京島『大国屋』で目を引くおでん“スカイツリー”! 形のみならず、手づくりの味わいにも注目
今回は墨田区京島にある『大国屋』の東京スカイツリーを模した揚げ蒲鉾を中心に、人気のおでん種の品々を紹介しよう。下町人情キラキラ橘商店街で営業を続ける『大国屋』は、個性あるおでん種を多く取り揃えている。中でも目を引くのが、同じ墨田区にそびえ立つ東京スカイツリーをかたどった「スカイツリー」だ。形のみならず、創業当時から続く手づくりの味わいにも注目したい。
バラエティに富み、手づくりの品が豊富な京島『大国屋』
墨田区京島は区の中央北側に位置し、空襲の被害が少なかったことから古い家屋が多く残っている。
下町人情キラキラ橘商店街は京島を代表する商店街であり、令和の現在も昭和の風情を色濃く残している。ほかの商店街と同様に、ここ数年で店舗の閉業が目立つようになったが、商店街を盛り上げようと若い世代の出店が相次いでいる。
2022年には「ヒルママーケットプレイス」というスーパーがオープンし、商店街はすこしずつ雰囲気を変えつつあるが、「下町人情」の名前のとおり人々の距離が近く、ぬくもりのある商店街であることには変わりない。
『大国屋』は商店街の入り口付近で営業を続けている。創業は1952年なので70年以上の歴史がある。かつて港区の芝あたりに「大国屋」というはんぺんの卸売店があり、そこで働いていた職人たちは各地で屋号を継いで独立した。
京島店の初代店主も芝から独立した職人のひとりで、二代目店主が経営を引き継いでいる。現在、東京で大国屋の名を持つ蒲鉾店はこの京島店と店主の弟さんが営業する柴又店のみである。
『大国屋』はあまり大きな店舗とはいえないが、バラエティに富んだ商品を展開している。まずは店頭で調理するできたておでん。12個に仕切られた鍋におでん種が所狭しと並んでおり、毎日注ぎ足しされた汁で煮込まれている。
メニュー表では28種類だが、その日、そのときによって入るものが異なるので、お店の方に聞いてみるといいだろう。なお、このおでんに使用されている濃縮和風だしも販売しているので、自宅で再現したい方は購入するといい。
調理用の揚げ蒲鉾は店舗中央に鎮座するショーケースに並んでいる。季節にもよるが、多いときで20種類以上が揃う。定番物を中心として、東京下町のおでんに欠かせないカレーボールや梅の形がかわいい紅生姜揚など個性にあふれている。迷ったときは、人気のかき揚げ、野菜揚、もやし揚を購入するといいだろう。
揚げ蒲鉾以外のおでん種も充実している。ちくわぶはパックされていない状態(通称ハダカ)のものが手に入る。はんぺんはお店の手づくりであり、東京でも珍しく貴重な商品だ。
寒い時期の限定で、ふくろ詰めも販売している。餅とキャベツ、うどんと豚肉の2種類があり、どちらも手づくりで非常においしい。
おでん種ではないが、煮こごり(煮凝り)も手づくりしている。はんぺんで使用されるサメの余った皮などを用いた冬季限定の商品で、以前は東京各地の蒲鉾店で販売されていた。現在手づくりしているのは数軒のみで、非常に貴重だといえるだろう。
そして今回注目のスカイツリーは東京スカイツリーの形をした揚げ蒲鉾だ。東京スカイツリーが開業した2012年あたりに開発され、10年以上販売されているベストセラーのおでん種となった。
揚げ具合による個体差はあるが、形状はスカイツリーそのもの。国産の青海苔が使用されているのは「ツリー」の名が由来だろうか。彩りも美しいが、特筆すべきはその香り。磯の風味が鼻を抜けてなんとも心地よい。すこし弾力が強めのすり身は噛めば噛むほど魚の旨味がにじみ出て、おでんだけでなくトースターなどで炙ってそのまま食べてもおいしい。
『大国屋』はスカイツリーだけでなく、個性ある揚げ蒲鉾が揃っている。一番人気のもやし揚は、すり身にたっぷりのもやしと唐辛子が入った食欲をそそる一品だ。
しゃきしゃきとしたもやしの食感に、ほどよい辛さの唐辛子がよいアクセントとなっている。すり身の厚さもちょうどよく、食べ応えがある。
二番人気のカレーボールは、他店ではあまり見られない生イカが混ぜ込まれている。オリジナルのカレー粉の香りが非常に食欲をそそる。
イカはくにくにとした食感が楽しめるちょうどよいサイズに刻まれており、口の中でカレーの風味と混ざり合う。さらに穏やかに全体を包み込む魚のすり身のおいしさが素晴らしい。1個単位で販売しているので、好みの量を購入するといいだろう。
三番人気はふたつあるが、今回はかき揚を購入した。桜エビと玉ねぎのスライスが混ぜ込まれた揚げ蒲鉾だ。もうひとつは長ネギ、人参、もやしが入った野菜揚で、こちらも野菜のふくよかな甘みが魅力の品だ。興味のある方はぜひ購入してみてほしい。
玉ねぎはしゃきっとした食感を楽しめる大きさにスライスされており、甘みと香りもじゅうぶん堪能できる。ほのかに香る桜エビの上品な香りも魅力的だ。
最後に『大国屋』のはんぺんも紹介しておこう。先代、そして芝時代の「大国屋」から受け継がれた伝統の技法でつくられたものであり、手づくりのものは東京で数軒しか残っていない。なお、はんぺんをつくる際に余ったすじ肉を使った魚のすじも手づくりしている。
ふわっとしながら、しっとりと質感のある細やかな舌触りに職人の技を感じる。臭みがなく上品でありながら、喉を通り抜ける際にしっかりとしたサメの旨味が感じられる。
東京スカイツリーは最近できたものとばかり思っていたが、開業してからすでに干支が一巡していることに気がついた。その間に東京は刻々と変化を続け、慣れ親しんだ風景もすこしずつ減りつつある。『大国屋』の手づくりする揚げ蒲鉾やおでんも当たり前のように手に入ると思っていると、ふとした瞬間に消えてしまうかもしれない。当たり前にあり続けてくれることに感謝しながら、足しげくお店に通って手づくりの味をすこしでも長く堪能したいと思う。
『大国屋』の基本情報
大国屋
東京都墨田区京島3-43-8
03-3611-5289
定休日:日
営業時間:10:00~19:30
取材・文・撮影=東京おでんだね
東京おでんだね
東京のおでん種・蒲鉾・練り物の魅力を紹介
「おでん種やさんでおでんを買って、家で調理して食べる」文化を盛り上げるべく、都内各地を奔走中。ビジネスでなく趣味でちまちま活動しています。