【すてきな山小屋】天上の楽園・八ヶ岳山域へ。山泊デビューに最適のアットホームな『オーレン小屋』
日本百名山の一つ、八ヶ岳。3000m級の山のなかでは比較的アクセスしやすいこの山域には、山泊デビューにうってつけの小屋が点在。その代表格・オーレン小屋を訪ねたら、素朴で心温まるおもてなしが待っていた。
【八ヶ岳・桜平登山口へは】
JR中央本線茅野駅から車1時間
登山口から約1時間半。初心者からのステップアップにも
ザッザッザッ。桜平からの砂利道を歩く音がテンポよく響く。山の上の空はカーンと鳴るほどの青。歩くリズムも軽快になるというものだ。
沢沿いをさらに行くと、苔むす森が心をなごませてくれる。甘くスパイシーな香りは、シラビソから漂っているのだろうか。
登山口から約1時間半歩くと『オーレン小屋』に辿り着いた。迎えてくれたのは、柔和な笑顔の小屋主・小平岳男(たけお)さん。
「ここは八ヶ岳のほぼ中央にあるので、横岳・硫黄岳など六つの山頂が近い。小屋に荷物を置いておけば、身軽な状態で山頂を狙えますよ」
小屋前のベンチでは、いましがた硫黄岳から下りてきたばかりの登山客が昼食を謳歌中。
小屋歴2年目の女性スタッフが「どうでした?」と聞くと「雲一つなくて北アルプスまで見えたよ!」と笑顔。
小平さんいわく「宿泊業のなかでも、山小屋はお客さんとの距離の近さが特徴。ほがらかに接することで、もっと山や山小屋のことを好きになってくれたらうれしいです」。
本日の部屋にとおされると、南西角の個室。『オーレン小屋』は予約の早い順で個室→大部屋の順に埋めていき、特に個室料金はかからないそう。
沢沿いで水が豊富なため、水力発電を利用しており、各部屋にはコンセントを用意。風呂に入れるのも潤沢な水の恩恵だ。
湧き水を沸かした檜風呂で体を伸ばせば、登山の疲れも湯けむりの彼方へ。
山の一夜、アットホームなおもてなしを
お楽しみの夕食は、馬肉を煮込んだ桜鍋。低カロリー・高たんぱくで、体内ですぐにエネルギーになるグリコーゲンを含む馬肉は、山ご飯に最適。甘めの割り下が、地酒「御湖鶴(みこつる)」と抜群に合う。
小平さんに「こちらで飲みませんか?」と促され、第2ラウンドは談話室の薪ストーブを囲んで。
普通、薪ストーブは壁際にあるが、こちらは部屋の中央にあるため人が車座で集まりやすい。薪の爆ぜる音をBGMに、小平さんが4代目になった経緯を話してくれた。
「叔父から継いだのはコロナ禍の4年前。叔父は小屋を閉めると言い張ったんですけど、閉めると登山道が荒れてしまう。登山道整備は小屋の大事な役目ですから。結局、叔父は突如僕に小屋のマスターキーを渡して下山したので、その瞬間ですね、4代目となったのは」
いまある登山道は当たり前にあるわけじゃない。明日、硫黄岳へ登るときは、小屋で働く人々への感謝を胸に、歩いていこう。
翌朝はちょっとチャレンジ。小屋にリュックを置いて硫黄岳へ!
オーレン小屋~夏沢峠~硫黄岳の周遊は約2時間40分。荷物は小屋に置いて、身軽な状態で楽々登山を楽しみたい。
オーレン小屋
住所:長野県茅野市/定休日:2024年の営業は11月3日まで(予定)/アクセス:JR中央本線茅野駅から車1時間の桜平登山口下車、徒歩1時間20分
取材・文・写真=鈴木健太
『旅の手帖』2024年8月号より