小2息子の悪化する宿題ストレス。連日の癇癪、鉛筆はボロボロに…先生に相談してみると
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
ストレス?鉛筆がボロボロに…
1年生から登校渋りがあった長男。2年生も変わらぬ様子で休みながら長男のペースで登校していました。1年生では「友だちができない。友だちって何?」と悩む様子が見られたのですが、始業式の日に自己紹介カードを記入した際、「2年生の目標」の欄に「友だちをたくさん増やしたい」と書いていました。周りの人に興味関心が薄いように見えていたけど、そんな思いがあるのだなぁと私も胸がいっぱいになり影ながら応援していました。
そんなある日、長男の筆箱の中を見るとほとんどの鉛筆がボロボロになり木屑でいっぱいで大変驚きました。どうやらかじっている様子でした。それと同じ時期に宿題がなかなか進まない、手がつけられないという様子が見られるようになりました。
鉛筆をかじるのもストレスかもしれないと気にしていたら長男が私に手紙を渡してきました。その手紙には「ストレスなのかしゅくだいをやるきがなくなったりえんぴつをかじってしまいます。どうしたらいいですか?」と書かれていました。教えてくれて嬉しかったし、自分でもどうしたらいいか分からなくてつらかっただろうなぁと私も胸が痛みました。どうしていくのが良いか2人で話しました。噛むのがもったいなくなるような好きな鉛筆を買おうかとか、ほかで代用できるものはないだろうかとか。宿題は私がいつも見ていたのですが、なるべく私もイライラしないよう心がけようと思いました。
悪化する宿題問題、私も限界を感じて
しかし状況は日に日に悪くなるばかりで、宿題に取りかかるのがだんだん遅くなったり、いざ始めても泣いてしまったり時に癇癪を起こしてしまい進められず、そうしているうちに寝る時間が迫ってきてまたパニックになって泣いてしまうという繰り返しでした。結局鉛筆も使えるものがないくらい全部かじってボロボロでした。私も、落ち着いて進められるように声をかけたり待ってみたりするのですが毎日こんな感じで本当に大変でした。下の子のこともやらなくちゃいけなかったり、家事もしたいし、そこにかなり時間を取られることが私もとてもつらく感じて、結局イライラしてしまうことも多く私自身も自己嫌悪の日々でした。
最悪やれなかった場合、先生に正直にできなかったと話してはどうか?と提案しても、「宿題を忘れていくというのは考えられない、できなかったらもう休みたい」と言いました。その気持ちからか机や壁に「学校へ行きたくない」と書いていたりしました。できなかったことを素直に伝えることも大切だと思うと話しましたが聞く耳持たずでした。
長男は真面目で人の目を気にする傾向が強いため、宿題を忘れていくことでどう思われるかをすごく気にしていました。また、怒られるということにとても抵抗を持っていました。なのでなんとしても終わらせたい。しかしスムーズに進められない。やらなきゃと思うけどできなくて余計に追い詰められて激しく泣いたり怒ったり。そんな様子でした。 だんだん私自身も宿題の時間がつらくなり疲弊していたので、担任の先生にこんなこと相談していいかずっと悩んでいたのですが、限界を感じて相談してみることにしました。先生は親身に聞いてくださり、長男と話をして少し考えてみますねとおっしゃってくださいました。
先生は宿題の量を…?
先生に相談した数日後、宿題のノートを見ると量を減らしてもらっていました。「ここまではやって、ここからはやらなくてよい」と先生が印をつけてくださっていたのです。私はびっくりして、もう一度先生に電話をしました。
ありがたい反面、長男を甘やかす結果になってしまったのではないかという気持ちと、申し訳ない旨を伝えました。
すると先生は、「量が多く感じて苦しくなっていた様子だったので、どのくらいなら余裕を持ってできそうか話し合い少し削ってみました。削った部分は次の日の休み時間などに一緒に取り組んだりして補うという形でやっていこうと話しました。少しずつ量を増やしていって、まずはやれる範囲で気持ちよく『できた!』という成功体験を積んでいけたらと思います。宿題がつらくてますます学校が嫌だなぁと感じてしまったら悲しいので」と話してくださいました。それから長男は比較的スムーズに宿題に取り組めるようになり、先生には感謝の気持ちでいっぱいでした。思い切って相談して良かったなぁと思いました。
それからはだんだんと通常の量をこなせるようになっていき、4年生の今もたまにやりたくなくて怒る時もありますが、2年生の時のようにできなくて激しく泣いたりパニックになることはなくなりました。 鉛筆かじりも2年生の一時期だけで気づいたらしなくなっていました。 みんなと同じ量をこなしたり、同じように勉強を理解したりが難しく、あとから追いかけていくこともいまだによくありますが、やる気をなくさないように手助けしていけたらと毎日試行錯誤の日々です。
執筆/ねこじま いもみ
(監修:新美先生より)
ストレスが大きい時期に、宿題量の調整をしたエピソードを具体的に聞かせていただきありがとうございます。嚙み砕いて木屑でいっぱいになった筆箱を見た時、息子さんからの渾身のお手紙を読んだ時は、お母さんもどれほど胸が痛んだろうかと、他人の私でさえ切ない気持ちでいっぱいでした。それを乗り越えて、落ち着いてきつつあるところまで教えていただきほっとしました。
さて、学校で精いっぱい一日頑張って、家に帰ってくると、へとへとになり、宿題のような努力的な課題をやる気力がわかないということはしばしばあります。ASD(自閉スペクトラム症)の特性があると、集団生活で受けるストレスは通常よりも大きく、また、興味の偏りのため興味ないけどやらなければいけないとわかっていることをやるのに、通常よりもエネルギーを要するのです。なので、皆が当たり前にこなしている宿題が、たとえ学力的な問題がなかったとしても、単純作業のようなものであったとしても、すごくやるのが大変になってしまうこともしばしばあります。
そもそも、一人ひとり学習の仕方も進度も違うのに、クラスの全員が一律の課題を課すような宿題制度は「百害あって一利なし」と常々思っていますが、そんなことを私たちがいくら言っても、実際にはほとんどの学校で、クラス全員が一律の宿題を課されるのが当たり前になっているので、子ども自身も親も、宿題はやって当たり前と思っていることでしょう。帰ってきて、宿題をやろうやろうと思っても気力がわかなくて後回しになり、終わってないのでずっと気がかりでイライラして、親子で言い合いになったり、寝る時間が遅くなったりして、お子さん自身も罪悪感を感じてしまっているのは、とてもつらいと思います。
もし、記事のようにストレス症状が出ていたり、宿題をめぐって毎日親子でバトルになったりする状況があるのであれば、早めに、担任の先生と相談して、宿題の内容や量の調整をすることを全力でお勧めします。
記事の中にも同様のことがありましたが、「できる分だけでいいよ」「できない日はやらなくてもいいよ」というような本人に判断をゆだねる言い方だと、なかなか自分では決められないことも多いので、「ここだけやってこよう」「1か月宿題をお休みにしよう」など具体的にはっきり先生から本人に話してもらうのが大事です。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。