「初産の出産祝い」にお母さんをいたわる絵本 [子どもの本専門書店・店長]が「この3冊」を選んだワケ
「初産の出産祝い」に贈りたい絵本として、『ちいさなうさこちゃん』『まるさんかくぞう』『たいせつな あなたへ あなたが うまれるまでの こと』を紹介。子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」店長・茅野由紀氏が厳選。連載「子どもの本のプロが選ぶギフト絵本」第1回。
【画像】子どもに増加の摂食障害「神経性やせ症」(拒食症)を見る[専門医が解説]絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、数ある絵本の中から年齢や好み、贈るシーンに合った1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載企画【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、子どもにも親にも喜ばれる贈り物にふさわしい絵本をセレクト。
第1回は、子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」店長の茅野由紀(ちの・ゆき)さんが、「初産の出産祝い」におすすめの本を紹介します。
おすすめは“赤ちゃんに1冊 ママに1冊”
子どもの本の専門店で働いていると「出産祝いには、どんな絵本がいいですか?」とお客様から相談されることがよくあります。そういうときは、予算にもよりますが、「赤ちゃんに1冊、お母さんに1冊、それぞれ贈ってはいかがですか?」とご提案することが多いですね。
出産祝いで赤ちゃんのためのプレゼントを贈る方はたくさんいますが、出産を終えたお母さんを慰労するプレゼントを贈る方は意外と少ないかもしれません。でも、赤ちゃんにとって何より大切なのは、お母さんの心が落ち着き、安定していること。
特に初産の場合、赤ちゃんを守る不安も大きいでしょうし、慣れないことばかりの毎日に大変な想いをされているお母さん。そんなお母さんをいたわるような絵本を贈ることは、まわりまわって赤ちゃんのためにもなると思います。
誰かを想い、絵本を贈るという行為そのものが尊いものです。今回は、そんな視点も踏まえながら「初産の出産祝い」におすすめの3冊を選んでみました。
“おめでとう”の想いが込められた一冊
はじめにご紹介するのは、世界中で愛されているうさこちゃんシリーズの絵本4冊がセットになった『1才からのうさこちゃんの絵本セット』(福音館書店)。
『1才からのうさこちゃんの絵本セット』(文・絵:ディック・ブルーナ、訳:いしいももこ/福音館書店)
うさこちゃんシリーズの代表作『ちいさなうさこちゃん』は、私も大好きな作品です。赤ちゃんは無条件に愛され、守られる存在であることがとてもやさしく表現されていて“赤ちゃんのための憲法の本”といってもいいくらい。赤ちゃんにとって大事なものがすべて描かれていると思います。
優しいお父さんとお母さんがいて、仕事があって、整えられたお家があって、うさこちゃんが生まれたらお祝いに来てくれるご近所さんがいる。しかも、そのご近所さんたちは、うさこちゃんが疲れていないかを気づかい、そっと帰るような優しさもある──。うさこちゃんをめぐる登場人物たちがみんな、うさこちゃんのことを想い、考えて行動しているのですね。
かわいいイラストと短い文章の中に、赤ちゃんの愛らしさと、生まれてきた赤ちゃんを祝福する“おめでとう”の気持ちがぎゅっと込められています。ページをめくるたびに、あたたかな子育ての情景が浮かんでくるようです。作者であるディック・ブルーナさんの、子どもに対する想いがひしひしと伝わってきます。
「誕生おめでとう」「生まれてきてくれてありがとう」。そんなメッセージを添えて、全赤ちゃんにプレゼントしたい一冊です。
親子で肩の力を抜いて楽しめる赤ちゃん絵本
次にご紹介するのは、人気イラストレーターの100%オレンジ(及川賢治と竹内繭子のユニット)による赤ちゃん絵本『まるさんかくぞう』(文渓堂)。
『まるさんかくぞう』(作・及川賢治、竹内繭子/文渓堂)
まる、さんかく、ぞう。シンプルな形と色、言葉の繰り返しで展開される、ユニークでおしゃれな絵本です。
脳科学の先生にお話を伺ったことがあるのですが、人間の脳、特に赤ちゃんの脳は人道的な視点からもなかなか研究が進まず、解明されていない部分が圧倒的に多いのだそうです。そのため、「赤ちゃんはどんな本を好むのか」「売れている赤ちゃん絵本にはどんな要因があるのか」など、正直よくわかっていないのだとか。
この絵本は2008年に発売されたベストセラー。私のお店では「赤ちゃん絵本」というコーナーに置いていますが、「赤ちゃんにおすすめの絵本」というよりも「赤ちゃんが好きな本」といったほうがしっくりくるほど、ジャンルを超えた不思議な魅力で多くの方の支持を集めている一冊です。
赤ちゃんはまだ視力が安定していないため、よく「はっきりとした形や色使いの絵本がいい」「抽象的な絵本は赤ちゃん向きではない」などと言われますが、赤ちゃんのうちからデザイン性に優れた本物に触れる。そうした素晴らしい体験をプレゼントするのも素敵だと思います。
赤ちゃんは文字が読めませんが、親御さんが読み聞かせるうち、少しずつものと言葉の対比を感じ取るようになるでしょうし、言葉を覚えるフックにもなると思います。繰り返される言葉の心地よいリズムに、大人もすーっと肩の力が抜けるようです。親子で過ごすお楽しみの時間のために贈ってはいかがでしょうか。
赤ちゃんへのあふれる愛を伝えられる
最後にご紹介するのは『たいせつな あなたへ あなたが うまれるまでの こと』(講談社)。お客様から出産祝いにおすすめの本を尋ねられたとき、必ずいちばん最初にご案内している、私にとって特別な一冊です。
『たいせつな あなたへ あなたが うまれるまでの こと』(作:サンドラ・ポワロ=シェリフ、訳:おーなり由子/講談社)
こちらは、赤ちゃんが誕生するまでのお母さんの気持ちを美しい絵と文で綴ったフランスの絵本。訳をつけているのは、漫画家で絵本作家のおーなり由子さんです。
赤ちゃんがお腹に宿ったときの感動、待ち遠しかった想い、生まれたときの喜び──。言葉選びが素晴らしく秀逸で、ひとつひとつの文が胸を打ちます。
私は妊娠中にこの絵本に出会ったのですが、「わたしは あなたが こわれないように そっと あるいた」という妊婦の想いを表現した一文に自分の想いがシンクロし、思わずぽろぽろ泣いてしまったことを覚えています。今でも読み返すと、涙がこぼれそうになります。
子育てをしていると、眠れない日もありますし、ときには疲れてしまうこともありますよね。そんなときに読むと、「絶対にこの子を幸せにする!」と誓ったあの日のことがまざまざとよみがえってきます。そして、「明日もがんばろう」という気持ちになれる。まさにお母さんを癒やす絵本ではないでしょうか。
「赤ちゃんに読み聞かせるには早い」と思われるかもしれませんが、大事なのはお母さんやお父さんが優しい声で読み聞かせる行為そのもので、言葉はわからなくても赤ちゃんへの愛は必ず伝わります。こうした優しい気持ちになれる絵本は、赤ちゃんの年齢に関係なく、読み聞かせにおすすめしたいです。
お父さんとお母さんに愛されて生まれてきたのだと、赤ちゃんに伝えられる。そして、子どもが大きくなってからも、親子で何度も読み返して愛を伝えられる。出産のお祝いにぴったりの一冊だと思います。
取材・文/星野早百合