大分トリニータ 清武弘嗣 16年ぶりのピッチで見せた勝たせる存在感 【大分県】
その目は静かに燃えていた。ピッチの上ではいつも冷静な清武弘嗣。しかし、その内にはJ1昇格への強い決意があった。
今季、大分トリニータのキャプテンとして新たな挑戦が始まった。16年ぶりの古巣復帰。若手主体のチームを率いることになった清武は、リーダーとしてどうあるべきかを考えながら、自然体でチームに溶け込んでいた。
「このチームをJ1に昇格させる」。その強い思いが、今回の移籍を決断させた理由だった。昨季、セレッソ大阪でクラブ30周年の節目を迎えながらも優勝には届かず、シーズン途中にサガン鳥栖に移籍しJ1残留を目指した。しかし、さまざまな事情でチームに残ることはできなかった。そして考えた。自分は今、どこで、何を目標にして戦うべきなのか。
出した答えが、大分トリニータだった。プロキャリアをスタートさせたこのクラブを、もう一度J1に戻す。そのための最初の一歩がホーム開幕戦だった。
試合終了の笛が鳴ると、スタジアムは歓喜に包まれた。開幕戦勝利、スコアは2-0。北海道コンサドーレ札幌の猛攻をしのぎ、チャンスを確実に仕留めた試合だった。ピッチに立つ選手たちは歓喜し、スタンドのサポーターは誇らしげに青いタオルを振った。その光景を一人の男が静かに見つめていた。
先頭に立ちスタジアムに現れた清武弘嗣
後半44分、片野坂知宏監督が最後の交代カードを切った。背番号28、清武弘嗣。16シーズンぶりに大分のピッチへ足を踏み入れた。
スタンドから大きな拍手が送られる。だが、清武にとってそれは特別な瞬間ではなかった。考えていたのは、自分の感情ではなく、目の前の試合をどう終わらせるかだった。
「先発の11人が大きな覚悟で臨み、最後までよく走ってくれた」。試合後、清武はそう振り返った。チームとして戦えた試合。だが、満足はしていない。「(守勢になり)受ける場面が増えた。出た課題を改善していきたい」。試合の中に見えたほころび。課題を突きつけられることが、清武にとってはむしろ歓迎すべきことだった。
片野坂監督は清武の投入の狙いを「試合をクローズするため」と語った。試合の流れを読み、相手の出方を見極め、必要な場所に立つ。求められたのは派手なプレーではなく、勝利を確実なものにする安定感だった。清武がピッチに立ったのはアディショナルタイムを含めて6分間。大分は落ち着きを取り戻し、そのまま無失点で試合を締めくくった。
ピッチに立つと、懐かしさよりも責任感が勝った。J1昇格を目指す戦いは、始まったばかり。清武弘嗣の本当の戦いも、ここからがスタートとなる。
クローザーとして無失点で試合を終わらせた
(柚野真也)