愛らしい<ハリセンボン>の生態と体の仕組み 実は食用としても親しまれている?
ハリセンボンは、熱帯から温帯のサンゴ礁や岩礁、砂底などに生息する魚です。胸びれや背びれを羽ばたかせるように泳ぐ姿は非常に愛らしく、多くの人々に親しまれています。
そんなハリセンボンは食用としても利用されています。さまざまな場面で人々に親しまれているハリセンボンの魅力とは?
肉食性のハリセンボン
ハリセンボンは肉食性の魚で、貝類・甲殻類・ウニなどを捕食するため、上下に1本ずつの頑丈な歯を持ち、硬い殻を噛み砕いて食べることができます。
フグ科の仲間であることから毒を持つと思われがちですが、ハリセンボンには毒はないとされています。ただし、卵巣や肝臓などの部位については未解明な点も多く、食品衛生法では食用不可の部位として扱われています。
ハリセンボンの針の数と仕組み
ハリセンボンの全身には鋭い針がありますが、これは鱗が変化したものです。通常は体に沿って寝ていますが、外敵に遭遇すると体を膨らませて針を立て、威嚇します。
体の膨張には、胃の一部が変化した「膨張のう」が使われ、水や空気を大量に吸い込むことで丸く膨らむことができます。針が立つことで「危険そう、食べづらそう」と相手に思わせる、見た目の威圧感が防御機能として働きます。
名前の由来となった「針千本」という表現ですが、実際の針の数は約300から400本程度。針を持つ他の生き物と比較すると、ウニは約2800本、ハリネズミは約6000本、ヤマアラシは約3万本と、ハリセンボンの針の数は決して多いとは言えません。
それでもその防御力は非常に高く、ハリセンボンを丸飲みした魚がその硬さと痛みに耐えきれず吐き出すほどの威力があります。まれに死んだサメの体内から発見されることもあり、サメの死因がハリセンボンを飲み込んだことによるものだった例も報告されています。
ただし、膨張した状態では胸びれが埋もれてしまい、泳ぐことができなくなるという致命的な欠点もあります。流されるだけの無力な姿になるそのギャップこそが、ハリセンボンの魅力のひとつです。
ハリセンボンは食べられる? 沖縄の郷土料理「アバサー汁」
沖縄では、ハリセンボンを使った味噌汁「アバサー汁」が郷土料理として親しまれています。
食用にする際には、針の処理が重要です。
ハリセンボンの針は皮膚の内部にスパイク状の突起が食い込むように埋まっており、表面から力任せに引っ張っても皮が破れるか、針の根元が残ってしまうことが多く、除去は困難です。
そのため、皮を湯通しして縮ませることで針の根元が見えやすくなります。これを、骨抜きなどを使って丁寧に抜くことで、きれいに処理することができます。
ハリセンボンの針は、外敵への威嚇や捕食者との攻防を担う防御の象徴で、食材となってもなお人の手を煩わせ、容易には口に入れさせないという、生存戦略があるのかもしれませんね。
(サカナトライター:こやまゆう)
参考文献
CT生物図鑑-No.08 ハリセンボン
LIVESCIENCE-飲み込みにくい サメがハリセンボンで窒息死