【実録】全日制?通信制?自閉症娘の大学選び。イマドキ!?な学園祭と体験授業に参加してみて
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
学園祭とオープンキャンパスで実感するそれぞれの「学びの形」
いっちゃん(ASD(自閉スペクトラム症)と睡眠障害あり)は現在高校3年生。大学進学を希望していますが、小中学校時代は特に朝の登校が難しく、高校は通信制を選びました。美術系への進路を目指しており全日制と通信制の学校を両方検討しています。
希望する4校のうち、全日制で昼間通学する形式の大学は2校です。
そのうちの1校は近畿地方にある芸術大学。比較的アクセスが良かったため、娘と直接足を運びました。
訪れた日は、学園祭とオープンキャンパスが同時開催されており、活気あふれる雰囲気!学生たちが制作した作品が展示されているコーナーでは、トークライブのような研究発表やクオリティの高い小物などの販売も行われていて、プロのアーティストのフェスのような盛り上がりでした。
在校生たちが日頃の技術を活かして制作した品々が商品として並べられているのを見て、娘は「こんなふうに身近なモノになった完成品が見られるのは良いね」と感動して、好きな絵柄のファイルケースなどをいくつも購入していました。
私自身も、ただ学生に課題通りに作品を作らせるのではなく、企画立案から制作、マネタイズの手法を学んで実際のお客さんの顔を見て販売するところまでのプロセスを一通り体験させていることが素晴らしいなと思いました。
遠方の大学で得た具体的なアドバイス
もう1校は東京近郊にある美術系の大学です。遠いので現地には行かず、Webでの説明会に参加しました。
東京の学校に進学すれば、いっちゃんにとっては知らない土地での新生活ということになります。睡眠障害のあるいっちゃんがあまり無理をせずに履修科目を取れるか、大学に障害のある学生に対する支援をどれくらい求められそうか、が私にとっては一番関心のあるところでした。
私たちが参加した説明会では、前半後半に分かれていて、前半では、先生方によるカリキュラムの概要や学校の特色についての説明と、実際の学生の活動風景や作品の紹介の短いムービーを見ました。
後半の個別説明会では受験を希望する学科の担当の先生と学生の支援をする部署のスタッフの方に時間を割いていただき、Zoomを介して直接お話しすることができました。
娘のこれまでの経緯……小中学校では毎朝の登校が難しかったことや、高校では通信制を選んだこと……を話し、授業の取り方を工夫すれば大学からは全日制でも通学できるのではないかと考えていることを伝えたところ、卒業要件や、特性を考慮したスケジュール設計についての詳しいアドバイスをいただけました。
実は兄もASD(自閉スペクトラム症)があり中学高校時代は遅刻常習犯だったのですが……「1限目の授業は取らないでなんとかなりませんか」と大学の障害学生支援課に相談したら「なんとか組みましょう!」と。おかげで4年間でするっと卒業できたのでした。
通信制大学でのオンライン体験授業
通信制の大学は説明会もWebで開催されます。昼間通う学校と同じく先生やスタッフの方による学習内容、学習の進め方やサポート、そして学費などについても説明がありました。
特筆すべきは、通信制大学にはオンライン体験授業があったこと!
受験を検討している人(高校生だけではなく一般の人も)を対象に、興味のある授業を期間中、いくつでも無料で体験できるというシステムになっていました。娘は「どの授業も興味しかない!」と言って、片っ端から授業を登録していました。
どの学校にもそれぞれの魅力があり、いっちゃんはまだ迷っている様子です。
私は以前から、子どもたちに「12歳になったら人生の選択に口出しはしない」と宣言していました。ピアノをやめたのも、大学に進学すると決めたのも娘です。もちろん「いつでも相談して」とは言っているものの、今回も娘は自分で情報を整理しながら決めるつもりのようです。
これを書いているのは12月の初め。残り時間もあとわずかですが、娘にとって納得のいく選択ができるよう、見守っていきたいと思っています。
執筆/寺島ヒロ
(監修:森先生より)
寺島ヒロさん、お子さんの進学先の情報収集についての体験談をありがとうございます!
さて、発達の偏りや睡眠障害を抱えていると、学校の理解が必要な場面も多々ありますよね。 大学選びは未来を大きく左右する決断ですから、情報収集はとても大切です。大学で何を学びたいのか、将来どんなことをしたいのか、親子でじっくり話し合いしていく必要があります。興味関心や強みを活かせる環境が良いことはもちろんですし、特性が強く出ている場合は、大学のサポート体制も重要になってきます。 発達障害や睡眠障害に対する理解があり、適切なサポート体制が整っている大学ですと、ストレスがなく通い続けることができますよね。大学に問い合わせて支援内容を確認してみるといいでしょう。
具体的に挙げると、睡眠障害があるのであれば、時間割を柔軟に組めたり、通学時間を短い場所に住むことができるか、寮はあるか、オンライン授業の体制が整っているか、学生支援体制や発達障害に関しての相談窓口はあるか、など確認してみるといいですね。 そして、オープンキャンパスに参加して実際の大学の雰囲気を感じることも大切です。お子さん自身が、そこに通っている自分をイメージできるかどうかが何よりも重要ではないでしょうか。
寺島ヒロさんの、お子さんの相談にのったりサポートはしても「人生の選択に口出しはしない」という姿勢、とっても素晴らしいと思います。 発達の偏りがありサポートが必要な場合、どうしても保護者の方は自分が協力してあげないとと思って助言をしすぎてしまうケースがあります。 大学進学は、自立に向けた大きな一歩です。進学という大事な選択は、お子さん自身がしていくことに意味があります。行き過ぎて過干渉になってしまわないよう、情報収集を手伝いながらも、お子さんを信じて見守りましょう。 これからも、お子さん自身が人生について真剣に考えて、自信を持って将来の道を選択をしていけるよう願っております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。