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「海上にできた巨大ごみ集積所」太平洋ゴミベルトとは 〜人間もビニール袋を食べている?

草の実堂

画像 : 画像:巨大ごみ海域は、五大海洋循環の一つである北太平洋循環の内側にある。 public domain
画像:イメージ pixabay

近年、プラスチックごみによる海洋汚染が、世界中で問題となっている。

従来のプラスチックが自然に分解されるまでには数百年以上の長い時間がかかるとされており、海や河川にプラスチックごみが流出して海洋環境を悪化させているばかりか、海洋生物の生命まで脅かしているという。

この自然分解されないプラスチックごみが、海流などの影響を受けて一か所に集中している海域がある。

それこそが「太平洋ゴミベルト」だ。

太平洋ゴミベルトがあるのは、北太平洋のカリフォルニア州沖からハワイ沖にかけてだが、そこには遠い日本から流れ着いたプラスチックごみも大量に浮いている。
全体の面積は実に日本の国土の面積の4倍以上もあるといわれている。

今回は、科学の発展や便利さと引き換えに生まれてしまった世界最大のごみ溜まり、太平洋ゴミベルトについて触れていきたい。

1990年代に公表された「太平洋ゴミベルト」の存在

画像 : 画像:巨大ごみ海域は、五大海洋循環の一つである北太平洋循環の内側にある。 public domain

太平洋ゴミベルトの存在が世界中に知られるようになったのは、1990年代のことだ。

アメリカ・カリフォルニア州を拠点とする船長であり、海洋研究家でもあるチャールズ・ムーア氏が、ヨットレース参加後に北太平洋還流を帰る途中で、膨大な量の漂流ごみが広がる光景を目の当たりにしたという。

ムーア氏はこの海域について論文をまとめ、「太平洋ゴミベルト」と名付けて発表し、広く注目を集めた。

ムーア氏から、この海域に注意を払うよう促された海洋学者のカーティス・エブスマイヤー博士は、この海域を「西部ごみ海域」と名付けた。

実は、ムーア氏が太平洋ゴミベルトについての論文を発表する以前に、アメリカ海洋大気庁が1988年に公開した文書により、世界中のごみが集まる海域が予測されていた。

この予測は1985年から1988年の間に行われた、水表生物(水面または水面直下に生息する生物)のプラスチック粒子の測定の結果に基づくものだった。

太平洋ゴミベルトを形成する人工物

画像:不法投棄された漁網に絡まってしまったウミガメ public domain

ムーア氏は、「太平洋ゴミベルトを形成するごみの8割以上が陸上から来た物で、残りの2割弱は海を渡航する船舶由来の物である」と予測した。

彼は、プラスチックごみの破片が海流によってアジアの東海岸から海流の循環の中央へと1年以内のうちに運ばれると考え、また北アメリカから出たごみは5年ほどで運ばれるとした。

だが実際、近年の研究ではプラスチックごみのほとんどは漁業活動に由来するもので、全体の46%は漁網であると算定されている。

太平洋ゴミベルトで行われた調査の結果によれば、プラスチック片に日本語が書かれた個体が201個のサンプル中33%を占めており、232個のプラスチック製物品の起源の34%は日本産の物であった。

なぜこんなに日本から流れ着いたプラスチックごみが多いのかといえば、その原因は2011年3月11日に起きた東日本大震災にあったといわれる。

東日本大震災で起きた津波によって海に流出した人工物は、約500万トンと推測されており、そのうち約150万トンが海の上を漂う洋上漂流物となったと考えられ、その一部が海流に乗り太平洋ゴミベルトにたどり着いたのだ。

プラスチックごみが生物に与える影響

画像:このコアホウドリのひなは、親鳥によりプラスチックを与えられ、それを吐き出すことができなかった。そして飢えか窒息により死亡した。 public domain

プラスチックごみは水に溶けにくく、なかなか自然には分解されないものの、細かく砕けて5mm以下の小さな破片になり、洋上を漂うようになる。

この小さなプラスチック片は「マイクロプラスチック」と呼ばれ、歯磨き粉や洗顔剤に含まれるビーズなどにも人為的に作られて用いられるが、ビニール袋やペットボトルなどのプラスチックごみが紫外線や波の影響を受けてマイクロプラスチックになってしまうと、より一層回収が難しくなってしまう。

さらにマイクロプラスチックは、残留性有機汚染物質を海水から吸収してしまうという。

太平洋ゴミベルトには大量のマイクロプラスチックが漂流していると考えられているが、日本周辺の海域にも世界平均の約27倍ものマイクロプラスチックが浮遊しているといわれる。

マイクロプラスチックは動物プランクトンに似ているため、海の上層を漂うクラゲがこれを食べてしまう。そのクラゲを食べた魚を、今度はさらに上位の捕食者が食べてしまい体に悪影響をもたらす。
つまり私たち人間も、海産物を通じて有害なプラスチックを食べていると考えられる。

摂取したマイクロプラスチックの一部は脳に蓄積し、ホルモンをかく乱することもあるという。

さらに科学的な影響だけでなく、ウミガメがクラゲと間違えてビニール袋を食べてしまったり、アホウドリなどの海鳥がプラスチックごみを魚と間違えて誤飲してしまい、命を落とす事例も頻発している。

海を汚染するプラスチックごみ対策

画像:合成樹脂(プラスチック)で作られた家庭用品 wiki c ImGz

現在、世界中で地球の環境を汚染するプラスチックごみの削減と、すでに自然界に流出してしまっているごみの回収について、様々な策が提案されている。

2018年、オランダを拠点とするNPO団体のオーシャン・クリーンアップは、世界初となる海のプラスチックごみを回収する装置を作り、太平洋ゴミベルトのごみや世界各国の河川に放棄されたごみの回収に取り掛かった。

2025年2月時点で回収できたごみは、太平洋ゴミベルトと河川から引き上げたものを合わせて21,000トンにもなったという。

太平洋ゴミベルトのようなごみ溜まりは1つだけでなく、世界中にいくつもある。
私たちが便利で手軽な日常生活を送る間に、地球は既にプラスチックごみだらけになってしまっているのだ。

今後海洋ごみが減っていかなければ、2050年には地球上の魚類の総重量をごみの重さが上回ってしまうとも推測されている。

震災で起きた津波による流出物のように、個人の力ではどうにもできない物もある。それでも個人のごみに対する意識を変えていくことが、プラスチックごみの削減につながることは間違いだろう。

ごみのポイ捨てを控えるのはもちろんのこと、外出先で出たごみを持ち帰ってリサイクルに出したり、使い捨ての袋や容器、食器をなるべく使わないよう意識することも、私たち一人ひとりができる小さな一歩といえるだろう。

参考
保坂 直紀 (著)『海洋プラスチック 永遠のごみの行方』
文 / 北森詩乃 校正 / 草の実堂編集部

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