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「不登校の子ども」の親へ 鴻上尚史が助言 我が子が「学校に行きたくない」と言ったらどうすればよいのか?

コクリコ

不登校に迷う子どもと親へ。作家・演出家の鴻上尚史さんインタビュー第3回/全4回。我が子が「学校に行きたくない」と言ったら親はどうすればよいのか。

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近年、不登校児が増加すると同時に増えているのが「不安な親」です。「学校に行けない」我が子をどう見守ればいいのか。「行きたくない」と言う子どもの声にどう返事するべきなのか。スムーズに通学するよその子がうらやましく見えたり、夫婦で意見が合わずバトルになったり……、先が見えない毎日に「無理やり学校へ行かせないほうがいいとは聞くけど、じゃあどうすればいいんだよ!」と、不安と焦燥感でいっぱいになることも。

今の10代に向けて生きるヒントを記した本『君はどう生きるか』を上梓した、作家で演出家の鴻上尚史さんに、親の腹のくくり方を聞きました。

●鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)PROFILE
作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げ以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、俳優、映画監督、ラジオ・パーソナリティなど幅広く活動。『君はどう生きるか』(講談社)ほか、著書多数。

親が子どもをさらに苦しめるのはやめよう

これは何度でも繰り返し強調したいんですけど、学校に行けないことが人生の失敗につながるなんてことはまったくありません。不登校になったら将来にわたって社会的に失敗するなんてことはぜんぜんありません。

親御さんとしては、我が子が「学校に行きたくない」と言い出したり、実際に行けなくなったりしたら、大きなショックを受けるでしょう。その子ごとに原因や理由はさまざまでしょうけど、とにかく本人は今、そうせざるを得ない状況にあるんです。

何はさておき、我が子の切実な訴えを受け止めてあげてください。話を聞いてあげてください。

ひと昔前は、首に縄をつけても学校に行かせるのが「親の愛情」という考え方がありました。学校の側も「学校に来させることをめざすのが大前提」だった。今はまったく違います。無理に行かせても、いいことなんてない。文部科学省も7年前(2017年)に、不登校の児童生徒に対して「登校だけを目標にしない」という基本方針を発表しました。

学校に行けない、行きたくない我が子は、とても苦しんでいます。そんな我が子にとっていちばん大事なことは何か。

どう考えても「学校に行くこと」ではありません。まずは「苦しんでいる我が子を守ること」が、いちばん大事なんじゃないでしょうか。

ただ、大人は常にたくさんの邪念に惑わされます。子どものことを第一に考えたいと思っていても、「学校に行ってないと知ったら、近所や祖父母になんて言われるか……」なんてことが頭をよぎったりする。冷静に考えたら、そんなことはどうでもいい。だけど、大人は間違えてしまうんです。

つい、「学校に行けないなんて、恥ずかしくてご近所に顔向けできない」「このまま不登校になったら、私がおばあちゃんになんて言われるか……」なんてことを子どもに言ってしまう。残酷ですよね。そうやって、子どもを追い詰めてさらに苦しめてしまうんです。

子どもは一生懸命に戦っている 親も戦おう

父親は父親で、社会に適合することで勝ち抜いてきた自負がある人が多いので、学校に行かないことは、絶望的なつまずきだと思い込んでしまう。

「将来どうするんだ!」と言うばかりで、子どもの声に耳を傾けようとしない。心が悲鳴を上げている我が子を学校に無理に通わせて、どうしたいんですか。将来、ブラック企業でも我慢して勤め続けられる人間に育てたいわけじゃないですよね。

今、世の中には不登校をテーマにした記事や本や番組がたくさんあります。妻が勧めてもいいし、夫自身が救いを求めて探してもいい。そういうものを見て頭の中をアップデートしましょう。

勇気を振り絞って、自分の頭にこびりついている固定観念を疑ってみてください。それが我が子に寄り添う第一歩です。

学校に行かないことを選んだ子どもは、不安や自己嫌悪やプレッシャーや、いろんなものと一生懸命に戦っている。親も一緒に戦わなくてどうするんですか。

世間体なんて気にすることはありません。近所の人が「おたくのお子さん、いつも家にいるわね」なんて詮索してきたら、「あら、そうですか」なんて適当に愛想笑いしておけばいいんです。

おじいちゃんやおばあちゃん、つまり自分たちの親世代の考えを変えるのは簡単ではないかもしれない。いくら話しても話が通じなくて、「育て方がいけないんだ」「甘ったれてるだけだ」なんて言ってきてこっちが消耗するばっかりだったら、しばらく縁を切りましょう。それもまた、我が子と自分たちを守るための戦い方です。

不登校になった初期は、親もですが、本人はそれ以上に大きなショックを受けています。教科書も見たくない、勉強っぽいことをする気になんてなれない状態かもしれない。

一日中ゲームばかりしていたとしても、僕はぜんぜんアリだと思う。心が骨折している状態で無理をしたら、余計に悪化して、取り返しがつかないことになります。

親御さんは、しばらくのあいだはリハビリ期間だと思って静かに見守りましょう。

これは子どものキミに伝えたいんですけど、そろそろ心のエネルギーがたまってきたなと思ったら、教科書を開けてみてもいいし、興味のある本を次から次に読んでみてもいい。今はネット配信という便利なものがあるので、一日に1本ずつ映画を観ることだってできます。

いちばんもったいないのは、「今日も学校に行けなかった」「またみんなに遅れてしまう」と後悔ばかりして一日が終わってしまうこと。

後ろ向きな気持ちで日々を過ごすんじゃなくて、今日はこれができた、明日はこれをやってみようと前向きに過ごしてほしい。そうすれば得るものは必ずあります。

「悩む」と「考える」の違いを知っておこう

親御さんに知っておいてもらいたいのは「悩む」と「考える」は違うんだっていうこと。

我が子が学校に行けなくなったら、まずは悩むと思う。だけど「困った困った」とアワアワ悩んでいるだけだと、何時間やってても一歩も先に進みません。疲れるばっかりです。

だけど、考えることを始めると、とりあえず次に何をすればいいかが見えてくる。学校に行けないならフリースクールを探してみようか、フリースクールってどうやって探せばいいんだろう、ネットで調べるだけじゃなくて本屋さんに言ってみよう……とかね。

そうやって調べても、フリースクールには行きたくないと言うかもしれない。じゃあ、家庭教師をしてくれる人を探してみようと思ったり、いや今はリハビリ期間だから、そういうことはしないでしばらく様子を見ようと判断したり。

「悩む」に没頭していると自分を見失って暴走しがちですが、「考える」の場合は自分をちゃんと冷静に見ることができます。

子どものキミも「悩む」と「考える」は違うんだと知っておいてほしい。悩んだところで、後ろ向きの発想になるばかりで出口は見えてきません。考えることができれば、次にやれることややりたいことが見えてくるはずです。

今、学校がすっかり息苦しい場所になってしまった。行きたくないと感じる子がどんどん増えているのは、無理もないんです。子どもが悪いわけじゃない。むしろ、ちゃんとした感性を持っている子ほど、学校に拒絶反応を示すんじゃないかと僕は思ってます。

だから親御さんも、我が子が学校に行けなくなったからといって、悲観する必要はまったくありません。「行きたくない」と言えた勇気や「行かない」という選択した決断力を高く評価してあげましょう。

親バカになっていいんです。我が子を心から信じて、我が子を誰よりも力強く応援できるのは、親の役目であり特権なんですから。

取材・文/石原壮一郎

現代を生きる中・高校生の「君」に向けて鴻上さんが「本当に役に立つアドバイス」を詰め込んだ『君はどう生きるか』(講談社)。大人もハッとさせられる一冊。

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