《春〜夏編》身近な海釣りフィールドに生えている【海岸性植物たち6選】
私たちアングラーは、様々な植物に囲まれて生活している。なにげなく足元や釣り場の周辺に生えていたりするありふれた植物なので、砂浜や磯での釣りの時に、見かけたことがあるアングラーも多いと思う。今回は、特に海岸でよく見られる植物を中心に紹介してみたい。
砂浜や磯の植物
砂浜や、磯浜には、草本植物(簡単に言えば野草)が多いが、その中には塩分の多い砂浜や磯浜の土壌に適した特徴のある植物が多い。
また、大規模な干潟には特異な樹木が見られる。その顕著な例が熱帯~亜熱帯の干潟に見られるマングローブで、沖縄県などでは、ヒルギの仲間などの樹林が潮の引いた干潟に見られる独特の景観で、ラムサール条約に指定されているところもある。
海岸部の雑木林の植物
海岸部の雑木林にも多くの特徴ある樹木が生育している。これらは地磯での釣りの時に、よく見られる。日本は南北に長いので、地方によって様々な海岸性の樹木が見られる。これらの中には、品種改良されて花木となったり、薪や炭などの燃料として使われているものもある。
キス釣りで目にする植物
私はキスやハゼを狙って主に和歌山県内の釣り場に出かける。そのとき目にした植物を紹介する。
和歌山県は暖地であり、気候区分からくる樹林の種類では、「照葉樹林帯」に属していて、葉の表面に光沢のある広葉樹が多い。草本植物と樹木に分けて、いくつかを紹介してみたい。まずは草本植物3種から。
ハマダイコン
アブラナ科ダイコン属の植物、日本からアジア大陸東部に広く分布している。3~5月に、主に砂浜や砂利浜などで、少し紫がかった白い花を咲かせている。
ダイコンに近い仲間で、キャベツやハクサイ、カラシナなどアブラナ科の野菜と同様、4枚の花びらを持っている。写真は4月に田辺・芳養の釣行時に撮影したもの。
ハマエンドウ
マメ科レンリソウ属の植物、アジア大陸からヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカと分布域の広い植物。
エンドウと名前がついているが、切り花で販売されるスイートピーに近い仲間の植物である。3~5月に主に砂浜や砂利浜などで、紫色の花を咲かせる。
マメ科のエンドウやソラマメなどの野菜、エニシダやスイートピーと同様、花の形は蝶型花(蝶が羽を広げたような形)であるのが特徴。写真はやはり4月に田辺・芳養で撮影。
ダンチク
イネ科ダンチク属の植物、本州から南西諸島、台湾、中国、インドから地中海まで分布し、高さ2~4mにもなる。繁殖力が旺盛である。和歌山県の沿岸では砂浜や砂利浜の後背部や雑木林との境目、河口部などにも生えている。
和歌山県の有田から日高地方特産品のサバのなれ寿司を包む葉はこのダンチクである。写真は5月に紀ノ川河口で撮影した。ヨシと似ているが、草丈は2~4mにもなる。
木本植物(樹木)
続いて、木本植物3種を紹介。
ウバメガシ
ブナ科コナラ属の樹木。千葉県以西の本州の太平洋側から四国、九州、沖縄、韓国(済州島)、中国まで分布している。開花期は4~5月。温暖で乾燥した保水力のないやせた山地に生育する。
葉の表面が厚いワックス層で覆われ光沢があり、「照葉樹林帯」という気候区分名はこのような樹木の葉の表面の外観からきている。和歌山県の県木になっていて、古くから備長炭の原料として利用されてきた。
また、南部町から田辺市の梅林は、ウバメガシが中心の山林の中腹部を開墾したもので、山頂近くはウバメガシの樹林が残され、山地の保水とともにミツバチなどの住みかとなり,虫媒花であるウメの受粉に役立っている。
このようなサステナブルな農業の仕組みが2015年、「みなべ・田辺の梅システム」として世界農業遺産に登録された。写真は3月に田辺・芳養への釣行の時に撮影。
テリハノイバラ
バラ科バラ属。本州(宮城県以西)、四国、九州、沖縄、朝鮮半島、中国、台湾からフィリピンまで分布している。内陸部の雑木林や草原には同属のノイバラが分布しているが、葉の表面が光沢を持っていることで区別できる。
ノイバラと同様、花びらが5枚の白い花を咲かせるのがバラ科植物の証。ノイバラ同様、花びら先端の中央部が少しくぼんでいて、花びらがハート型であるのが可愛い。
ハマボウ
アオイ科フヨウ属。関東以西本州、四国、九州、韓国まで分布している。海岸部の潮汐の影響をうける湿地や干潟に生育する。7~8月に黄色い大きな花を咲かせるが、夕方にはしぼむ。
同属のハイビスカスときわめて近縁の植物で、日本原産のハイビスカスといったところ。海水に浸かっても生育でき、種子が潮の流れで運ばれるため、干潟ではクリーク(水路)に沿って生えている。
和歌山県では御坊市の日高川河口部左岸に大規模な干潟があり、ハマボウの群生地として市の天然記念物に指定されている。私は以前に仕事でハマボウについて研究したことがあるが、花木のハイビスカスと同じように、挿し木でふやすことができる。写真は8月に日高川河口のキス釣行の時に撮影したものである。
四季を彩る海岸性植物
日本には四季があり、様々な植物が目を楽しませてくれる。投げで、磯で、川釣りで、アタリが遠のいた時などにふと足元に目をやると様々な植物が生育していて驚かされる。釣り場の周辺は天然の植物園なのである。
海岸部の雑木林の斜面や砂浜の後方は、崩れやすく足場の悪いところもあり、植物に接近しすぎると転落などの危険があるところも存在する。無理のないように安全にウォッチングしたい。時期を見て秋〜冬編をお届けする予定である。
<牧野博/TSURINEWSライター>