ADHD高1息子、課題ほぼ未提出で成績が大ピンチ⁉親の言葉かけと「見える化」で変化は?
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
高校生でもまだ続いてる!?宿題課題の未提出に悩まされる毎日です
神経発達症(発達障害)がある息子のコウは現在高校生です。この連載でも何度か書いてきましたが、ADHD(注意欠如多動症)の特性によるものなのか、彼は昔から「宿題を出す」ことがとても苦手でした。小中学生の頃は、そもそも持ち帰らないことも多く、やっても提出し忘れることも珍しくありませんでした。
そんなコウですが、小学4年生の時だけは、かなり宿題が提出できるようになっていました。毎週配布されるプリントで宿題範囲が示されていたからです。職員室で「丸山コウ君、しっかりしてきたね」と話題になったこともあったそうです。
ですがその後、宿題の範囲がプリントで明示されなくなると、再び提出物は出せなくなりました。中学生になってからは内申点を意識していたこともあり、中学3年生の時点で6~8割ほどは提出できるようになったものの、やはり学年の後半にかけて失速していきました。
「課題の量が多い」と知った上で志望校を選んだコウでしたが……
高校生になってからも、コウの状況はあまり変わりませんでした。プリント類を溜め込みながら通学を続けている彼を見る限り、課題をきちんとやっている様子はありませんでした。
コウは私に「出してるよ?」と言っていましたが、「これはかなり提出していないだろうな」と思っていたところ、個人懇談で先生から「出してると言ってるんですか?それは、嘘ですね!」とバッサリ現状が明かされました。帰宅後、コウにその話をすると「えっ」と目を丸くしていました。
もっとも、私自身もこの春は弁当づくりに始まる生活リズムの変化もあって、リマインドしてあっても予定を忘れてしまうことが増えていました。仕事から歯医者の予約から洗濯までミスが続くようになり、「人のことを言っている場合じゃないな」と思うこともしばしばでした。
ただ、そんな私から見てもコウの状況は中々深刻でした。たまに出し忘れるというレベルではなく「ほぼすべて出せていない」状態だったのです。
1学期の間は学校に慣れることを最優先にしていたため、課題に関しては深く介入していませんでした。課題の範囲や提出期限を私も把握できていなかったため、介入のしようがなかったのもあり、声かけのみ行っていました。
とはいえ、1学期の終盤には成績がしっかり数字に反映されて出てきました。模試や定期テストの順位も、入学時から回を追うごとにじわじわと下がっており、本人もさすがに「まずいな~」と感じ始めたようです。
「授業の進度が早いと、演習問題を丁寧にやる時間はとれないよね。課題って、それを補うものなんじゃないかな。授業と課題が揃って授業が完成するシステムなんだと思うよ」
私がそう言うと、コウは「なるほどね~……」と、少しだけ納得したようでした。
少しだけ、「今までやらなかったこと」を試しているコウです
それからしばらくして、コウは「2学期は課題を出したい」と決意を口にしました。『今はそういう気分なのだろうな』と思って見守っていると、彼は夏休みの課題の範囲を全教科分紙に書き出し、机の前に貼ったのです。
私はそれを見て少し驚きました。コウが自主的に課題の範囲を把握しようとしたのは初めてだったからです。彼は得意げな顔をして「これをやろうと思ったの、すごいでしょ!」と笑いました。
その後も、コウは「今日はここまでやる」と宣言して、毎日少しずつ課題に取り組んでいます。少なくとも、ダイニングテーブルやリビングの学習スペースでやっている分については、確実に進んでいる様子が見られています。
個人懇談の際に教えてもらったタブレットでの課題範囲の確認方法をもとに、コウと「宿題確認制度」を新学期から復活させてみようという話にもなりました。
高校を卒業するまでに、彼自身が「どうすれば自分はやれるのか」「何があれば助かるのか」といったことを、宿題というテーマを通して少しずつ実感していけたらいいなと願っています。
執筆/丸山さとこ
(監修:新美先生より)
コウくんの課題提出に関するこれまでの経緯と、高校生になっての変化について教えて下さりありがとうございます。今までにも丸山さんがさまざまな工夫をして支援してきた経緯もほかの記事で読ませていただいており、高校生になったコウくんが自主的に課題提出に取り組もうとしている姿に、頼もしくうれしく拝読させていただきました。
不注意や自己管理の苦手さは、周囲がどれほど促しても本人が自覚して取り組まなければ改善することがありません。これまでも段階的に、周囲の手厚い支援と本人が自覚してもらえるような取り組みを組み合わせて支援されてきた成果が、今回の変化につながっているのだと感じます。おそらく今まで大人が書き出してくれたことを、今回は「自分で」やってみることができたのですね。また、完全に自分だけでやろうとするのではなく、「宿題確認制度」を復活させてみるということも、本人納得の上でやってみることになったのもいいですね。
本人がいくら自覚してなんとかしようと思っても、特性ゆえに自分の努力だけではやりきれないこともあるでしょう。本人とも相談のうえで、学校とも連携して、必要であれば先生から提出期限のリマインドの声かけをしてもらう……などといった合理的配慮をお願いしてみるということも、今後の自立のために必要な自己管理の一つになっていくかもしれません。コウくんが「自分に合ったやり方」を見つけていく過程を、学校と家庭が連携して支えていけると良いですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。