古今東西【野球ソング・ベスト5】矢野顕子が惚れ込んだ巨人史上最強の五番打者とは?
いよいよペナントレースが開幕、古今東西【野球ソング・ベスト5】
3月28日、ついに2025年のプロ野球ペナントレースが開幕した。なんかもうとっくに開幕した気がするのは、3月18・19日にメジャーリーグ(MLB)の開幕戦 “カブス vs ドジャース” が東京ドームで行われたせいだろう。MLB開幕戦が日本で行われるのは、今回が5回目になる。野球狂でもある私は、過去4回の開幕戦をすべて東京ドームで生観戦してきたが、今回だけは力及ばずチケットが入手できなかった。もうね、こればっかりはしょうがない。
だって、ドジャースのユニフォームを着てプレーする大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希をナマで拝めて、おまけにカブスには鈴木誠也と今永昇太もいる。そりゃみんな観たいさ! 思えば日本初開催の2000年、“メッツ vs カブス” 戦は日本人選手が皆無だった。それを考えると、今回の5選手の競演は感慨深いものがある。……あ、イカンイカン、これは野球コラムじゃなかった。閑話休題。
今回、プロ野球の開幕に合わせて古今東西【野球ソング・ベスト5】を選んでほしい、という依頼をいただいた。野球ソングというと、球団歌や応援歌、選手の登場曲、中には野球選手が自ら歌っている曲もあるが、今回はそういったベタな曲は除いて5曲、私の個人的趣味で選ばせてもらった。開幕タイミングに聴いてもらえれば、テンションが高まること請け合いである。ではさっそく、プレイボール!
野球ソングの枠を超えた場外ホームラン級の人生応援歌
ホームラン / THE BLUE HEARTS(1991年)
ブルーハーツ通算5枚目のアルバム『HIGH KICKS』収録曲。作詞・作曲は真島昌利だ。甲本ヒロトをピッチャーに喩えると “直球でグイグイ攻める剛腕投手”、バッターに喩えると “常にフルスイングする打者 ”だろうか。この曲も内容はシンプルで “河川敷のグランドへ野球をやりに行こう!” と友人たちを誘う歌だ。
得意の魔球でこい 変なフォームで投げてこい
時速1000キロ豪速球 俺には見えるぜ
甘い球を投げたら 俺のバットが火を吹くぜ
銀河系のその彼方まで カッ飛ばしてやる
そうそう、オレも言ってた!こんなこと!イイなぁ、これぞガキの草野球ですよ。「♪時速1000キロの豪速球」って、のぞみの4倍ぐらい速いけど「♪俺には見えるぜ」ってどういう動体視力だよ(笑)
「♪変なフォームで投げてこい」というのも、わかる!私も小学生の頃、近所の広場で友達とよく野球をやっていて、自分が投げるときは変則フォームのピッチャーのモノマネをよくやったものだ。特によくマネたのが、基本はサイドスローながら、いったん沈み込むフォームでタメを作ってアンダースローっぽく投げる小林繁(当時:巨人)だった。江川事件の余波で阪神へトレードされたときは、子どもながらに世の不条理を感じたものだ。
となりのグランドでは ガキ共が熱くなってる
21世紀の金田やONがいるぞ
前人未踏の400勝を達成した “カネやん” こと金田正一(国鉄 → 巨人)に、ジャイアンツV9の立役者となった “ON”(王貞治&長嶋茂雄)。もちろんそんな大選手にはなれないし、そもそも子どもが遊びでやっている草野球なんだから、楽しくやればいい。
マーシーが書いた「♪21世紀の金田やONがいるぞ」の真意は、熱量を持って何かに夢中になることの大切さだ。その経験は将来どんな道に進もうと必ず役に立ち、周りを動かす力になる。ヒロトもマーシーも、音楽に対する熱意を忘れることなくひたむきにロックに向き合い、やがて周囲に大きな影響を与える存在になった。この曲、ほのぼのしているけれど、野球ソングの枠を超えた場外ホームラン級の人生応援歌だ。
矢野顕子が惚れ込んだ巨人史上最強の五番打者
行け柳田 / 矢野顕子(1977年)
“アッコちゃんって、巨人ファンだったんだ!”と当時驚いたこの曲。れっきとしたシングルA面曲である。イントロに出てくるチャルメラっぽいシンセの音も強烈だけれど、それより何より、曲中でアッコちゃんが何度も「♪行け」とエールを送る主役が、王でも長嶋でもなく “柳田(真宏)” というのがインパクト絶大だった。柳田を知らない方は、ぜひ画像検索していただきたい。ゴッツい顔のおっさんやで!
柳田は第1次長嶋監督時代、3番・張本、4番・王の後を打つ5番打者として巨人打線の中軸を担い、1976年と77年のリーグ連覇に貢献。長嶋監督に “巨人史上最強の五番打者” と呼ばれた名選手だった。ニックネームは “マムシ” で、顔が毒蝮三太夫に似ていたから(笑)。見た目はイカつくても、グラウンドではきっちり仕事をしていた職人肌の柳田にアッコちゃんが惚れ込んだのは、なんかわかる気がする。
この曲で注目すべきは、1977年当時の巨人軍のオーダーがそのまま歌詞に出て来るところだ。元中日のリリーフエース・板東英二が「♪一番 高木が塁に出て」と歌った「燃えよドラゴンズ」(1974年)とは違い、この曲は選手名を一番から順にただ歌い上げていくだけ。なのにアッコちゃんの手にかかると(声にかかると、か)これがグルーヴィーに聴こえるから不思議だ。
一番柴田 二番に高田
三番張本 四番王
五番柳田 六番土井
七番河埜に 八番吉田
歌詞カードはこうなっているが、アッコちゃんは普通に歌っていない。「♪四番王」のところは、“四番にオー!” と声を張り上げ(たぶん拳も振り上げ)、「♪六番土井」に至っては、“♪六番、ドドドイ、ドドドイ、ドドドイ、ドイ!” って、V9を支えた守備の名手だったのに、ひドイ!(笑)
歌詞の2番では、ツーアウト満塁のチャンスで柳田に打順が回るシーンがある。この箇所、アッコちゃんがいかに野球好きかがわかる。
初球打ちなんか だめだめよ
待てば 海路の どまんなか
「♪だめだめよ」って当時どこかで聴いたフレーズ(ピンク・レディー「S・O・S」)だが、それより曲中で実在の選手に “焦って初球に手を出しちゃダメ!満塁だし、ここは1球待つのよ!” と待球策を指示したアーティストなんて、世界広しといえどもアッコちゃんだけだろう。
「♪待てば 海路の どまんなか」は “待てば海路の日和あり” のもじりだが、“フォアボールが許されない満塁なんだから、待っていればそのうち必ず絶好球が来る” というこのフレーズは実に含蓄深い。何よりアッコちゃんが楽しそうに歌っているのが聴いていて心地いいのだ。
ちなみに柳田は現役時代から歌がプロ並みで、引退後は作曲家・市川昭介の勧めで演歌歌手としてレコードデビュー。現在も歌手活動を続けながら、東京・八王子で『カラオケスナック まむし36』(36は全盛期の背番号)を経営する“逢いに行ける巨人軍OB”である。行け、柳田(の店へ)!
アイドルグループCoCoの胸キュン野球ソング
はんぶん不思議 / CoCo(1990年)
アイドル系野球ソングも1曲選んでおこう。フジテレビ系のバラエティ番組『パラダイスGoGo!!』のアイドル養成講座 “乙女塾” が生んだユニット、CoCoのデビュー第2弾シングルだ。
CoCoはけっこう野球度が高いアイドルグループで、1992年11月には横浜ベイスターズ(当時)のイメージソング「横浜Boy Style」も歌っている。そのカップリング曲の「WINNING」はバックコーラスをベイスターズの若手選手たちが務め、“ハマの大魔神” こと佐々木主浩、谷繁元信、石井琢朗ら6選手が加わった。このときのCoCoのメンバーは、宮前真樹、羽田惠理香、三浦理恵子、大野幹代の4人体制。瀬能あづさはソロ活動専念のため「横浜Boy Style」レコーディングのときはCoCoを脱退していたのだが、その後石井琢朗と結婚(後に離婚)。当時、瀬能推しだった知人が “なんで先に辞めたあづさが琢朗とくっつくんだよ!” と怒り狂っていたけれど、まあ野球選手ってモテますからね。
で、この「はんぶん不思議」は瀬能も含めた5人時代の曲。作詞は「横浜Boy Style」と同じく及川眠子だ。まずシチュエーションがいい。
夕陽ににじむ この川べりで
そっと肩をならべて
草野球を見ている 図書館からの帰り道
図書館 → 草野球観戦って、本好き、野球好きの私からすると最高のデートコースで、羨ましいったらありゃしない。でもこの曲の彼氏、女心が全然わかっていない。
あなたはルール説明ばかり
夢中になってるから
私 チョッピリすねて
ふたり最後はいつも
そうねケンカになるの 馬鹿ね
いるいる! “あのね、今バントした球がフライになったでしょ? ゲッツー狙いでわざとフライを落球すると “故意落球” といって、併殺は無効になるんだけど、バントで上がったフライの場合は、わざと落としてゲッツーにしてもOKなの” なんて、女のコ相手に得意げに語るヤツ! 気持ちはわかるけど、そこで語っちゃ嫌われるゾ。……すみません、昔の私です(笑)。この後の歌詞が、またキュンと来る。
あなた意地悪(だけど心は)
きらいよ ほんと(好きと叫ぶの)
何故か 反対の気持ちだけが
くちびるをこぼれる
そう、野球も恋愛も、表面だけ見ていてはダメなのだ。心の奥を読まないと、女心はスチールできない。つくづく、野球は人生のいろんなことを教えてくれるなぁ。
渡辺美里の軽快なロックン野球ソング
ホームラン・ラン・ラン / 渡辺美里(2000年)
渡辺美里といえば西武球場(現:ベルーナドーム)である。デビュー2年目、「My Revolution」が初のチャート1位に輝いた1986年夏に西武球場でワンマンライブを行い、女性シンガーによる単独スタジアムライブの先鞭をつけた。
これが大きな反響を呼び、2004年まで20年連続で続く夏の風物詩に。現在はドーム化されているが、西武球場時代は屋根がなかったので、2daysで行われた1989年のライブでは2日目が豪雨と雷鳴に見舞われ、途中で続行を断念したこともあった。美里はずぶ濡れになりながら “青春のバカヤロー!! 雨のバカー!!” と叫び、いったん退場したあと、再び1人でステージに登場。アカペラで「My Revolution」を歌い、このライブは伝説になった。そんな縁もあって美里も西武主催ゲームの始球式に呼ばれるようになり、自然とライオンズファンになった。
個人的な話で恐縮だが、美里は私と同学年で、西武球場ライブは私が上京した年にスタートした。なので勝手に “同期” と思っていたし、ラストの20年目の際は「ああ、オレも上京して20年か……」と感慨深かった。
その年、美里は西武ドームライブのPRを兼ねて、私が作家をやっていたラジオ番組のゲストに来てくれたことも。そのとき “子育て中のファンのために託児所を設置した” “最近は親子で来てくれるファンも多い” という話を聞いてますます感慨深くなったけれど、それからさらに20年以上が経過した今も、彼女は現役ロックシンガーとして歌い続けている。自分もまだまだ頑張らないと、と闘志に火をつけてくれる存在だ。
この「ホームラン・ラン・ラン」は、2000年発売のアルバム『Love♥Go Go!!』に収録されている軽快なロックン野球ソングで、美里の作詞・作曲だ。この歌詞がまたスケールがデカい。
遥か銀河の彼方から
ボールがひとつ飛んできた
弾丸ライナー ホームラン
お友達になりたいし
Eメールでもなんだから
青い地球に届けにゆこう
知らない星・地球から飛んで来た場外ホームラン。そうか、宇宙には地球以外にも野球をやっている星があるのか。だったら将来、“宇宙シリーズ” もできるな…… なんてことを思ったり。野球はそんな夢も運んでくれる。
カープ愛・野球愛の深い奥田民生の野球ソング
野球で言うと / 奥田民生(2002年)
ラストはこの人に締めていただこう。熱烈なカープファンで知られる奥田民生だ。ここで1つ余談を。私と同じドラゴンズファンのラジオ・ディレクターが、ある日都内にある “カープ” というお好み焼き店に入ったときのこと。一緒に行った人とドラゴンズ話で盛り上がっていると、横にいた男性客から “ここはカープの店じゃけぇ” と一喝された。よく見ると奥田民生だったそうで(笑)
旧・広島市民球場、マツダスタジアムでも弾き語りソロライブを行うなど、カープ愛・野球愛の深い民生だけに野球ソングは多い。この曲はアルバム『E』収録曲。作詞は民生、曲はスティーヴ・ジョーダンとの共作である。私も人生のさまざまをつい野球に喩えてしまうクセがあるけれど、これはまさにそんな1曲であり、民生らしくシンプルだが深く刺さる内容だ。
君をかならず 明日をかならず
ムダにするべからず
ムダにするべからず
そして君に会うと またしても忘れた
これを野球で言うと
見逃しのアウト
……わかる。わかるぞ、痛いぐらいわかる。実体験としてあるから(笑)
ワキを開けず 大振りをせず
いい球は見逃さず
舞い上がらず かしこまらず
近からず 遠からず
なんだか宮沢賢治の『雨ニモ負ケズ』みたいだが、何でもかんでも振り回すんじゃなく、要は “好球必打”。大事なのはそれなんだよなぁ。ボール球ばかりに手を出し、絶好球を見逃していた若い頃の自分。だから今も独りモンなのだ(笑)。でもイイんです。自分には野球と音楽を通じて知り合った素敵な仲間がたくさんいるから。そして今年も、熱いペナントレースの幕が開く。あらためて、プレイボール‼