Yahoo! JAPAN

今から、「学園アイドルマスターの新規育成キャラである秦谷美鈴のシナリオが想像以上に素晴らしかったのでこの良さを言語化したい、ついでに学マスの魅力も説明するので皆さん今からでも学マスを遊んでください」

という話をします。

記事の性質上、美鈴シナリオ・手毬シナリオの展開についてのネタバレが含まれますので、ご了承の上お読みください。

まず、学マスについてよく知らない方向けの話から始めます。

「学園アイドルマスター(以下学マス)」は、2024年5月16日にサービスインしたアイドル育成ゲームで、歴史ある「アイマス」シリーズの最新作です。

プレイヤーは、アイドル養成組織でもある「初星学園」に通うプロデューサー科の学生として、アイドル候補生たちを育成し、トップアイドルへと導いていくことになります。

アイドルを育てる過程で、プレイヤー=プロデューサーは

「担当アイドルの体力がなさ過ぎてトレーニングの度に倒れる、うっかりすると通学中に倒れる」とか、

「叱れば叱るほど何故かアイドルが大喜びしてもっと厳しい言葉を欲しがる」とか、

「ライブやレッスンに成功する度に何故かあからさまにモチベが下がる」といった、様々な苦難・トラブル・理不尽な状況と戦うことになります。

全部篠澤広の話ですが。

「アイマス」シリーズの魅力の大きな柱が、「担当するアイドルのキャラクターとしての魅力」と「アイドル同士の関係性」であることは間違いないでしょう。

可愛いキャラしかいないですよね、アイマス。可愛いキャラと可愛いキャラが会話していれば、見ている側が幸せになるというのは自然の摂理です。

ただ、「学マス」に登場するのは、いわゆる「アイドル」という言葉から想像されるようなキラキラしたキャラクターたちばかりではない、というかキラキラどころか想像以上にアクが強いキャラ揃いでして、ただ彼女たちの会話を聞いているだけでも十二分に「学マス」世界を楽しむことができます。

まず、そんな「学マス」の育成対象アイドルの一人である「月村手毬」の話から始めさせてください。

月村手毬について

月村手毬は、「学マス」発表当初からクローズアップされてきた、いわゆる「信号機」トリオの一人です。

ポケモンのヒトカゲ・フシギダネ・ゼニガメみたいなもので、アイマスシリーズには伝統的に「赤・青・黄」をイメージカラーとする看板キャラクターが登場するのですが、手毬は学マスにおける信号機トリオの「青」担当です。

アイマスの青担当といえば、如月千早や最上静香、風野灯織や渋谷凜あたりに代表されるように、(少なくとも表面的には)「クール」「ストイック」「冷静」「物静か」といった言葉で表現されるキャラが多いのですが、手毬は育成を始めると瞬時に化けの皮が剥がれるレベルで、そういった属性とは真逆です。

上昇志向が強くレッスンに真摯な点でストイックとは言えるものの、実際には甘えん坊で怠け者で臆病、ライブでは本番前のリハーサルで体力を使い果たし、ダイエット中でもこってりしたラーメンを食べたがり、口を開けば大体暴言から即炎上コース。しかも「暴言の影に深い考えと思いやりが」というパターンではなく割とシンプルに口が悪いだけという、「主役級キャラでこのアクの強さは許されるのか」というレベルでキャラ付けの濃いアイドルです。

本人の認識的には「一匹狼」らしいですが、内心では暴言の後毎回後悔したりビビり散らかしている為、ファンからの通称は「チワワ」です。

N.I.Aシナリオの13話で、四音と撫子に煽り合いで完全勝利しながらビビりまくってるところ好き過ぎる(そしてとばっちりを受けることね)。

ただ手毬、容姿と歌はものすごく良い。特に、手毬の持ち歌「アイヴィ」と「Luna say maybe」は、いずれもかなり最高の歌ですので皆さん聴いてみてください。アイヴィ、歌の展開もメロディもめちゃめちゃ好き。

秦谷美鈴とその育成シナリオについて

で、この記事のメインである「秦谷美鈴」は、その手毬の幼馴染みとして、育成対象ではないものの、初期から登場していたキャラクターです。

中学時代は手毬と同じグループ「SyngUp!」で活動しており、アイドルとしての能力、完成度は手毬以上。

一見すると穏やかで真面目そうなキャラに見えるものの、実際には極めてマイペースな性格で、レッスンや授業をサボるのは当たり前、キャラクターの能力表示では「素行ゼロ・傲慢さ最高」という表示でプロデューサーたちに衝撃を与えた、手毬とは別方向でこれまた非常にアクが強い設定のキャラクターです。

その美鈴が、先日学マス一周年記のタイミングで育成キャラとして実装されたのですが、このシナリオが実に素晴らしかったんですよ。

美鈴シナリオの何が良かったか、というのを一言で表現すると、「執着の理由明示による、キャラクターの軸の統一」だと考えています。

秦谷美鈴というキャラクターは、サポートカードイベントを中心に、サブキャラとしては何度も登場してきました。そして、その登場パターン、というか美鈴というキャラクターの語られ方には、大きく二本の軸がありました。

つまり、

・手毬との関係性、手毬というキャラへの執着
・補習組(千奈、広、佑芽)や生徒会との関係性、およびのんびりしたマイペースな側面

の二軸です。

例えば、サポートカード「また、あんなに無理をして」や「何やってるんだろう」などのコミュ、また手毬のメインシナリオでは、主に「手毬と美鈴の関係」という視点から、美鈴というキャラクターが掘り下げられてきました。

SyngUp!での経緯から、一時的に手毬と美鈴が絶交していたこと、そんな中でも美鈴が手毬のことを気にかけ続け、隙あらばお世話をしていたこと。

また、ことねを始め、手毬に自分以外の友人が出来ると動揺したり嫉妬していた様子。この辺りが、こちらの軸での美鈴というキャラの描写の基盤になっています。

つまり、

・手毬に対して非常に過保護で面倒見がよい、というより甘やかしがち
・諸事情で絶交中なものの、美鈴側からは現在でも手毬のことを気にかけている、というより手毬に執着しており、手毬の友人関係にすら嫉妬しがち
・アイドルの能力としては手毬以上で、既に完成度が高い

といった点です。ちなみに、手毬を(文句言いながら)お世話することねに嫉妬する描写はあちこちで出てきますが、「許しませんよ藤田ことね」とは一言も言ってません。

一方、例えば「私の目に狂いはない」や「一年二組のアイドルたち」などのコミュでは、普段の授業や生徒会での美鈴の人間関係、また美鈴の授業サボりやマイペースさについて主に描写されます。

広や千奈、佑芽を助けたりフォローすることについては積極的なものの、レッスンや授業、生徒会での活動についてはサボりがち、星南やトレーナーをはじめ、周囲も美鈴の行状に苦戦していることが伺えます。

「クラス対抗初星大運動会」のイベント、広をフォローするために美鈴が本気出すシーンもめちゃくちゃ良かったですよね。「あなたが2組のMVPです。だって、わたしをやる気にさせたんですから」の台詞、物凄くかっこよかった。

お分かりいただける通り、ここまでで主に描写されているのは、飽くまで「他のキャラ視点の美鈴」であって、美鈴本人の内面や動機を深く掘り下げるものではありませんでした。

私、実を言うとこの時点では、「ここまで手毬との関係性が強烈な美鈴を、育成キャラとして魅力的に描写できるものなんだろうか？」と、勝手に心配していたんですよ。

学マスが育成シミュレーションである以上、育成キャラのシナリオは、飽くまで「プロデューサーとアイドルの関係」という軸の上で描かれます。

プロデューサーを信頼し、プロデューサーと共に歩み、アイドルとして成長していく姿こそ、学マスの王道です。また、プロデューサーに感情移入するプレイヤーにとって、アイドルの魅力を直接感じ取れる部分でもある。

しかし、美鈴というキャラは、アイドルとして能力が高すぎるし、あまりにも「手毬への執着」が強く描写され過ぎている。

美鈴を育成する上で、手毬の存在があまりに大きすぎると、肝心のプロデューサーとの関係性が置いてけぼりにされてはしまわないか？と。

プロデューサーとの関係をメインに描写されたら、それはそれで「手毬どうなった？」となってしまいはしないか？と。

上記が完全に見当外れな心配だったことは、「ツキノカメ」秦谷美鈴が実装されてすぐに理解できました。

「ツキノカメ」のアイドルイベントや、育成のメインシナリオの中で、自分のアイドルとしての思いや動機について、美鈴はこんな言葉を発しています。

「あらゆる娯楽の中から、秦谷美鈴を選び続けて欲しい」
「いままで大切にしていたものが霞んでしまうくらいわたしに夢中になって欲しい」
「わたしがいないと生きていけないようにしたい」

これ、つまりどういうことかというと、美鈴は手毬どころか全人類を自分に依存させたいと思っている、ということですよね。

更に、育成のメインシナリオ中では、プロデューサーをあの手この手で甘やかし、自分に依存させようとする姿の他、「SyngUp!が解散して以降、甘やかす対象がいなくなって困っている」というような台詞も描写されています。

また、プロデューサーはそれをかわすことに苦戦しながらも、何とかプロデュースを上手く回らせようと、あの手この手で努力しています。

美鈴の「依存させたい欲求」の向き先は、そもそも手毬に限定されておらず、あらゆる人たちに向いていた。結果、プロデューサーも当然のように「依存させたい」対象になっていた。

まず、この重たすぎる軸を一本通すことによって、「美鈴の手毬に対する思い」と、「プロデューサーと美鈴の関係性の発展」は完全に両立した上に、「SyngUp!」で美鈴が手毬のフォローに回っていた理由まで明示された。

つまり、美鈴というキャラの存在基盤が明確になった。

更に、ともすればプロデューサーまで美鈴の依存させたい欲求に流されそうになってしまう描写から分かるように、美鈴の「依存させ力」は非常に大きなものだ、ということも分かります。

美鈴に甘えた人は、恐らく容易に「美鈴がいないと生きていけない」ようになってしまう。それに対して、「あれがあの子のマイペースなのかも知れない」という美鈴の言葉からも分かる通り、ただ一人「自分のペース」を保ち続けられているキャラが一人います。

そう、月村手毬です。

美鈴シナリオの物凄く好きな場面の一つとして、「手毬のライブの後、ドヤ顔をしている手毬の横で、1組のメンバーが疲れ切った顔をしている」というシーンがあります。

ここ、咲季やことね、清夏やリーリヤがいい子たちだなーという点でも良い場面なんですが、「手毬は美鈴以外にも甘えられる」という描写でもあると思うんですよね。つまり、美鈴の「甘えさせパワー」が天井知らずであるのと同じように、手毬の「甘え力」も天井知らずである、と。

「全人類を自分に依存させたい」という思いだけだと、「じゃあ何故手毬に執着しているのか」の答えにはならなかった。

けれど、手毬のライブまで描写されたことで、「美鈴の甘えさせパワーを受け止め切れるのが手毬くらいしかいなかったから」という解答までが明示された。

この点で、手毬株が私の中で無駄に爆上がりしてしまいました。まりちゃんの甘えん坊パワーが我々の想像を超えていた。もはや手毬のことはチワワ呼ばわりするべきではなく、ハイパーチワワ様と呼ぶべきです。

「手毬軸」だけでも、「プロデューサー軸」だけでも、美鈴の育成シナリオは完成しなかった筈です。

けれど、「美鈴の動機」という新たな軸を話に導入しつつ、美鈴も手毬も想定以上にやべーやつであることを描写することで、手毬-プロデューサー-美鈴という三者が、それぞれのやり方で、それぞれの目的を目指すことを、手毬シナリオの10話と整合までさせつつ描き切った。

これが、美鈴シナリオの完成度すげーな、と私が考えた理由です。

もちろん他にも美鈴シナリオの見どころはたくさんありまして、

・動機云々以前にシンプルに激重い美鈴の挙動・言動
・何故か雨ごいの方法をあさり先生に尋ね始めてあさり先生を混乱させるプロデューサー
・トレーナーたち三人に日常的に激詰めされているプロデューサー
・N.I.Aシナリオでもうすうす分かっていた、燐羽がSyngUp!でどれだけ苦労していたかが明確になった点
・平然とまりちゃんの限界オタクをやっている美鈴
・何故かライブ当日に当然のように胃薬を用意しているプロデューサーの理解度
・なんだかんだで付き合いの良い1組の面々
・ライブの後に、それぞれの表現で美鈴を褒めてあげるプロデューサーと手毬
・単純に美鈴の容姿が強すぎる件

などなどなど、学マスの全アイドルの中でもトップクラスではないかと思えるほど、存在感と見どころ満載なシナリオであるわけです。

この感動を味わうためにも、是非手毬シナリオと美鈴シナリオを皆さんにクリアして欲しいなーと考える次第です。SRやRでもメインシナリオは問題なく味わえるので、是非。

いやー、美鈴のN.I.Aシナリオも楽しみですね。IF展開でもいいからSyngUp!再結成して欲しい。

それ以外の学マスの魅力について

さて、ここまで手毬と美鈴のことばかり書いてしまいましたが、それ以外の学マスの楽しさにも触れておきたいと思います。今更の部分も多いですが、箇条書きします。

・今までの音ゲーから完全に方向転換して、「Slay the Spire」のようなローグライクカードゲームを、アイドル育成と非常に相性の良い形でゲームに落とし込んでいる点
・まさかアイマスで「ドミニオン」のようなデッキ構築バトルが楽しめるとは思いませんでした
・Plvが上がるごとにどんどん使える手札が増えていって、デッキ構築の方針も変わっていくのが楽しい
・ただPlvを上げること自体はけっこう大変なのでもう少し緩和して欲しい
・スコアを突き詰めるのでなければ、サポートカードの凸があまり求められないのも良いところですよね(コンテストガチ勢は別なのかも知れないが)
・センスとロジックもそれぞれ好きなのだが、アノマリーでは考えることがいきなり増える上、キャラによって全くプレイ指針が変わるの大変だけど好き
・最近実装されたアノマリー千奈、何をやればいいか全くわからないです誰か助けてください
・要は元気を稼ぎつつ、いい場面で強気にすることでスコアを回収すればいいのか……？タイミングが難し過ぎる……
・それはそうと、育成シナリオはどのキャラも非常に面白いので是非全員見て欲しいんですが、個人的には広シナリオが特にお勧めです
・広シナリオにおけるプロデューサー、莉波シナリオのプロデューサーの次くらいにぶっ飛んでいて好き
・「私たちの趣味は、夢にだって負けない」って台詞、学マスで最高の名言まであると思います
・私は手毬・広担当のつもりなんですが、キャラクターとして一番好きなのは千奈ちゃんかも知れません
・自分の弱さや実力不足、そして恵まれた立場を完全に理解しながら、それに引け目を感じることなく謙虚さも保って、一方アイドルを目指すことについてはどこまでもひた向きで真っすぐなの、大変尊くて良いですよね
・ライブシーンとしてはリーリヤの「白線」が一番好き
・「何で初ライブの新人アイドルに、キーがこんなに爆上がりしていく曲を歌わせるんだ……！？」という思いと、リーリヤの頑張りが一致するの良いですよね
・あと、なんといっても「Luna say 　maybe」のステージで、「3秒前バックステージ震える背中を君に預けて」の歌詞のところで、手毬が一瞬こっちを振り向いて手を伸ばすところが好き過ぎる
・やっぱり、「そのステージにたどり着くまでに何が起こったのか」が、学マスというゲームシナリオの最大のキーだと思うんですよね
・歌は全曲良いんですが、曲単体としては「冠菊」が一番好きかも
・「忘れたくない繚乱の高揚を」での盛り上がり方が素晴らしいですよね
・「暗闇に咲く葛藤と見つめ合っていたい」っていうフレーズ、「咲」「葛」「藤」の文字が全部含まれてますねって指摘してた人がいて好きーーー！！！ってなりました
・あと、ライブで「メクルメ」やったって聞いたんですが本当でしょうか……あれ人間がライブで歌える曲なんだ……

随分長く書いてしまいました。

記事の趣旨をまとめると、

「美鈴シナリオは非常に完成度が高いですし、他アイドルシナリオもみんな面白いしゲーム自体も楽しいので皆さん学マス遊んでくださいよろしくお願いします」

という点だけでして、他に言いたいことは特にありません。よろしくお願いします。

今日書きたいことはそれくらいです。

***

【著者プロフィール】

著者名：しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ：不倒城

Photo：Nguyen Khanh Ly