終着駅の一つお隣 山奥に佇む「大手私鉄」の秘境駅 南海電鉄高野線 紀伊神谷駅ってどんなとこ?
text & photo:鉄道ホビダス編集部
大手私鉄…そう聞くと都市部と郊外を結ぶ賑やかな路線や列車を思い浮かべることでしょう。実際、今回紹介する南海電鉄も南海本線と高野線という2本のメイン路線を軸に、通勤通学輸送から空港連絡、さらには高野山への観光輸送など、群雄割拠な関西私鉄の中でもその存在感は負けず劣らずです。そんな南海電鉄高野線の末端に、人知れず佇む秘境駅があるのをご存知でしょうか。今回はこの「紀伊神谷駅」に訪れてみました。
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■観光輸送の要所 極楽橋駅の一つ隣
特急「こうや」に乗れば南海難波駅から直通で極楽橋までアクセスする。高野山は外国人観光客も多く訪れる人気の観光地だ。
高野山といえば古くからの寺院が多数存在し、近年ではいわゆる「パワースポット」としても人気が高く、老若男女様々な観光客が多数訪れる場所となっています。そんな観光輸送を支えているのが高野線の終着駅である極楽橋駅です。駅は基本的にそのまま高野山ケーブルカーへ乗り換えることを前提として駅構造で、この駅で降りる乗客はほぼいません。そのため、駅出入口に設けられた改札機も一つだけという、終着・ターミナル駅としては少し特殊な構造をしています。
そんな極楽橋駅よりさらに一つ手前、特急列車は当然通過し、各駅停車でも降りる人が稀な駅がこの紀伊神谷駅です。この紀伊神谷駅は2024年度の1日平均乗降人数は6人と南海電鉄の中では一番少ない駅となっています。それもそのはず、駅前には山道があるのみで目立った施設や民家はなく、少し離れた場所に喫茶店や神社、集落があるほか、記念碑などがいくつかある程にとどまります。
■森の中の駅出入口 夏の日中なのに少し薄暗い独特の雰囲気
森の中にある駅出入口。近くには民家などは存在しない。
駅出入口は木に囲まれており、降りた瞬間から人の気配を感じることはありません。訪れたのは7月中旬と夏真っ盛りのタイミングで、天気も晴れの日でしたが、駅前はかなり薄暗く、森の中らしい雰囲気がまた秘境駅らしさを際立たせていました。駅前の道を少し歩いてみると踏切があり、そこから山を登ってくる(極楽橋方面)列車を綺麗に撮影することができそうです。この区間は南海電鉄の路線の中でも随一の急勾配区間となっており、高野線の最大勾配である「50‰」の標識と一緒に車両を撮影することができました。
■大手私鉄の駅とはいえ秘境駅らしさが色濃い駅
無人駅となって久しいが、今も駅ノートがあり、自由に書くことができる。
そもそも、大手私鉄の中で無人の秘境駅ということ自体が珍しい存在ですが、JR線や地方私鉄に存在する秘境駅と同じように、駅ノートがあるのもまた興味深い点でしょう。中を見てみるとそれぞれが思い思いのメッセージを書き記しており、こういうものをパラパラめくっては、どんな人がこの駅へやって来たのか想像を巡らせるというのも、また秘境駅らしい楽しみ方でしょう。
ちなみに無人化がされたのは比較的最近の2023年で、それ以前は有人駅でした。山奥の駅ではありながら、駅員さんが配置されていたあたりがやはり大手私鉄の駅らしさを感じられる点でしたが、現在では残念ながら窓口も封鎖されています。
■COLUMN
乗り降りするにはちょっと勇気がいる
高野線は橋本駅から極楽橋駅間は単線となっているため、いくつかの駅で交換設備が設けられています。この紀伊神谷駅も島式1面2線でホーム両端にはポイントがあり、例外ではありません。また、この紀伊神谷駅は勾配区間の間にあるわずかな平地にできている上、急曲線上にホームが設けられている点も見逃せません。そのため乗り降りする際は車両とホームの間が極端に広くなっており、踏み外さないように慎重に降りる必要があります。単なる秘境駅というだけではなく、こうした駅構造においても山岳路線らしさが出ています。