ピラティスやゴルフにも挑戦中! これからは自分の体と向き合う時間、振り幅の大きさを大事に~五輪メダリスト寺川綾さんインタビュー
元競泳選手で五輪メダリストの寺川綾さんに、トップアスリートとしての過酷な日々、競技生活を終えたあとの暮らしなどについてお話を伺ってきた今シリーズ。最終回となる今回は、引退後の体の変化や、最近始めたというピラティス、年齢に対する意識などについて伺いました。世界で戦ってきた寺川さんですから、新たなチャレンジも難なくこなしそうですが、果たして!?
水泳と「呼吸が逆」のピラティスに奮闘中
—-競技生活を退かれて運動量は減少したかと思いますが、体に変化を感じるところはありますか?
「引退後、体が硬くなっていって、新幹線や飛行機の移動のときに腰が痛くなることが多くなりました。毎日泳いで、ストレッチをしっかりしていた現役時代に比べ、体をほぐす頻度が極端に減ったこともあると思います。現役のときはトレーナーさんに助けてもらっていましたし、そもそもアスリートなので一般の人に比べるとやりすぎるくらい手をかけていた、というのもあるんですが。『腰が痛いから腰』ではなく、いろいろなところからアプローチしなくてはいけないなと思っています」
—-具体的にどのようなことに取り組まれていますか?
「メンテナンスの時間が必要だと感じていたタイミングで、友人にすすめられてピラティスを始めました。まだ、行けるときに行く、という感じですが、自分では気がついていない体の使い方のくせとかがあるみたいで、先生に注意されることも多いです。だからピラティスに関しては、伸び代しかないです(笑)。
そもそも、ピラティスと水泳は呼吸が逆なんですよね。水泳を続けているなかで無意識で何十年とお腹で呼吸しちゃっているので、ピラティスの胸式の呼吸が難しいんです。『長く吸って長く吐く』『呼吸を止めない』と指導されますが、がんばりどころで息を止めるのが水泳なので。でも、できるようになると呼吸がラクで、酸素がちゃんと取り込まれているなと感じます。
ピラティスって、トレーニングや呼吸法っていう面もあると思いますが、私は自分のためだけに、自分の体と向き合う時間だととらえていて、大切な時間だなと感じています。そういう時間がないと、毎日慌ただしくて、自分の体のことに興味なく過ごしてしまうので。ピラティスのあとは、食事をちゃんとしようと思うんですよね。体にいいものを欲するというか、気分がそういう方向に向いていくんです」
「ひとつずつできるようになる」ことが楽しい
—-お忙しいと思いますが、体を動かす頻度を増やしたり、新たなスポーツに取り組んだりするプランなどはありますか?
「いろいろな人からすすめられて、ゴルフを始めました。ゴルフ場では『これ、ゴルフなのかな?』っていうくらい走り回っていますが(笑)、視界が開けた環境や緑の多さが気持ちよくて。ちょっとずつできるようになるよろこびって、子どものころはよく感じていたのに、大人になると忘れてしまうところがありますよね。大人になってチャレンジできることがあるって、貴重なことだなと思っています。
忙しくても、ほどよく疲れたいと常に思っていますね。頭だけじゃなくて体が疲れるのは、しっかり体を動かせている証拠。お腹も空きますし、ご飯もおいしく食べられますから。それができていない日は、気持ちが悪いので家で縄跳びとかしちゃいます。
これからも、食事の量を減らしたり、抜いたりしようという考えはないですし、代謝も落ちてくることを考えると、運動はもっとしたほうがいいかなと思っています。いまも水泳教室などで水着を着る機会がありますが、『この人に教わるの?』と思われないように体型を維持していなくちゃ、とは思っています。そこは、がんばっていきたいところです」
年齢をおそれてガマンするより、いまの気持ちを優先
—-年齢を重ねていくことを意識して、取り入れていることはありますか?
「なるべく温かいものを飲もうと思うようになりました。これまでは冷たい水をガバガバ飲んできた人生で、温かい飲み物って選択肢になかったんですが、まわりの人からもすすめられて意識してとるようにしています。心から欲してはいないけれど、体のために『一旦、温かいものを入れよう』と。お茶に梅干しを入れて飲んだりするんですが、そもそも汗かきなのですぐに温まります。
ただ、無理やり年齢を意識した生活にもっていくのもいやだなと思う面もあります。いつどうなるかわからないのが人生ですし、自分の人生がガマンばかりになるのも抵抗があります。いまの気持ちを優先しつつ、少し意識するくらいがちょうどいいかなと思います。振り幅が大きくないと自分に合ったものは見つからないと思っているので、いろいろ試したり、取り入れたりできる振り幅を持っていたいです」
寺川綾
1984年生まれ。競泳選手としてオリンピックに2度出場し、2012年ロンドンオリンピックでは100m背泳ぎと、4×100mメドレーリレーで銅メダルを獲得。競技生活からの引退後は、報道番組でスポーツキャスターとして活躍するほか、ミズノスイムチームコーチとして競泳の指導、普及にも取り組む。50mと100mの背泳ぎ日本記録保持者。
撮影/布川航太 取材・文/馬渕綾子