「働く喪主」の増加で変わる職場の課題 忌引きと業務の両立に企業はどう向き合うか
高齢化の進行に伴い、就業中に家族を見送る「働く喪主」の存在に注目が集まりつつある。
Waterhuman(東京都文京区)が11月5日に発表した調査によると、喪主を経験した就業者の多くが、忌引き期間中および復職後の業務に影響を感じていた。調査では、生産性や心身の状態に何らかの影響を感じた人がいる一方で、勤務先からの支援を望む声も約7割に上った。
喪主を担う世代と業務への影響
働きながら喪主を務める状況は、誰にでも起こりうる現実であり、特に職場の中核を担う層に集中する傾向がある。調査では、喪主を務めた年齢が41歳から55歳であった人が46.3%を占め、企業や官公庁などで働く就業者が大半を占めた。
作業負荷については、喪主としての累計作業時間が「40時間以内」とした人が75.9%であった一方、「100時間以上」との回答も5.4%存在した。忌引き期間中に手続きを終えられず、復職後も対応を続けていた人は78.8%。そのうち18.7%は「2か月以上対応が続いた」としている。
また、忌引きや有給を使った休暇日数は「5日」が最も多く(28.1%)、「10日以上」とする回答も9.4%あった。勤務中に手続きを行ったとする人は63.1%に上っており、業務との並行対応が一定数に生じていたことがわかる。
パフォーマンスや心身への影響
喪主を経験したことによる業務への影響については、「影響はなかった」と回答した人が42.4%で最も多かった。一方で、「体調不良や疲労を感じた」は29.0%、「職場への配慮が負担だった」は26.1%と、一定数が心身や対人面での負荷を感じていたことも明らかになっている。
復職後1か月間の業務パフォーマンスを自己評価した結果、「80%程度」とする人が27.1%で最多。「70%」(19.2%)や「50%以下」(16.7%)といった回答も一定数あり、生産性の一時的な低下がうかがえる。
さらに、「睡眠時間が短くなった」と回答した人は73.9%にのぼり、「悲しむ余裕がなかった」とする人も42.8%に達した。業務と並行して手続きや心身の変化に対応する困難さが見えてくる。
支援への期待と課題
喪主が最も苦慮するのは、「何から始めればよいか分からない」という初動の壁である。
調査では、「行くべき場所が多い」「全体像が見えない」「手続きの優先順位が不明」といった回答が多く寄せられた。情報収集に「5時間以上かかった」と回答した人は29.6%で、主な情報源としては「インターネット検索」(55.2%)、「葬儀社の資料」(49.7%)、「役所の窓口」(46.8%)が挙げられている。
こうした中、実際に支援を利用した人は69.0%に上った。内容としては、「葬儀社による追加サポート」(43.8%)、「士業による手続き代行」(23.2%)、「自治体・行政窓口の支援」(17.7%)などがあった。
支援に対しては、「全体像がわかる手引き」や「ワンストップ型の相談窓口」といった声が多く、手続きの複雑さや情報の分散に対する課題意識がうかがえる。
勤務先による支援についても、「前向きに受け入れたい」(「利用するかは分からないが導入は良いと思う」「ぜひ導入してほしい、自分も利用したい」の合計)との回答が72.0%を占めており、企業による関与への期待も高まっている。
専門家コメント 企業が備えるべき支援のかたちとは
本調査結果について、Waterhuman代表取締役で僧侶でもある新谷覚亮氏は、以下のように述べている。
家族を見送ることは個人の出来事に見えますが、現場では業務の途切れや判断の遅れ、無理な復帰など、組織の課題として表れます。私たちは「人の尊厳」と「仕事の継続」を二者択一にしない仕組みを社会に根付かせたいと考えています。
今回の調査で見えたのは、手続きの複雑さと情報の散在、そして「悲しむ時間が取りにくい」という現実です。企業がやることリストの提示、社内手順の標準化、外部専門家との連携、段階的な職場復帰を整えるだけで、従業員の負担は大きく減らせます。
多死社会を迎える日本において、忌引き支援は福利厚生の「加点」ではなく、健康経営と生産性維持の「前提」です。私たちは企業・自治体・専門職のみなさまと連携し、現場で機能するモデルづくりを進めていきます。
Waterhumanでは、今回の調査結果を踏まえ、忌引き支援の仕組みを「健康経営や人的資本経営の一環として企業が検討すべき課題」と位置付けている。
調査結果の詳細は、同社公式リリース(PR TIMES)で確認できる。