首都圏企業の地方移転、363社で最多に 従業員のワークライフバランス向上のメリットが浸透
帝国データバンク(東京都港区)は2月17日、首都圏「本社移転」動向調査の結果を公表し、2024年に首都圏から地方へ本社を移転した企業は過去最多の363社だったと発表した。地方から首都圏への移転は296社で首都圏では67社の転出超過だった。
背景には工業団地や助成金といった「モノ・カネ」中心の移転から、生活環境などの働く「ヒト」のエンゲージメント向上型の移転といった変化があり、同社は2025年度もこの傾向は継続するとみている。
地方移転で従業員のワークライフバランス向上、経営層にメリット浸透
調査対象となったのは、2024年に「東京」「神奈川」「千葉」「埼玉」の1都3県と地方をまたいだ「本社所在地の移転」が判明した企業で、同社が保有する企業概要データベースのうち、業種や規模が判明している企業を分析した。
2024年に首都圏から地方へ本社を移転した企業は、年間で363社に上った。2023年の347社に比べて16社、4.6%の増加となったほか、1990年以降で最多となった。また、1990年以降で初めて4年連続で年間300社を超え、首都圏から地方へと本社を移転する流れが続いた。
首都圏からの転出を巡っては、コロナ禍当初は、急激な環境変化を理由に業績が急変したことで、オフィス賃料などランニングコストの高い首都圏から地方へと移転する動きが急増したが、最近では成長を続ける企業の地方移転が増加傾向にある。
帝国データバンクは、「2024年はウェブ会議を活用したビジネススタイルやリモートワークが定着した企業では、BCP対策による拠点の分散化や、地方創生に貢献する企業ブランドイメージの向上、従業員のワークライフバランス向上といった地方移転におけるメリットに対する理解が、経営層でより浸透した可能性がある」と分析している。
地方の成長企業の首都圏移転は微減も高水準を維持
首都圏への転入企業では、2024年に首都圏へ転入した企業のうち、前年から売上高が増加した企業の割合は48.6%で、前年の50.3%を下回ったものの、高い水準を維持している。
地方の成長企業の首都圏への転入は、首都圏全体で高機能オフィスの供給が拡大するなど移転企業の受け入れ態勢が整っていることが背景にある。
また、帝国データバンクは「取引先との関係構築、人材採用の強化、海外や地方へのアクセス面など、首都圏に本社を置くメリットが大きい点も、拡大・成長する地方の中堅企業が首都圏への本社移転を決断する要因と考えられる」と分析している。
生活環境などで優位性、移転先のアドバンテージに
2025年の首都圏における本社移転について、帝国データバンクは「政府による地方創生に向けた議論が再び加速する中で、災害に備えた首都圏以外への本社機能分散やバックアップ拠点の確保といった動きも加わり、転出超過トレンドが続く可能性がある」と分析している。
その理由として、企業移転の理由が、工業団地の整備や助成金といった「モノ・カネ」中心の移転から、生活環境など「働くヒト」のエンゲージメント向上といった「ストーリー性」が重視されつつあることが背景にある。
同社は「こうした局面では、生活環境などで優位性のある地方都市が移転先の魅力として大きなアドバンテージを得られやすく、今後首都圏からの移転の受け皿として、今後選ばれるケースが増えることも期待される」としている。
ただ、移転先は依然として創業の地など所縁のある場所、事業所や工場など拠点がすでにあるエリアに限られ、新たに進出する形での本社移転は少なく、「今後は本社移転の内容の偏りをどのように解消するかが課題となる」と同社はみている。
帝国データバンクの発表の詳細は同社の公式プレスリリースで確認できる。