子どもの嘘に隠れたメッセージとは?「嘘つきな子」にしないための5つの対応【公認心理師監修】
「今日は宿題が出ていない」「頭が痛い」……気になる子どもの嘘の裏には何が隠れているのでしょうか。なぜ何度も嘘をついてしまうのか、親がどう対応すれば嘘がなくなるのか、公認心理師の佐藤めぐみさんに伺いました。
子どもの嘘に隠れた10のメッセージ
子どもがつく嘘には、以下のようなメッセージが隠されています
➀叱られたくない、罰則が怖い
例:「おもちゃをこわしたのは自分じゃない」
②まわりによく思われたい
例:「(頼まれた用事を)やっておいたよ」
③ほしいものを手に入れたい
例: 「たくさん勉強したからゲームを買って」
④自分が一番得をしたい
例:「自分はまだ1個しか食べていない」
⑤できればやらずに済ませたい
例:「頭が痛いから宿題ができない」
⑥注目を浴びたい
例:「 ( 行っていないイベントに)昨日行ってきた」
⑦空想と現実が混じってしまった嘘
例:「明日新幹線に乗るんだ」
⑧まわりに心配をかけたくない
例: 「 (本当は痛かったけれど)大丈夫、大丈夫」
⑨優しさや気遣い
例: 「 (本当はあまり気に入らなかったが)うれしい」
⑩サプライズのため
例: 「 (サプライズパーティーを準備しているのに)何も知らない」
幼児期には、⑦に挙げた空想(願望)と現実が混じっているような嘘もありますが、小学生になると自然とそうした嘘は少なくなっていきます。 気をつけたほうがいい子どもの嘘は①から⑥までのような嘘です。
➇~⑩のような優しさから来る嘘は、ある程度は大人の世界でも許容できるもの。本人がひどく我慢しているわけではなければ、あまり気にする必要はないと思います。
このように、嘘にはいろいろな種類がありますが、小学生の嘘で最も多いのは、➀のような「自分を守るための嘘」。
保護者のかたがちょっと確認をすれば、すぐわかってしまうような「その場しのぎの嘘」ですが、これは自己防衛的にとっさに口から出てしまうものです。衝動的で計画性はないのですが、放っておくとくり返してしまう可能性があります。
また、⑤のように体の不調の訴えが伴うものも真偽が微妙で、注意が必要です。
小学生の嘘で気をつけたいこと
嘘は「成功体験」としてクセになる
嘘には学習性があって、経験から学ぶことが多いものです。嘘に触れる機会が少なければ子どもはほとんど嘘をつきませんが、嘘に触れる機会が多い、つまり「嘘の場数」が多いと、「嘘によってその場をしのぐことができた」という心理的報酬を獲得することになります。
嘘をつく年齢のピークは「18歳から20代の最後くらいまで」という研究結果があります。この時期になると計画性が高い嘘をつけるようになり、その発達に従って周囲に与える実害も大きくなっていきます。
小学生の嘘は、まだまだ稚拙だったり、計画性がなかったりするのですが、「成功体験」が増えることで、嘘をつくメリットを知り得る時期だとも言えます。
小学校中学年くらいまでの嘘は、まだ低いレベルのものですが、学習性が出てきているため、この時期に嘘をつくクセをつけないことが大事です。
他人を陥れるような嘘は要注意
知恵が回るようになる高学年になると、他者を陥れるような「悪意のある嘘」も出てくるので要注意。
例えば、ライバル関係にある友だちに「 (本当はあると知っているのに)明日のテストはなくなったよ」などと、わざと言うこともあります。
「相手を困らせたい」というはっきりした意図が見える嘘は、自己防衛的な嘘とは違う、攻撃的な嘘です。こうした嘘に対しては、事態が悪化する前に大人が早めに声をかけて対処する必要があります。
「体の不調」の訴えは嘘なのか?
ピアノや英語などの習い事や塾などの前に、子どもが「頭が痛い」「おなかが痛い」などと言ってくることがあります。 体の不調の訴えは、その子にしかわからないので信じるしかないところもあり、最初のうちは本人の希望通り、休ませる場合が多いと思います。でも、習い事や塾の前に何度も不調を訴えてくる場合は、仮病の疑いも出てくるでしょう。
ただ、大人でもそうですが、緊張するような場面などでは体の状態がいつもとは違うことがあり、なまじ仮病とは言い切れない場合もあります。
そんなときは、保護者のかたが即座に仮病だと決めつけず、「熱を測ろうか」「お医者さんに行こう」などと言って、お子さんの反応を見てみましょう。
子どものほうも多少の罪悪感があるため、「それほどじゃない」と言ってくることがあります。そうしたら「じゃあ、具合が悪かったら帰ってきていいから、(習い事に)行くだけ行ってみようか」と誘い、行けたらほめてあげるとよいでしょう。
「行ってみたら大丈夫だった」「行けたらほめられた」という経験を重ねることで、徐々に嘘のような本当のような「体の不調」から解放されていくお子さんもいます。
「嘘つきな子」にしないための保護者の5つの対応
「平気で嘘をつく子になってほしくない」というのは、すべての親御さんに共通する気持ちだと思います。それでは、どうすればお子さんが嘘をつかないようになるのでしょうか。
子どもの嘘に効果的な親の対応について5つ紹介します。
1 犯人探しをしない
子どもが嘘をついてしまう原因に、「親のファーストアクションがよくない」ということがあります。親の反応が子どもの嘘を誘発していないか、気をつける必要があるのです。
例えば、そこに一人しかいないのに「床に水がこぼれていた」など、その子がやった可能性が高いような状況の時に、「だれがやったの?」などと犯人探しを始めてしまうことはないでしょうか。
子どもはそうした親の追及の言葉を怖いと感じるのです。そこで、叱られるのを避けたいあまり、「知らない」「自分じゃない」などと嘘をついてしまいます。
こんな時は、犯人探しをするのではなく「一緒にぞうきんで床をふく」など、まずは問題解決のアプローチをするといいのです。 そうしているうちに、「ぼく(わたし)が水をこぼしちゃった」などと自分から言えるお子さんもいます。その場合は「自分から言ってくれてありがとう」とほめてあげましょう。
2 過剰反応をしない
お子さんが宿題をしていないのに「もうやった」と言い、それが後で嘘だとわかったとき、「どうして嘘をついたの?」「嘘をつくような子に育てた覚えはない!」などと責め立てたことはないでしょうか。
本来は「宿題をしていない」ことのほうが問題なのに、親が嘘に飛びついて過剰反応をすることも、子どもの嘘の誘発する要因になります。親が「嘘をつくのは悪いこと」と嘘にばかり注目してしまうことで、かえって子どもは、叱られまいと自己防衛のために嘘をついてしまうのです。親が過剰反応をせず、冷静に対応することが大切です。
3 嘘をつかなくてよい仕組みを作る
そもそも、小学生の嘘は、その場しのぎの衝動的なもので、簡単にばれてしまうことが多いです。
例えば宿題の確認は、やった後に必ず見せてもらうことで、嘘をつく必要がなくなります。
ランドセルや荷物に明らかに他人のものが入っているのを見つけたら、穏やかに「これはどうしたの?」と聞いて、子どもが素直に話せる雰囲気を作ります。
お子さんの嘘を未然に防ぐために、親が事前にうまく立ち回るようにするのです。このように、保護者のかたが、お子さんが宿題をしているかどうかや、ふだんどんな言動をしているかによく目を向けていれば、子どもが嘘をつく必要はなくなるのです。
4「正直であることは素晴らしい」と教える
「嘘をつくと痛い目にあうよ」という教えより、「正直であることは素晴らしい」という教えのほうが効果的であるということは、これまでの研究でもわかっています。
親は危機感をあおって子どもを動かそうとしがちですが、ほめることのほうがインセンティブとなって学習効果が高まるのです。
ですから、一度は嘘をついてしまったとしても、後から正直に言えたら「よく言えたね」「ちゃんと言ってくれてありがとう」とほめてあげるよう心がけましょう。そうした親の姿勢により、お子さんは「嘘をつくのはよくないことで、正直に言うことはいいことなんだ」と学んでいきます。
とはいえ、保護者の方がお子さんの嘘に躍起になっていると、とてもそうした気持ちにはなれないものです。悪循環に陥る前に、家庭内で安心して話しやすい雰囲気を作ることも重要です。
5 嘘がダメな理由を説明し、模範行動をほめる
お子さんが一度嘘をついた後、「きつく言い聞かせている」という親御さんはよくいらっしゃいます。それでも二度、三度とくり返ししてしまうのはなぜでしょう。子どもの行動はリモコンのように思うようにはコントロールできないもの。「きつく注意する」「こてんぱんに叱りつける」のは、親の怒りの感情をぶつけているだけで、子どもにとって効果的ではないのです。
一度で直らないときは、くり返していねいに理由を説明することで、理解が深まっていくケースも多く見られます。「次に同じことをしないのが大事」と伝えましょう。
また、家で模範行動を取った時にほめることも大切です。
例えば、物をていねいに扱っていたことをほめたり、きょうだいと仲良く遊べたことをほめたりすると、子どもはもっとほめられたいと感じて、行動を変えることにつながります。
最後に~親自身が「有言不実行」でないか見直そう~
最後に、親自身が無意識に「有言不実行」をしていないか、自らの言動を振り返ってみることも大切です。
例えば、「宿題が終わっていなかったら、遊園地に行かないよ」とお子さんに言っていたとします。それが当日、宿題が終わっていなくても、出発の時間になると結局は遊園地に出かけてしまう、といったことをしてはいないでしょうか。
また、「片付けないなら、おもちゃを捨てちゃうよ」とお子さんに言ったとします。何日たっても自分で片付けていないのに、おもちゃが本当に捨てられることはない、といったことをしてはいないでしょうか。
このような場合、保護者のかたは「ちょっと盛って言った」程度で、それを嘘だとは認識していないものですが、お子さんのほうは「嘘をつかれた」と捉えてしまうことがあるのです。こうしたことが何度も続くと、お子さんにとって保護者のかたが「オオカミ少年」のような存在となり、言葉の信頼性が失われてしまうのです。
このように、親の言葉と行動が伴っていないことは、子どもにいい影響を与えません。 「宿題をしなくても遊園地には行ける」「絶対に捨てないから片付けなくて大丈夫」「嘘をついてもいいんだ」などといった間違ったメッセージになってしまう危険性があります。 その矛盾した状態を避けるため、親自身が「盛った」発言を控えて、自分の嘘を減らすことも大切です。
子どもの嘘には、自己防衛や満たされない思い、不安といった何らかの理由があるものです。親の対応によって、子どもの嘘は減らすことができます。嘘をクセにしてしまわないよう、お子さんへの接し方を今一度振り返ってみてはいかがでしょうか。