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『戦隊大失格』ザ・ショー出演、エル・デスペラードインタビュー「見る人にとって、僕がプロレスラーであることは関係ないと思っている」

SPICE

エル・デスペラード

「週刊少年マガジン」で連載中、2024年4月からアニメ化もされた『戦隊大失格』が『戦隊大失格』ザ・ショーとして9月11日から16日まで東京ドームシティ シアターGロッソで上演される。この作品に新日本プロレスから「ならず者ルチャドール」エル・デスペラードが出演、初舞台を踏む。新日本プロレスのジュニアヘビー級のカリスマとして活躍する彼が何故舞台に出ることになったのか、どういう思いで舞台に挑むのか?SPICEとしては初のインタビューでその思いに迫った。

■戦闘員Fにはシンパシーを感じている

――今回、『戦隊大失格』ザ・ショーで舞台初出演になりますが、出演の話が来た時にどのように思われましたか?

戦闘員Fという役をやってほしいと言われて、逆に僕でいいんでしょうか? というか、本当に僕でいいんだろうか? と思いましたね。作品の名前は知ってたんですが、読んだことがなかったので、まずアニメを見て、このキャラか、というのが分かった上で、原作を改めて読んで。この心情を表す喋りを僕にしてほしいんだろうな、と思う部分はありました。

6月10日に、後楽園ホールで主宰興行『DESPE-invitacional』をやらせていただいたんですが、その際に毎試合のテーマというか、なぜこの試合を組んだのかみたいな説明を入れるナレーションを録ったんです。その時に今回オファーしてくれた人が、僕の喋ることに対するちょっとした能力というものに気付いてくれて、それを活かしてほしいと言っていただいたので、僕にできることだったらありがたいな、という気持ちでしたね。

――ご自身が演じることになった戦闘員Fという役について、色々とシンクロする部分があるという話も拝見しました。

原作を読まないで舞台から作品に触れる人にはネタバレになっちゃうだろうから、この辺はふわっと飛ばしていただいていいんですけど(笑)。一旦原作を知っている体で話させていただきますね。

原作があってそれを舞台化するとか、アニメがあって舞台化するとかって、やはり原作のファンの方が見てくれることが多いと思うんです。だから原作で愛情を持っているキャラクターが、演者と舞台でどういうふうに生きていくのか、という見方をする人もいると思っていて。

――そうですね、推しのキャラがどう表現されるか、というのはあると思います。

原作とアニメでは戦闘員Fって結構落ち着いてるんですよね。どこか達観してるっていうか、ちょっと諦めてるというか。もうこうなっちゃったんだから諦めようよ、みたいな若干後ろ向きに前向きというか。今をキープしてりゃいいじゃんっていう状態なんですよ。

でも、主人公である戦闘員Dに触発されて行動を起こす部分があって、僕もプロレスラーとして、人に顔向けできないというか、上がりきれないというか、人様にデスペラードを見に行こうと思ってもらえるようなものを提供できない時代が多くて、それって結構その時の戦闘員Fと同じなんじゃないかな、と思ったんです。

――戦闘員Fに対してシンパシーを感じたと。

僕はその時は足掻いてはいたんですけど、結構な無力感というか、絶望までいかないですけど、結構、もうこれはしょうがねえなと半分諦めているような状態で。でもやっぱりいろんな人の試合や活躍を見てジェラシーもあったし、実際、尻を叩いてくれたり背中を押してくれたり、上から引っ張ってくれるいろんな人がいて、前を向けて前に向かって進んでいって、今のプロレスラーとしての僕があるんです。

戦闘員Fも、戦闘員Dに気付かされて行動を起こすんですけど、劇中で最後に言った一言が印象的でしたね。彼らの本当の目的は全然達成されてないんですけど、毎週、無駄にダラダラなんとなく、やらなきゃいけないことをこなして……。

人間は無駄に生きてるという事はないと思ってますが、この作品では戦闘員ってある意味永遠の存在だから、本当に無駄に生きてる、になってしまうんですよ。その無限のような無駄な時間を、戦闘員Fは物語の中で自分の意志で有意義に過ごせたんじゃないかなと思うと、やっぱり僕がどうしようもなく上がり目がなかったところから、ようやく人から見てもらえるステージに上がれたっていうのと、凄く勝手にシンパシーを感じて。自分が思ってたこととか感じてたことを、僕も表せるんじゃないかなっていうのが結構大きいです。

――デスペラード選手で言えば、新日本プロレスのジュニアヘビー級の祭典『BEST OF THE SUPER Jr.』で今年優勝され、SHO選手とのタイトルマッチでIWGPジュニアヘビー級のベルトを戴冠しましたが、後にDOUKI選手に奪われるなど、波乱万丈な印象がありました。勝利も敗北も色気を感じるというか、生き様を感じながら試合を見せていただいていたので、戦闘員Fの生き方に共通する部分も感じていました。

そう思ってもらえるのは本当に嬉しいですね、ありがとうございます。

■舞台出演がプロレスに与える影響があるかはわからない

――脱線してしまいました、戦闘員Fを演じるという部分ではいかがですか?

戦闘員Dをやられる富永(勇也)さんと、演出の久保田(悠来)さんと稽古中に沢山相談させていただいています。演技に関しては、漫画とかだと自己補完する部分ありますが、舞台とかアニメってどんどん進むじゃないですか。だから、戦闘員Fと戦闘員Dの関係値っていうものをこっちからバーンって表さないといけないと思っていたんです。その時「今のままだとちょっと戦闘員Dと戦闘員Fの関係が薄いと思うんです。そこを表したいんですけど、どうしましょう?」ってお二人から相談されたんです。それが凄く嬉しくて、もっとやっていいんだ! じゃあこういうのどうでしょうか? とか、ああいうのやってみようと思います、って自分からも提案できるようになってきましたね。

――実際稽古に初めて入った印象はどうでしたか? 稽古を受けて自分自身が主戦場であるプロレスの試合に影響を与えたりはありそうですか?

まだ舞台というものをちゃんとお客さんの前でやっていないので、今このまま例えば(公演を)やった、と仮定して、試合に復帰したとしても、どうなるかはまだ分からないです。膝を壊して欠場中なので、体を取り戻す練習をしてリングに戻ったときに、多分初めて感じるもので、正直想像もつかないです。

色々な指導をいただいて、仲間たちとワイワイやりながらやっていることが、絶対何かプラスのことを与えてくれてはいるはずなんですけど、それを自分で分かっているかというと、まだ分かっていない状態ですね。舞台の稽古を始めてからプロレスをしていないので(笑)。復帰して、お客さんのいる前でロックアップして受け身を取って……影響があるとしたら、その時初めて感じるかどうかじゃないですかね。自分で実感出来るかも怪しいです。

――実際にプロレスの現場に立たないと分からないと。

稽古に関してはみんなが凄くフランクに話してくれるし、プロレスに関しても練習の仕方だとか食事だとか聞いてくれたり、凄く気さくに話してくれています。僕が合流させてもらった時、まず一番最初に喋ってくれたのがアンサンブルで参加される海田波知くんなんですが「よろしくお願いします!」って言ってくれて。初日からすごい助かるな、楽しいなって思えたんです。今回オープニングとエンディングに個人的に相当難しい演出がついていて、苦戦していた所を波知くんが10回も20回も一緒にやってくれたのは凄く助かりましたね。

――デスペラード選手は元々アニメやゲーム、音楽に造詣が深いですが、舞台も興味あったんですか?

見ること自体はとても好きで、2.5次元だけじゃなく、劇団☆新感線が好きですね。最近で言えば不運なことに、ウマ娘の舞台『「ウマ娘 プリティーダービー」~Sprinters’ Story~』のチケットを買ってたら、コロナの影響で中止になっちゃたり、『舞台「リコリス・リコイル」life won't wait.』に行く約束をしてたら身内の都合で行けなくなり……2.5次元を見る前に出ちゃったっていう新しい感じです(笑)。まあ2つとも配信で見させてもらったんですけど。

――自分が舞台に役者として出ることに関しては自然な流れだったんでしょうか?

戸惑いはありました。そもそも稽古場の作法が分からないんですよ。僕自身「何を分からないのかが分からない」状態だったので、マネージャーと話をして、稽古に入る前に個人レッスンのようなものは受けました。

――先程もお話がありましたが、現在左膝半月板損傷のため欠場中となっていますが、その間もやることが出来たという感じになりましたね。

そうですね、目的意識を持って動けることは凄くありがたいです。どれくらいかかるか分からない復帰までの期間、体を戻そうと思っても、ゴールが決められないからモチベーションに響くんですよね。ウエイトトレーニングで体をでかくしようという欲も落ち着いているので。維持のためにやりますけど、それよりは動く練習がしたくなってきた中で、舞台でセリフを覚えて、動きも動線を切られてきまっていて、しかも殺陣もある。自分の役がその時、何をどういう風に考えてこんなこと言ってんのかっていうセリフを解読して言葉にして、それら全部を自分の中で構築して……今凄く充実してますよ。

リハビリもずっと続けているので、やりながらの稽古は正直、身体的にはしんどいですが、それを越えてめちゃくちゃ楽しいです。プロレスラーが表現するものは自分の生き様なわけじゃないですか? でも俳優さんが表すものは別の誰かなんです。それって凄いなって思いますね。実際やってみて僕が戦闘員Fだったら、こう考えるっていうのを自分で再現しているのが凄く新しい感覚です。とにかく楽しいです。

――稽古自体は現時点で1カ月くらいですか。

そうですね、もう必死も必死ですよ(笑)。普通に出てくる舞台用語が分からない。「紗幕ってなに?」とか聞けないし(笑)。

■母の影響で培われた物事への「ひねくれた見方」

――9月9日の新日本プロレスでは、舞台とのコラボマッチにセコンドとして出られることになったわけですけど、そういう外の業界からプロレス界へのコラボレーションを行うことに関してはいかがでしょうか?

嬉しいですよね。業界を全部ひっかき回したいです。今回やって分かったんですけど、舞台をやってる周りのアンサンブルの仲間たちとか、主演の富永さんだったり、一緒にやっている人たちは凄い人なんですよ。面白くて凄くカッコいい、もっと知られていい。プロレスも、舞台も、どちらの業界ももっと開かれて、もっと世間に見つかっていいはずだなっていうのは非常に感じました。第0試合の10~15分ぐらいしかないのかもしれないですけど、新日本でリンクするっていうのは大きいんじゃないかと思ってます。

――新日本でも外からの人間で外を見られる要素っていうものを、これを機会にもっと取り込んでいきたいと。

そうですね。新日本プロレスが守るべきラインというものを守りつつ、いろんな業種とのミックスアップっていうのはあっていいと思います。

――では、作品としての『戦隊大失格』の印象もお聞きできれば。

僕が中学校くらいの時に思ってたことをそのまま具現化されていると思いました。僕はどちらかというと、ウルトラマンより怪獣が好きなんですよね。毎週デザインが違うし、やることも結構えげつなかったり、仮面ライダーの怪人たちも目的意識がちゃんとはっきりしてる。『仮面ライダーBLACK』もブラックよりシャドームーンの方が好きでしたし。

『戦隊大失格』はそこを掘り下げていて、どちらかというと戦隊の方がやってることがえげつない。こんな物語の作り方するんだ、って面白かったです。

――戦隊と怪人たちのあり方みたいなものの根底をひっくり返した物語だと思っていますが、デスペラード選手も「ならず者ルチャドール」という異名もあり、ちょっと目線を変えたところから本流をひっくり返していくスタイルみたいな部分で、共通点があるのかなと思ったりしたんです。

これ、多分お袋のせいなんですよね。僕、昔から絵描くのが好きだったんですよ。でも普通のものを描くとつまらないって言われるんですよ。正面から見たものしか描いてないからつまらないって言われて。

――お母様に言われたんですか?

そう、お袋曰く、もっといろんな見方をしろって。物語を読むときも、表から裏から考えて読んでみろって言われたんですよ。小説を書いてる人はこれを見てほしいっていうものをちゃんと書くじゃないですか。でも、それで描かれていないそのシーンにいるはず、登場してないけどいるはず存在しているはずのそのキャラクターたちは、そのとき何をしてるだろうと考えるっていうのが物の考え方だと言われて。

――すごい素敵なお母様ですね……。

与えられたものをそのまま受け取るんじゃなくて、お前自身で考えてみろって言われて。それを小学生の低学年に言うのってどうなんだろうって思うんですけど(笑)。そこから物の見方はひねくれましたね。だから僕、佐藤光留さん(プロレスラー パンクラスMISSION所属)とか好きなんでしょうね。

――ちょっと違った目線を持った作品に、デスペラード選手が参加するのは凄く意味があるというか、整合性があると思います。

ご縁でこうやって参加させていただくんですけど、そういうふうに出る作品に整合性があるって言ってもらうのは凄く嬉しいですね。

――俳優業をやるにあたって、舞台の世界で吸収したいものなどはあるんでしょうか?

何か盗んでやろう、とは正直思ってなくて。全力でやらないと失礼だ、ってだけですね。なにか持って帰って、プロレスで役に立てようという発想は、今のところ一個もないです。僕が舞台に上がらせていただくことの価値は、幕が開いた段階で完結するので、全然おまけとかは正直いらないです。この舞台に上がれて、今のメンツと初舞台をやらせていただくっていうのが僕の『戦隊大失格』ザ・ショーの成功です。

■「初舞台だからしょうがない」演技をする気はさらさらない

――そんな本舞台ですが、デスペラード選手から見た見どころは?

みんな凄いことやってるんですけど、人力で演出効果をやる部分が幾つかあるんですよ、あれはびっくりしますね。アンサンブルさんが板を持って走って、舞台でクロスした瞬間に後ろの人が変わってるとか。実写化ドラマとかだったらCGとかシーンの切り替わりでできてしまうことを、人力のアナログで全力でやってるのを見るとびっくりします。ちゃんとそれが文化として残ってることに感動しましたね。後楽園遊園地のショーの変身とかと同じですよね。

――ご自身の演技に関して、ここを見てほしいみたいなところってあったりしますか?

いや、自分のここを見てほしいってのは、本当に昔からなくて。プロレスでも正直、僕を見てくれる人にはありがとうですけど、これを見ろ! っていうのはあんまりないです。だから、僕がやる戦闘員Fもエル・デスペラードをではなく、戦闘員Fを見てくれたらそれでいいです。もちろん、デスペラードが出てるから見に来てくださるっていうのは、本当にありがとうございますなんですけどね。

――では、最後に読者にメッセージをいただければ!

初舞台のプロレスラー、プロレスの方である程度名前があるから舞台でいきなりセリフがある役をもらっていて、「初舞台だからしょうがないじゃん」っていう演技をする気はさらさらなくて。稽古の時からお客さんも演出さんも100点出してくれるものを目指してやってます。まずGロッソというところに立てること自体が凄いんですよ。プロレスで言ったら後楽園ホールじゃないですか。特撮のメッカなんだから、そこに戦闘員役で出るっていうのは、これは普通に考えたらもう上がりなんですよ。そこからスタートするっていうことの重さは理解してるつもりなので、いち演者として、僕がどの程度なのかっていう目で見ていただいて全然構わないです。初舞台のプロレスラーがなんとなく出てお茶にごしてる、なんて絶対に思われたくないんで、全力でやります。

インタビュー・文:加東岳史 撮影:大塚正明

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