」とも結びつき、独自の問題提起をしているように思います。ただ、誰にとっても相手を外見に全くとらわれずに見ることは不可能です。大切なのは、そのことを意識し、それがどのように差別や偏見につながるかを丁寧に議論していくことでしょう。