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「あなた、助けてくれない?」弁当配達員の私が見た、1人暮らし高齢者の過酷な現実【体験談】

シニアカレンダー

数年前、知り合いから頼まれたのをきっかけに、1人暮らし高齢者向けの弁当配達パートを始めました。私自身50代で、同居している80代の義両親の衰えも気になるところです。また、遠方の実家では、これまた80代の母が1人暮らし。どちらもまだ介護が必要な段階ではないものの、この先に不安を感じる中、私は弁当の配達を通じてさまざまな「1人暮らし高齢者」と出会いました。仕事を通じて「1人暮らしの高齢者」の暮らしぶりを垣間見た、弁当配達員の体験談です。

大きなお家の奥様、M本さん

私がパートに出ることになった高齢者向け弁当の配達事業では、「1人暮らし高齢者の生活見守り支援」も担っていて、配達員が配達先の高齢者の基本情報をある程度把握しながら対応することになっていました。

私が配達を始めたころに出会った、M本さんは、近年夫を亡くされて1人暮らしになった80代の女性。ケアマネジャーさんからは、認知症の症状が見られるとの情報が寄せられていました。

M本さんの家は、昭和期に開発された住宅地の奥地に佇む大きなお家でした。まず、立派な和風門戸に驚かされました。弁当を手に、カラリと扉を開けて玄関へと進みます。呼び鈴を押すと、「はあい、今出ますよ」とおっとりとした声が迎えてくれました。玄関内部は広く、M本さんは膝をついて、「いつもありがとうね。助かるわ」と両手で弁当を受け取ってくれました。体はまだしっかりしているようでした。

弁当をお渡ししながら少しずつ言葉を交わすようになりました。あまり認知症の兆候は感じられず、上品な家庭の奥様といった雰囲気でした。

次第に様子が変化して…

しかし、配達を重ねるうちに、変化が見られるようになりました。立派な和風門戸に鍵がかかって入れない時があったり、呼び鈴を押しても反応がなかったりなど、弁当を手渡せない日が多くなりました。散歩に出ていたとか、ヘルパーさんと買い物に出かけていたとか、いろいろなパターンが考えられるので、そこは臨機応変に対応して弁当配達を続けました。

そして真夏のある日。玄関の呼び鈴を押すと、インターホン越しに「……ずっと熱が出て苦しくて。あなた、助けてくれない……?」と弱々しい声が。

新型コロナ対策が必要だった時期でもあり一瞬躊躇しましたが、「M本さんの一大事かもしれない」と、弁当配達店の店長に了解を取り、家の中に入りました。

ゆったりとした玄関を進んで居間に入ると、広い居間の中央で布団の中にM本さんが横たわっていました。「M本さん、大丈夫ですか?」と声をかけ、私は意識の具合や熱の有無をたしかめていきました。
「私ね、熱があるみたいなのよ」と、会話はできるので緊急性は高くなさそうだと思いました。ひとまずほっとしたものの、改めて周りを見ると、エアコンのスイッチも入っておらず、部屋はかなり暑い状態でした。

布団は冬布団で周りには処方された薬を入れたビニール袋が20個近く並んでいました。飲み物は見当たりません。熱中症の可能性もあると思い、すぐに冷房を入れ、台所から水を運び、飲んでもらいました。

布団の回りに並ぶ薬の袋

「あなた、お医者様に電話してくれる? 番号がわからなくて……」と言うM本さんの頼みで、かかりつけ医に電話をし、M本さん本人と話をしてもらいました。アドバイスを受けているのを見届け、私は次の配達先へ向かいました。M本さんは、弁当店の店長から連絡した県外在住の息子さんが手配し、翌日入院したそうです。

その後、入院したままなのか、施設に入られたのか、息子さんのところへ行かれたのか、弁当配達の依頼はなく、M本さんの経過はわかりません。一介の弁当配達員が知る由もありませんでした。ただ、あの日M本さんの家の中で見た光景は、私の心に残りました。

大きなお家の広い居間の真ん中に布団を敷き、エアコンもつけずに冬布団に寝ていたM本さん。布団の周りに並んだ薬のビニール袋。体温調整や服薬管理ができない状態だったことがわかります。台所には、大きなキャビネットがいくつもあり、アンティーク調の食器類がたくさん並んでいました。過去に多くの家族やお客様と、にぎやかな時間を過ごされていたのだろうと思いました。しかし、手前のどっしりとしたダイニングテーブルの上は、食べ残しや洗われないままの食器、郵便物の山で埋め尽くされていました。玄関でのやりとりだけではわからない、荒れた暮らしぶりがそこにありました。

まとめ

M本さんの生活には、弁当配達時に玄関先でやり取りするだけではわからない実状がありました。日ごろはケアマネジャーやヘルパーの支援を受けながら、どうにか1人で暮らしてきたM本さん。認知症を患いながらも、頑張って暮らしてこられたのだと思います。私は、遠方の実家で1人暮らしをしている高齢の母のことを思いました。頭も足腰も元気ですが、いつまでもそうとは限りません。血圧の薬だけは飲んでいますが、ちゃんと飲めているのか、部屋で熱中症になっていないか……。いろいろ気になり、その晩電話をかけてみました。明るい母の声を聞いてひと安心し、久しぶりに長話をしました。配達先で出会う高齢者の方々、私はいつもその向こうに、自分の親の姿を感じます。

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。

著者:名和なりえ/50代女性。自身も実の親や義親の介護をしながら、高齢者向け弁当の配達のパートをしている。
イラスト/おんたま

※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年5月)

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