少年院を出所した若者と、生きづらさを抱えた彼の叔母の“心の触れ合い”を描く『もういちどみつめる』
森を舞台に、少年院を出所した若者と生きづらさを抱えた彼の叔母との“心の触れ合い”を描く映画『もういちどみつめる』が、11月22日(土)より公開される。
佐藤慶紀監督が、“対話の重要性”を描く作品を制作
釜山映画祭正式出品作品『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』で、分かりあえないからこそ対話を続ける必要があるののではないかと探求した佐藤慶紀監督が、『淵に立つ』『よこがお』『波紋』など全ての作品で圧倒的な演技を魅せ、多数の主演女優賞を受賞している唯一無二の名優・筒井真理子と、三宅唱監督のロカルノ国際映画祭正式出品作品『旅と日々』で大注目の髙田万作を迎え、新たに対話の重要性を描く作品を制作した。
民法で大人扱いとなったことで、2022年の少年法の改正で18、19歳を厳罰化することになったことに疑問を持った佐藤監督が、「生きづらさ」を抱える思春期の青年と、同じく「生きづらさ」を抱えて生きてきた大人、そして、すごく繊細でどこにでも生きていけるわけではない珍しいコケを探す女子学生との交流を通して、言葉にして対話をすることの重要性を描く。
一見他の人と変わらないように見えるが、他者とのコミュニケーションに生まれながら難を抱える典子役で筒井真理子、複雑な家庭環境や過去を抱える18歳の青年役・ユウキ役で髙田万作がW主演。そのほか、典子の理解者である明夫役ににしやま由きひろ、ユウキの従兄弟・健二役に「第30回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」でDDセルフプロデュース賞受賞の徳永智加来、由香理役で「STARDUST × sweet モデルオーディション」で、3000人の応募者の中からグランプリを受賞しデビューした中澤実子が出演する。
山のキャンプ場を営む典子の元に突然の来訪者がやって来る。それは、1年前に少年院を出所した甥っ子のユウキ。ユウキは、典子の姉である母親を探していると、このキャンプ場にやってきたが、典子が義理の兄に電話すると、ユウキと義理の兄はうまくいっていないとのこと。ユウキにキャンプ場でバイトをさせてあげ、「私にできることは、あなたの話を聞くことだけ」と寄り添う典子は、近所に住む明夫によると、人の表情を読み取るのが苦手で、言葉が大事。「世界の見方は皆同じじゃない」と言う典子に、次第に心を許していくユウキ。そんなある日、典子の息子でユウキの同い年の従兄弟である健二が、大学の友達とキャンプにやってくる。森の植物や星など、ユウキと由香理が共通の話題で盛り上がるのを見て嫉妬した健二は…。
<監督・脚本:佐藤慶紀 コメント>
本作は、18・19歳の厳罰化を目的とした、2022年の少年法改正に対して抱いた疑問から制作を始めました。
この改正には、多くの専門家から「更生の機会を奪い、少年法の理念に反する」といった倫理的な批判や、「統計的に少年犯罪は減少傾向にある」といった実証的な批判もあり、私もそうした指摘に同意します。ただ同時に、「なぜ、厳罰の対象となるような事件が起きてしまうのか」「未然にそれを防ぐことはできないのか」という根本的な問いに向き合いたいと思いました。
その過程で、「生きづらさ」というテーマが浮かび上がってきました。
本作では、生きづらさを抱えているのは少年院を出所したユウキだけではありません。彼が訪ねる叔母・典子もまた、異なるかたちで生きづらさと向き合っています。ユウキの場合は、家庭環境や社会との関わりのなかで生まれた心理的な要因によるものです。一方で典子は、持って生まれた感覚や行動の傾向が、日常生活の中で周囲とずれてしまい、それが生きづらさにつながっています。
そうしたふたりが、相手の「生きづらさ」にどう気づいていくのか。そして、そのなかで「対話」はどのような役割を果たしうるのか描きたいと思いました。
また本作では、自然をただの背景としてではなく、出演者と同等の存在として捉えたいと思いました。絶滅に瀕した原始植物を探す由香理の姿には、言葉にならない違和感や感覚に導かれる
もうひとつの対話を重ねています。声なき自然の道理に触れることが、何かを見つめ直すきっかけになればと思いました。
主演の筒井真理子さんはもちろん、髙田万作くんも、非常に感受性が豊かで、繊細な表現ができる俳優です。特に、ふたりの対話シーンでは、お互いの「私」がふっと消えているように感じる瞬間がありました。それはふたつの存在の響き合いのように感じ、素晴らしかったです。
本作では、夕闇や夜明け前の、景色と輪郭が溶け合い、一体感を感じられるひとときを大切に撮影しました。ぜひ、劇場でご覧いただけたら嬉しいです。
『もういちどみつめる』は11月22日(土)より新宿K’s cinemaほかにて全国公開