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介護職1人につき一時金5.4万円支給!|2024年度補正予算806億円の概要を解説!

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介護職1人につき一時金5.4万円支給!|2024年度補正予算806億円の概要を解説!

【2024年度】政府が806億円の補正予算を介護職に!

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

12月17日、経済対策も含む一般会計総額13兆9433億円の2024年度補正予算が国会で成立しました。この中には、介護職の賃上げを行うための補助として計上される806億円も含まれています。

「おっ!給料上がるの!」と思った方、「どうせたいして上がらない…」と思った方など、介護職の皆さんの反応は様々だと思いますが、深層心理は「なんかよくわからない」「そもそも知らない」「興味ない」という方が約9割ではないでしょうか…。

この記事では、そんな補正予算について背景や概要を解説していきます!

そもそも補正予算とは?

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

そもそも「補正予算」とは、政府が年度途中に当初予算では対応できなかった課題や新たな状況に対処するために編成する追加予算のことです。
当初予算は年度の初めに計画される一方で、補正予算は緊急性の高い課題や政策の修正が必要な場合に国会の承認を得て実施されます。

ちょっと難しいのでもう少し紐解いてわかりやすく説明していきます。

ー電車が止まって急な出費…こんな経験ありませんか?

そもそも「予算」とは、あらかじめ計画を立てた数値のことを言います。

例えば、皆さんが旅行の計画を綿密に立てるとします。いざ、旅行に出かけると必ずしも予定通りにいくとは限りませんよね。電車のトラブルで遅延、飛行機の乗車がうまくいかず遅延、台風や雪による欠航、これらの予想できなかった事象に対して移動料金が割り増しになってしまったり、やむを得ず宿泊することによりホテル代がプラスでかかったり…こんな経験はありませんか?

つまり、令和6年度の補正予算は、当初予算では予測できなかった介護業界が抱える深刻な課題(旅行でいうトラブル)に迅速に対応するために編成されたのです。

介護業界の課題=他職種との賃金格差

では、当初予測できなかった介護業界の抱える深刻な課題とはなんでしょうか?それは、皆さんご存知のとおり介護職の賃金と他職種の賃金差が更に拡大してしまう!ということです。

今年、9月19日に全国老人保健施設協会等、9団体が共同で発表した「介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査」によると、全産業の平均賃上げ率が3.62%に対し、医療・介護・看護業は2.19%で、業種別の賃上げ率で最も低い数字でした。※1

また、平均賃金で見てみても、介護職は、全産業平均と比較し、令和4年度6.8万円(全産業平均36.1万-介護職29.3万)の差だったのが、令和5年度には6.9万円(全産業平均36.9万-介護職30.0万)と拡大していることがわかります。ちなみに、ケアマネジャーの平均賃金は、37.6万円と全産業平均より高いため処遇改善の対象外となっていると考えられるでしょう。※2

※1出典:公益社団法人 全国老人保健施設協会緊急!「介護現場における物価高騰・賃上げ等の状況調査」結果報告 記者会見を開催しました
※2出典:厚生労働省令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果

賃金格差は、人材不足の要因となる

さらに、令和6年の10月には、皆さんご存知の通り、全国の最低賃金が改定され、平均額は1,055円と昨年度と比較し、51円の増加となりました。この背景には、物価高騰や円安等がありますが、このまま介護業界を静観していては、他業界と介護業界の賃金差拡大は必須と言えるでしょう。

「賃金差が拡大するということは、給料の高い他産業に転職してしまう介護職が増加する可能性がある、これからますます人材不足に陥っていく介護業界、緊急で歯止めをかけなければ…」というのが、今回の補正予算の背景です。

なぜ介護職の給与はあがらないの?

加算(Ⅰ)の取得率が低いから

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

出典:厚生労働省介護職員等処遇改善加算の全体像をもとに作成
ではなぜ、介護職員の賃金が上がらないのでしょうか?

本質的に基本給が低いという課題はありますが、厚生労働省は「介護職員等処遇改善加算」の取得率に注目しています。この加算は、文字通り介護職員の処遇を改善するために設けられていますが、未だ、1.4%の事業所が取得していないのに加え、加算率の高い「加算(Ⅰ)」の取得率が73.6%になっています。(新加算は上記図のようにⅠ〜Ⅳの段階にランクづけ)

つまり、算定してないもしくは満額を得ていない事業所が26.4%あるということになります。「加算(Ⅰ)」を取得する施設が増えれば、介護業界全体の平均賃金向上に繋がるはずです。

処遇改善を持続的におこなうことが補助金支給の条件!

加算率の高い(Ⅰ)を取得するためには、生産性向上や職場環境改善が求められます。単に賃金だけ上げても仕事がきつい、職場環境が悪いでは職員は離職していってしまいます。

そこで、今回の補正予算806億円も「すべての介護職員に満遍なく配布します!」ではなく、介護職員等処遇改善加算を算定している事業者かつ、生産性向上や職場環境の改善に取り組んでいる事業者に対象が絞られているのです。

常勤1人あたり5.4万円に注意!

最後に、支給の条件を満たしていても、注意すべき点を解説します。今回の介護職員1人あたり5.4万円を目安に支給というのは、あくまで常勤の介護職員の数で計算されます。全員が常勤という介護施設はほぼないと思いますので、常勤10名・非常勤(パートなど)10名の計20名で運営している施設には、常勤10名分の54万円しか支給されません。

これをどのように分配するかは、事業所ごとに決定できるため、賃金の引上げとして活用することもできますし、職場環境改善の予算として活用することもできます。全員が5.4万円一律でもらえるわけではないという点は把握しておきましょう。

【2025年3月追記】令和6年度介護人材確保・職場環境改善等事業の実施概要

2025年2月に令和6年度介護人材確保・職場環境改善等事業の実施について、詳細とQ&Aが厚生労働省より、公表されました。

ここから、その内容をもとに「介護職 1人あたり5.4万円」と言われている「令和6年度介護人材確保・職場環境改善等事業」の実施概要についてポイントを紹介します。
※参考1:厚生労働省「介護人材確保・職場環境改善等事業」のご案内
※参考2:厚生労働省介護人材確保・職場環境改善等事業の実施について
※参考3:厚生労働省「介護人材確保・職場環境等改善事業に関するQ&A(第1版)」の送付について

事業の目的

今回の補助金の目的は、生産性向上を通して、介護現場の業務改善と職場環境の改善を図り、介護人材の確保、定着の基盤形成をおこなうために支援することです。

人材不足が課題とされる介護業界を支えるための取り組みであると認識しておきましょう。

対象事業所

今回の補助金の対象事業所は、以下対象サービスと交付率の表に記載のサービス類型であることかつ、下記の3つを満たすことです。

1.介護職員等処遇改善加算(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、又はⅣ)を算定していること
※ 令和6年12月サービス提供分(交付率を乗じる基準となる月を令和7年1月、2月又は3月とした場合には、当該月のサービス提供分)において算定が必要
※ まだ算定していない事業所や処遇改善加算Ⅴを算定している事業所であっても令和7年4月からの処遇改善加算の取得に係る申請を期日までに行えば、補助金の対象

2.職場環境改善等に向けて以下の取り組みを計画もしくは実施していること
・介護職員等の業務の洗い出しや棚卸しなど、現場の課題の見える化
・業務改善活動の体制構築(委員会やプロジェクトチームの立ち上げ又は外部の研修会の活動等)
・業務内容の明確化と職員間の適切な役割分担の取組

3.計画書提出時点で休業や廃業が決まっていないこと
※参考1:厚生労働省「介護人材確保・職場環境改善等事業」のご案内
※参考2:厚生労働省「介護人材確保・職場環境等改善事業に関するQ&A(第1版)」の送付について

補助金の対象経費とは?

また、補助金の使用方法としては以下の2つが定められています。

1.人件費改善経費
2.職場環境改善経費
これら2つについては、どちらかに全額を充てることも、組み合わせて実施することも可能です。

●1.人件費改善経費

人件費改善経費とは、手当や一時金等の引き上げとして活用するものです。

毎月の基本給の引き上げに充てることは想定していませんが、厚生労働省はQ&A内で、各事業所の経営判断として、各種の生産性向上や職場環境改善等の取り組みの成果により、持続的な賃上げ余力が生じることを見越して、それまでのつなぎとして活用することは可能としています。

●2.職場環境改善経費

職場環境改善経費は、以下の3つのことを指します。

1.介護助手を募集するための経費
2.職場環境改善のための様々な取組を実施するための研修費の経費
3.介護テクノロジー等の機器購入費用以外のその他経費
※参考1:厚生労働省「介護人材確保・職場環境改善等事業」のご案内
※参考2:厚生労働省「介護人材確保・職場環境等改善事業に関するQ&A(第1版)」の送付について

補助金の額の決め方

補助金の金額の決め方は、以下の算定式に基づいて決定します。

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

※参考:厚生労働省「介護人材確保・職場環境改善等事業」のご案内をもとに作成
ただし、12月サービス提供分が他の月と比較して著しく低いなどの事情がある場合は、事業所の判断で、令和7年1月、2月又は3月サービスを基準の月とすることも可能とされています。

次に各サービスごとの交付率を確認していきましょう。

●対象サービスと交付率

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

※参考:厚生労働省介護人材確保・職場環境改善等事業の実施についてをもとに作成

補助金はアルバイトやパートももらえるの?

今回の補助金を人件費改善に充てる場合、事業所の判断で常勤の介護職員以外への配分も可能です。そのため、アルバイトやパートの職員も受け取ることができます。

ただし、配布される金額は常勤介護職1人あたり5.4万円とされているため、その他の職員に配布をすることや、職場環境改善経費に使用することを考えると、満額もらえる事業所はほぼないと念頭に置いておく必要があるでしょう。

まとめ:生産性向上は賃金とサービスの質向上につながる

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

11月に開催された全国老人福祉施設大会・研究会議in滋賀の実践研究発表で私が施設長を務めさせていただいている特養もくせいが、経営部門で優秀賞をいただきました。発表内容は「生産性向上」です。

私たちが生産性向上に取り組んでいる理由は、今後、今までの職員数で業務を行うことができないことが人口統計上明白だからです。この課題に今から取り組まないと間に合わないという「警笛」が今回の補正予算であると私は感じています。

今までの業務がベストなのか?効率化を図れる業務はないのか?効率化によって生まれた時間で利用者さんの思いを叶えられた、喜んでいただけた=サービスの質向上。さらに、国からの一時金支給、このプロセスが介護職員のモチベーションとなり、従業員の定着率向上。そして、長く働く人が増えると、さらなるサービスの質向上…といったようによい循環が続いていきます。

単に賃金が上がったから仕事を頑張ろうとは必ずしもならないと私は思います。なぜ、賃金が上がったのか?って大事ですよね。

まだ、今回の補正予算の詳細なルールは出ていません。みなさん、ぜひ、今後の動向に注目しましょう。(2025年3月:詳細とQ&Aの内容を追記しています。)

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