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ゴルフ場が守る自然、生物多様性|40年以上ゴルフ界に携わり、“緑化”を進める理事長の本音

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ゴルフ場に行ったことのある人であれば、その自然の豊かさ、その中で体を動かすゴルフの楽しさを味わったことでしょう。過疎化などにより山間地域で里山の荒廃が進むなか、しっかり整備されるゴルフ場は、かつての里山のように適度に管理された自然となり、生物多様性を守る存在にもなっています。
現在では“自然豊かな場所”としての認識もあるゴルフ場ですが、バブル期に多くのゴルフ場が建設された際には、“自然破壊の象徴”として多く報道され、人々のイメージにも残されていきました。

今回は、そんなゴルフ場のイメージを変えるための活動を行ってきた、公益社団法人ゴルフ緑化促進会(以下、ゴルフ緑化促進会)の木滑和生理事長(以下、木滑)にお話を伺います。ダンロップブランドで有名な住友ゴム工業株式会社で長年ゴルフ事業に携わってこられた木滑さんの視点をもとに、これまでのゴルフと環境問題の歴史、さらにこれからのゴルフ場×自然保護のあり方について考えていきたいと思います。

ゴルフ界の“環境意識”の変遷(1970年代~1990年代)

ーー住友ゴム工業のスポーツ事業で活躍されていた木滑さん。1979年の入社からゴルフの世界を見てきた視点で、今回は「ゴルフ×環境」というテーマでお話いただければと思います。

木滑)実は入社当時は別の事業を希望していたのですが、「スポーツに向いていそう」ということでスポーツ事業部のゴルフ担当に配属になり、そこから長く関わってきました。1970年代、第二次ゴルフブームと呼ばれる時期があり、その時期に多くのゴルフ場ができました。今でこそ“自然の中で行うスポーツ”とも呼ばれるゴルフですが、当時はビジネスチャンスが大きかったこともあり、“自然を壊してでも遊び場を作る”という意識が大きかったと感じています。山や森林を削ったり、谷を埋めてまで作ったゴルフ場もあったほどです。

公益社団法人 ゴルフ緑化促進会 木滑和生理事長

ーーゴルフ場と自然破壊というキーワードは、当時はものすごく強い結びつきを持って世の中に伝えられえていったのですね。

木滑)ゴルフ場開発だけでなく、芝や樹木を管理するための農薬など、世間からのバッシングの対象になっていました。そうすると、ゴルファーも肩身の狭い思いをします。業界として「ゴルファーが社会貢献できるような仕組みをつくる必要がある」という思いから設立されたのが、『ゴルフ緑化促進会』です。
ゴルフ場以外の場所の環境保護を目的としてゴルファーのプレーフィーから寄付を集め、活動を行うようになりました。

ーー自然破壊への罪滅ぼしのような意識もあってゴルフ緑化促進会は始まったのですね。

ホールインワン・アルバトロス達成記念に、被災地で桜を植樹。ゴルファーとしての達成が自然保護につながる。

「環境破壊」から「自然の調和」へ。ゴルフへの認識が変わってきた背景

ーーゴルフ場の意識や、自然・環境に対する意識もゴルフ緑化促進会発足時の50年前とは大きく変わってきていますよね。

木滑)そうですね。時代とともに、ゴルフ場は“自然との調和”をテーマにするようになり、「低農薬でどれだけ環境を傷めず維持することができるか」という取り組みも進んできました。

ゴルフ場以外の自然環境を見ると、過疎化などで山や森を守るために必要とされる伐採が行き届かず、放置されてしまっているところもあります。一方、ゴルフ場を経営するには、自分たちのエリアの自然を整備し、維持する必要があります。これが緑による盛んな光合成や土砂崩れ防止のための地盤強化につながり、「ゴルフ場が支える自然」として評価されるように変わってきました。

ーー周囲の変化に伴い、ゴルフ緑化促進会の活動にも変化はあったのでしょうか?

木滑)以前は植栽など、直接的な自然環境保護につながる活動が多かったのですが、現在では被災地支援や小学生への環境教育支援、少し変わったところでは国宝修理にも使用される漆の植栽など将来に向けての活動も増えてきています。

岩手県二戸市との共催で、漆うるわしの森での植樹祭を実施。同地の漆に関する伝統技術は、ユネスコの無形文化遺産として登録されている。

ーー2010年代頃から、SDGsへの意識向上も含めて急速に自然保護や環境保全への意識が高まってきたようにも感じていますが、そのあたりの影響はありますか?

木滑)1990年代頃から自然との調和、ゴルフ場を里山にしようという意識をもとにしたゴルフ場設計も増えてきていましたが、ここ数年SDGsや生物多様性という言葉が注目されるようになり、人々の意識もさらに高くなったように感じています。

実は、全国にあるゴルフ場をすべて集めると、大阪府ほどの面積になります。その面積のほぼすべてが緑だと考えると、大きなインパクトがあるなと感じますし、ゴルフ場の緑が日本にとって、地球にとって大事な緑の資源であるということが、わかるのではないかと思います。

ゴルフの持つ“環境面”の魅力をゴルファーに

ーー「ゴルファーが肩身の狭い思いをしないように」という理由もあったゴルフ緑化促進会の発足。木滑さんの考える自然の中で行うゴルフの魅力はどのようなところに感じますか?

木滑)「自然を楽しまないとゴルフじゃない」と考える人もいて、私も同意です。ゴルフは自然が身近なスポーツであり、肉体的な負担は少ないかもしれませんが、精神的に非常にいいスポーツだと思っています。さまざまな方々の人生の中で、自然に帰れる時間をゴルフが作れているのであれば、その産業に関わっている身として嬉しい思いはありますね。

ーー自然に触れるスポーツ、そして環境を守ることにも繋がっているスポーツという意識がゴルフに対して広がっていけばいいですね。

木滑)ゴルフ場自体がそうした意識を持つところが増えてきているように思います。環境保全・自然保護といった考え方とゴルフがしっかり結びつき、余暇のコンテンツがたくさんある中で、ゴルフをしたことがない方にも「環境保全につながるゴルフをしてみよう」と選んでもらえるようになればよいなと思っています。

自然災害で消滅した海岸林の再生、学校教育や仮設住宅の環境改善などの事業も行う。

ーーゴルフ緑化促進会としても、この50年で役割が変わってきています。

木滑)ゴルフ緑化促進会では、活動に賛同してくれているゴルフ場から寄付を集めてゴルフ場以外の場所の自然保護に役立てていますが、ゴルフ場自体の経営の厳しさもあり、その寄付分を“自分たちのゴルフ場の環境保護に使いたい”と思うゴルフ場が増えたのだと思います。もともとの思いや目的を成し遂げるための事業と考えると、今後の私たちのあり方も考えるときに来ているのかもしれないと思っています。

ーー今後、木滑さんご自身が実現していきたいことはありますか?

木滑)「ゴルフ場が自然環境を守っている」ということをもっと広めていき、自然を愛するゴルファーを増やしていきたいです。雄大な自然環境を“使わせてもらっている”という意識を持つゴルファーが増え、さらにゴルフをきっかけに、ゴルフ場以外の自然保護にも貢献しようという人が増え、私たちの活動に賛同する人が増えていくと嬉しいですね。

ーーありがとうございました!

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