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マンジャロを使う子どもも! 子どもの摂食障害をふせぐための親の寄り添い方とは[専門医が解説]

コクリコ

子どもに多い摂食障害「神経性やせ症」第3回。子どもが神経性やせ症、もしくは疑いがあるときの家庭での関わり方、回復につながる声かけや支え方について。専門医・鈴木眞理先生が解説。全3回の最終回。

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「神経性やせ症」は子どもに多く見られる摂食障害のひとつ。とくにコロナ禍以降、子どもに増加し、小学校低学年の子どもにまで広がりつつあります。食事を極端に制限するため、成長期の子どもには身体への影響が大きく、発見や治療が遅れると命にかかわります。では、子どもが「やせたい」と言い出したら、大人はどう声をかけ、行動すべきでしょうか。そして、予防や回復のために家庭で気をつけるべきポイントとは?

日本摂食障害協会理事長の鈴木眞理先生に、家庭で取るべき対応などについて伺いました。

やせたい気持ちにまず共感し心の奥にある不安に寄り添う

──もし小学生の子どもが「ダイエットをしたい」と言い出したら、親としてどう声をかけるべきでしょうか。

鈴木眞理先生(以下、鈴木先生):まずは、「そう思ったんだね」と気持ちを受けとめながら、「なにかきっかけがあったの?」と深掘りして理由を聞いてあげることが大切です。

ていねいに寄り添いながら、子どもの気持ちを紐(ひも)といていくと、「やせたい」という気持ちの奥には、“自信のなさ”や“不安”が隠れていることがあります。神経性やせ症はこうした感情が引き金になって起こるので、大人が子どものことをよく見てあげることが重要です。

神経性やせ症が治った子どもと話をしていると、「本当は甘えたかった」「自分のことを見ていてほしかった」という言葉をよく聞きます。親御さんには、ぜひ「ありのままのあなたが大切な存在なんだよ」などと、日ごろから言葉にして子どもへ伝えてほしいです。

「なんで食べないの!」はNGワード

──もし子どもの体重が減ってきたら、どんなことに気をつけて観察すべきでしょうか?

鈴木先生:まずは、「成長期なのに、なぜ体重が減っているのか?」という視点で、冷静に子どもの様子を見てあげてください。数日程度の食欲低下は珍しくありませんが、長期間の食事制限や、明らかに腕が細くなっている、過剰な運動や長風呂をする、月経が止まった、初経がこないといった場合は、神経性やせ症の可能性があります。

──子どもがやせ細っていく姿を目の当たりにすると、親として不安や焦りも大きくなります。家庭での対応で、避けるべきNG行動はありますか?

鈴木先生:病気を悪化させやすい対応のひとつは、責めたり怒ったりすること。また、感情的になることもよくありません。

「なんで食べないの!」「どうしてわかってくれないの!」といった声かけや、涙を見せるなどの反応は、つらい状況にいる子どもにとって、さらなるプレッシャーになります。

だからといって、なにも言わずに放置することもよくありません。お菓子をため込む行動や、ダイエット料理を作るためにキッチンを占領したりすることも典型的な症状ですが、病気によるものと分かっていながら放置すると悪化につながります。

やせには心理的な安心感があるため、子どもが受診を拒むのもこの病気の特徴です。家庭でどこまで見守り、いつ医療機関を受診すべきかの判断はとても難しく、神経性やせ症は、気づいたときにはすでに深刻な栄養失調に陥っていることもある病気です。

子どもの対応に迷うケースはもちろん、成長期なのに体重が減少、もしくは増加しない状況や、月経異常、本人に疲れやすさが続く場合は、早めに専門医に相談することが大切です。

親が正しく理解することが回復への第一歩

鈴木先生:ご家庭のサポートで大切なのは、親御さん自身が病気のことを学び、正しい知識を持って子どもと向き合うことです。

「今、身体はどんな状態なのか」「やせすぎることで、どんなリスクがあるのか」──そうした事実を一緒に学び、本人の気持ちに共感しながら理解を深めていくことが、子どもの行動や意識を変えるきっかけになります。

病気を正しく理解し、子どもの言葉の裏にある気持ちに寄り添うことが、本人に気持ちを伝えるうえで重要。  出典:『摂食障害がわかる本 思春期の拒食症、過食症に向き合う』

子どもたちを守るため大人と社会ができること

──最近では、糖尿病治療の注射薬「マンジャロ」をめぐる問題も耳にします。どのような懸念があるのでしょうか?

鈴木先生:マンジャロは嘔気、下痢、食欲不振を起こすことで、減量効果があり、BMI:35以上、あるいは、BMI:27以上で肥満に関連する合併症がある場合に肥満治療薬として使われます。日本では、肥満治療目的ではまだ保険適用が認められていませんが、自由診療で処方・販売するクリニックがあります。

SNSなどで“やせ薬”として拡散され、子どもが安易に使用するケースも出てきており、実際に保護者の方から、「子供部屋で注射器を見つけました」という相談を受けたこともあります。

マンジャロは、本来医師の診断と管理のもとで使われるべき薬です。低血糖、急性膵炎、アナフィラキシーなど重症の副作用が起こることがあります。成長途中の子どもが自己判断で使用すれば、重篤な健康被害につながる恐れがあります。

──今後、子どもの神経性やせ症を減らすためにはどうしたらよいのでしょうか。

鈴木先生:子どもが受けているストレスを減らす、子どものストレス・マネジメント力を向上させる教育が重要です。また、挫折感を抱いた子どもが、「やせると自信が持てる」という間違った認識を持たないように、社会全体の「やせているほうが美しい」「細ければ細いほど良い」といった価値観を見つめ直す必要があります。

また、神経性やせ症になりやすいとされる“完璧主義”や“努力家”といった特性は、本来は“その子のよさ”でもあります。ただ、大人が完璧主義を奨励、賞賛するばかりでなく、中庸(ちゅうよう)や柔軟性のよさを伝えることも重要です。

そして、健康志向の行き過ぎで、やせを礼賛する傾向があるのは子どもだけではありません。実は親御さんも「やせ=美しい」という価値観が無意識に染みついていて、つい「少しやせたほうがいいんじゃない?」と子どもに言ってしまうことがあります。

繰り返しになりますが、成長期の子どもにとっては、栄養をしっかりとって身体を作ることが何より大切です。大人も自分の価値観を見直し、意識的に変わっていくことが求められています。

多様な生き方を認める社会を、私たち大人が率先してつくっていくこと。それこそが、神経性やせ症から子どもたちを守るために、今、私たちに課された大きな責任です。

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「やせたい」という言葉の奥に隠された本当の気持ちに、私たち大人はどれだけ気づけているでしょうか。神経性やせ症の子どもたちは、静かに“苦しみのサイン”を出しています。

そんなとき、「そのままで大丈夫だよ」「あなたはあなたのままで、十分素敵だよ」とあたたかく伝えてあげられる大人が必要なのかもしれません。

もし気になる変化があれば、ひとりで抱え込まず、医療機関に早めに相談してみてください。

取材・文/牧野未衣菜


おすすめの本はこちら
鈴木眞理先生の監修『摂食障害がわかる本 思春期の拒食症、過食症に向き合う』(講談社)。思春期に多い拒食症や過食症について、原因から治療、家族や学校の対応までをイラストとともにやさしく解説。摂食障害が「心の問題が食に現れた病気」であることを軸に、本人の心理や回復のプロセス、家族ができる関わり方を丁寧に紹介しています。「もしかして……」と感じたとき、周囲の理解と支援の第一歩となる一冊です。

『摂食障害がわかる本 思春期の拒食症、過食症に向き合う』(監修:鈴木眞理/講談社)

●鈴木眞理(すずき まり)PROFILE
内科医・医学博士。長崎大学卒業後、元・跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科特任教授。政策研究大学院大学名誉教授。現在、一般社団法人日本摂食障害協会理事長。

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