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「叩きつづけたら、いつか宙に浮くんじゃないかって」 10年ぶり日本上演の『blast ブラスト!』、初演から出演するパーカッショニスト・石川直に聞く、その魅力とは

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石川直

アメリカの南北戦争に起源を持つ伝統的なドラム・コーと、マーチングバンドをショーアップした、最高に楽しいエンターテインメント『blast ブラスト!』が10年ぶりに日本で上演される。2024年7月28日(日)に山形で幕開けする舞台は、同7月30日(火)から8月12日(月・祝)まで、東京・渋谷の東急シアターオーブで上演。東北・大阪・東海・中四国・福岡などを巡り、鹿児島・川商ホールで9月16日(月・祝)に千秋楽を迎える。超一流のパフォーマーが繰り広げる光と音の旅の魅力を、2003年の初演から中心メンバーとして活躍するパーカッショニストの石川直に語ってもらった。

――『blast ブラスト!』のホームページを見ると、〝魅せる音楽〟を生み出すために、12種類以上の「金管楽器(ブラス)」、51種類以上の「打楽器(パーカッション)」が使われると説明されていました。打楽器ってそんなにあるの!と驚きました。

今日僕が持ってきたスネアドラム(小太鼓)や、バスドラム(大太鼓)、鍵盤も打楽器ですし、たくさんの種類があります。民族楽器もそうですね。ウェーブ・ドラムっていう、波の音を出すドラムもあるんですよ。

――日本では、小豆を入れたざるを揺らして波の音を出しますが、海外は専用の楽器があるんですね。

そうですね。今回はほかにも「ディジュリドゥ」というオーストラリアの伝統的な楽器も使います。これは人の手で作られたものではなく、シロアリに食われた白樺の木を使った天然の楽器なんです。

――トランペットやサックスなどと違い、音を聴いても「ディジュリドゥだ!」と気付くのは難しそうですが、過去の演目ではどのようなシーンで使われていたのか、教えて頂くことはできますか。

ステージから客席に降りて、お客さんの中に入って演奏する場面があるのですが、独特な感じを出すときなどに、演奏していました。

――2003年に日本初演された『blast ブラスト!』は、ブラッシュアップを重ね70人だった演者が、半数ほどになったと聞きました。

そうですね。今回も1人が何役も務めています。僕ら打楽器でいうと、オンステージは5人。テクニックが必要なダンスや演奏は、ダンサーや専門の奏者が必要ですが、例えば踊りを踊っている中で、ダンサーがシンバルを打ち鳴らしたり、バチを持って大太鼓を一発打つなど、お客さんがショーを見ている流れの中で、その方が自然だなと感じるものは、流れに沿うようにしています。

――撮影では白いスティックをお持ちでした。手元が華やかに見えるなど、こだわりがあるのでしょうか。

まさに、そうです。ショーによっては、LEDで光るスティックを使うこともあります。今日は、アルミのスティックも持ってきたのですが、これはキーンという高音が特徴で、連打するとベルのような音がするんです。『blast ブラスト!』だと、過去に『ミュージック・オブ・ディズニー』の公演をしたときに活躍しました。

――いまお話があったディズニーなど、これまでさまざまな挑戦をしてこられました。7月28日に幕開けする10年ぶりの『blast ブラスト!』は、オリジナルバージョンをパワーアップさせた内容になっていると聞きました。ということは1曲目に「ボレロ」(ラヴェル)を期待して良いのでしょうか。

はい。「ボレロ」は『blast ブラスト!』の代名詞と言える曲です。僕は「ボレロ」では、スネアドラムを叩きます。

――ご家族のお仕事の都合で13歳で渡米され、15歳でパーカッションに親しまれるようになりました。演奏やマーチングに魅了され、19歳~22歳まで世界最大規模のマーチング大会「DCI(Drum Corps International)」に参加。2000年に日本人で初めて『blast ブラスト!』に入団され、03年の日本初演以降、『blast ブラスト!』を支えてこられました。石川さんにとって原点とも言える作品です。6月から始まるリハーサルでは、打った1音で、当時を思い出すというような感覚があると思いますか。

あると思います。初演時のポスター(公式サイトのトップページに掲載されている写真)には、大学の時にルームメイトだった仲間が写っていて懐かしい気持ちもあり。感慨深いのですが、公演を楽しみたいなと思っています。幕が開くまでの間、新しいメンバーと作っていくプロセスも楽しいですしね。

――今回の公演には石川さんを筆頭に4人の日本人奏者が出演されます。ロングランを続けた公演なので、新たに加わった渋田華暖(トランペット)さんが、「幼少期に見て、憧れていた」とお話しされているのが、印象的でした。

渋田さんと同じトランペットの、米所(裕夢)くんもそうでした。お客さんとして見てくれていた子たちが、奏者として入ってきてくれるのは、とても嬉しいことですよね。

――吹奏楽やマーチングは盛んになりましたが、全国大会で燃え尽き、大会後には楽器から離れてしまう高校生奏者は少なくありません。その中でショーを観劇した経験から、専門性に磨きをかけられる『blast ブラスト!』へと進まれる人がいることは、素敵なことだなと思いました。

部活動は結果重視な厳しい側面もありますよね。『blast ブラスト!』ももちろん、重い楽器を持って跳んだりはねたり、ショーはとてもハードですし、『blast ブラスト!』ならではの厳しさもあります。でも自由な発想で表現をすることができるこの場所に、とても魅力を感じています。お客さんと空気感を共有したり、パフォーマーとしてとても豊かな時間を持つことができていると思います。

――演奏のアドリブ力に加え、筋力も向上させないと厳しい世界ですね。

そうなんです。『blast ブラスト!』を経て、ボディビルダーになったキャストもいるくらい、体力的にもハードなんですよ。体に楽器を固定した上で、横回転をしてその後にジャンプをしたりもするので。チューバとか、バリトンとか重い楽器もありますからね。

――『blast ブラスト!』を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

リビングでスポーツ観戦をしているような感じで、リラックスして楽しんでほしいです。リズムやダンサーの動きに合わせて、手拍子をしたりもOKです。演奏される曲を事前に聴いておこうかななど、下準備もいりません。カンパニーの一員になったと思って、楽しんでもらえたらうれしいです。

――撮影を行いながら、お話を伺いました。スネアドラムやスティックを本当に大事に思っている様子が伝わってきたのですが、パーカッションは石川さんにとって、どんなところが魅力的だったのでしょうか。

スティック2本を使って叩いて弾ませて。それが気持ちが良い!というのが魅力でした。もっとうまくなりたい。もっと自由にできるようにと、叩いて叩いて叩いて。気付いたら長い時間が過ぎてしまっている。長時間練習するって言うよりも、楽しいから叩き続けるという感覚なんです。叩いていたら、スティックが羽代わりになって、いずれ宙に浮くんじゃないかなって思っているんですけど。ゾーンに入っているときは、浮いているんじゃないかって。まだ自由にスティックを叩けているという感覚がないので、もっと上達したい。これからも、理想の叩き方を追い求めていきたいです。

取材・文=翡翠 撮影=福岡諒祠

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