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王侯貴族を魅了した華麗なる磁器 ― 渋谷区立松濤美術館「セーヴル フランス宮廷の磁器」(取材レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

中国や日本の磁器に憧れた西洋で開発された、フランスのセーヴル磁器。ポンパドゥール侯爵夫人とルイ15世の支援を受け、セーヴル磁器はヨーロッパ諸窯に大きな影響を与え、繊細な絵文様と豪華な金彩を特徴とする作品が生み出されました。

セーヴル磁器は上層階級向けに限定生産され、現存数が限られているため、日本ではその魅力にふれる機会が少なかったものの、近年、国内で優れたコレクションが形成されています。

国内の名品を通じて、フランス宮廷を彩ったセーヴル磁器の魅力を紹介する展覧会が、渋谷区立松濤美術館で開催中です。


渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」会場入口


セーヴル窯は、その前身が1740年頃にヴァンセンヌ城で創設され、1756年にセーヴルへ移転、1759年にはルイ15世の全額出資により「王立磁器製作所」となりました。フランス王の手厚い支援のもと、高品質な磁器が生み出されました。

この時期の作品には、精緻な絵付や軽やかな色彩、優雅な曲線などロココ美術の特色が表れています。モチーフには花や鳥、天使、田園風景の中の恋人たちなどが好まれ、ポンパドゥール侯爵夫人が愛した画家ブーシェの影響も色濃く見られます。

セーヴル窯は18世紀フランスの洗練された美を象徴する存在となりました。


渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第1章「ヴァンセンヌからセーヴルへ ーポンパドゥール侯爵夫人の夢一」

渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第1章「ヴァンセンヌからセーヴルへ ーポンパドゥール侯爵夫人の夢一」 《色絵金彩人物図花生一対》1760年、Masa’s Collection


ルイ16世はセーヴル磁器の最大の支援者で、王宮の装飾や贈答品に多く用いました。この時代、磁器はポンパドゥール時代の様式を引き継ぎつつ、マリー=アントワネットの影響でより軽やかに変化し、同時に新古典主義の影響も強まりました。

また、1773年には硬質磁器の製造にも成功し、以後は軟質磁器と併せて並行して生産されました。


渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第2章「マリー=アントワネットの宮廷で ー王立磁器製作所の洗練と萌芽一」

渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第2章「マリー=アントワネットの宮廷で ー王立磁器製作所の洗練と萌芽一」


フランス革命でセーヴル窯は存亡の危機に直面しましたが、1800年にアレクサンドル・ブロンニャールが所長に就任し、窯の近代化を進めました。軟質磁器の生産を中止し、効率的な硬質磁器の生産へ転換しました。

ナポレオン皇帝もセーヴル磁器を贈答品として活用し、ジョゼフィーヌやマリー=ルイーズも愛用しますが、1847年にマリー=ルイーズとブロンニャールが死去。セーヴル窯の一時代が終わりを迎えました。


渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第3章「マリー=ルイーズとナポレオンの時代 一改革とアンピール様式一」

渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第3章「マリー=ルイーズとナポレオンの時代 一改革とアンピール様式一」 《青地白花蘭図大壺一対》1868年、個人蔵


18世紀中期、ヴァンセンヌで開窯された磁器は、カップ&ソーサーの誕生を意味し、西洋独自の飲食器文化が形成されました。

町田市立博物館の河原勝洋コレクションには、ヴァンセンヌとセーヴルのカップ&ソーサー約110点が収められ、西洋の飲食器文化の発展が示されています。これらは、実用品としてだけでなく、社交や自己演出のための美術品としても重要な役割を果たし、時代の流行を反映しています。


渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第4章「カップ&ソーサーでたどるセーヴル ヴァンセンヌから現代まで 一河原勝洋コレクションー」

渋谷区立松濤美術館「妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器」 第4章「カップ&ソーサーでたどるセーヴル ヴァンセンヌから現代まで 一河原勝洋コレクションー」


この展覧会を通じて、セーヴル磁器がいかにして時代の美と文化を象徴する存在となったのか、その魅力を再確認できる貴重な機会です。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年4月4日 ]

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