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「コミュニティ型こどもホスピス」が増え始めた 小児がん・心臓疾患・重い病でも「子どもらしく」いられる“特等席“の中身

コクリコ

重い病や障害とともに生きる子どもとその家族を支える「こどもホスピス」ルポ第1回。その成り立ちと存在意義、国内の動きについて。全5回

【写真➡】第1回こどもホスピス「うみとそらのおうち」を見る

いま国内には、小児がんや重い心臓疾患など、命を脅かす病とともに生きる子どもたちが約2万人いると言われています。その多くが、病院か自宅だけで過ごすことが多く、遊びや学びといった子どもらしく生きる時間を奪われた状態にあります。

そんな子どもたちと家族を支える「こどもホスピス」が、国内で広がりを見せています。

2024年11月で3周年を迎えた横浜こどもホスピス「うみとそらのおうち」の取り組みを中心に、「こどもホスピス」の存在意義と重要性についてレポートします。

既存の「ホスピス」と「こどもホスピス」は別物

毎年11月になると、横浜市金沢区にあるこどもホスピス「うみとそらのおうち」では、この施設を利用した子どもたちと家族の写真展が開かれます。3周年を迎えた昨年(2024)11月下旬の週末にも、50枚以上の写真を展示。2日間で約300人が訪れました。

うみとそらのおうち、通称「うみそら」を運営する認定NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクトの代表、田川尚登さん(67)は、「ここを利用するご家族の様子を、ご家族やスタッフが撮った写真を地域の方にご覧いただき、知ってほしいと考えて写真展を続けています。来場者も増えて、こどもホスピスの存在が少しずつ周知されていると感じますね」と話します。

うみそらは、医療機関とは異なる、国内2例目の「コミュニティ型」のこどもホスピスとして、2021年11月21日に開設されました。2階建ての施設には、利用者のニーズに柔軟に対応するためのフリースペースや、大勢で料理できる対面型キッチン、家族で入れる大風呂や寝室を兼ね備えています。

オープン翌年の22年から順調に利用者が増えており、累計で約670家族、のべ約2500人。田川さんも「この施設の存在が、社会に認知され始めていると感じます」と語ります。

ここで、「こどもホスピス」がどんな施設なのかということを、説明しましょう。

日本では「ホスピス」というと、多くの人が、「末期のがん患者などが痛みなどの緩和ケアを受けながら余命をまっとうする施設」を思い浮かべると思います。しかしこどもホスピスを正しく理解するうえで、既存の「ホスピス」のイメージとはまったくの「別物」ということを前提としなくてはなりません。

いうなれば「こどもホスピス」とは、病や障害とともに生きる子どもたちが治療から離れ、子どもらしく生きる時間を取り戻すための「特等席」のような場所であり、取り組みなのです。

「うみとそらのおうち」の外観。優しいクリーム色の壁面と、魚のイラストが躍動する窓ガラスが目を引く。室内と庭にしつらえたブランコは、子どもたちに大人気。  写真:浜田奈美

2024年から「うみとそらのおうち」で新たに始まった「ファミリーデイ」の様子。施設を利用する家族がさらに気軽に楽しめるように、その日の体調と気分で自由に過ごす。  写真提供:うみとそらのおうち

イギリス発の「コミュニティ型」こどもホスピス

その起源は、1982年にイギリスで開設された「ヘレン・ハウス」と言われています。教会のシスターだったフランシス・ドミニカさんが、知人から重い病の2歳児「ヘレン」を預かった経験から、重い病の子どもとその家族には社会の中に居場所がないことを痛感し、彼らを支える医療機関以外の施設として、こどもホスピスを設立しました。

ヘレン・ハウスから欧米へと広がったこどもホスピスには、子どもが安心して過ごすために看護師や医療従事者が待機するほか、子どもの遊びや学びを支える専門家やボランティアたちが集まり、子どものやりたいことや挑戦したいことを叶えるために、寄り添います。そして子どもが旅立った後も、親やきょうだいなど家族の悲しみに寄り添うサポートも続けられます。

日本でこどもホスピスが誕生したのは、国の「第2期がん対策推進基本計画」の中で、重要課題として「小児緩和ケア」が位置付けられた2012年でした。この年、淀川キリスト教病院(大阪市淀川区)が小児専用の緩和ケア病棟「こどもホスピス」を院内に開設しました。

2016年には、東京都世田谷区の国立成育医療研究センターが、医療的ケアが必要な子どもと家族のための医療型短期入所施設「もみじの家」を、センターの敷地に併設する形で開設。そして同年、医療機関ではない「コミュニティ型」と呼ばれるこどもホスピスが、大阪市鶴見区に誕生しました。「TSURUMI(つるみ)こどもホスピス」です。

医療機関である前述の2施設と異なり、「TSURUMIこどもホスピス」は、子どもたちのレクリエーションやリラクゼーションに特化している施設です。医療制度にも福祉制度にも紐づいていないため、建設費も運営費も、企業や個人からの寄付で賄っています。

寄付を集めることは容易ではありませんが、制度に縛られていないため、運営の自由度は高いといえます。そのため「TSURUMI」のような「コミュニティ型」であれば、医療法人や医師でなくても「こどもホスピス」の設立を目指せます。全国に広がる「こどもホスピスプロジェクト」が目指しているのは、この「コミュニティ型」のほうです。

うみそらも「コミュニティ型」のホスピスとして、2021年11月に誕生しました。NPO法人の代表である田川さんは、もとは会社員であり、1998年2月に次女のはるかちゃんを小児がんで亡くした父親の立場から、プロジェクトを立ち上げた人物です。

次回は、会社員だった田川さんが横浜市にこどもホスピスを立ち上げるまでのストーリーをご紹介します。

取材・文/浜田奈美

フリーライター浜田奈美が、こどもホスピス「うみとそらのおうち」での物語を描いたノンフィクション。高橋源一郎氏推薦。『最後の花火 横浜こどもホスピス「うみそら」物語』(朝日新聞出版)

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