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高齢者の熱中症を予防する5つの対策!介護現場で役立つ予防法と緊急時の対応を解説

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

高齢者の熱中症リスク:統計が示す深刻な現状と介護現場での課題

高齢者が熱中症にかかりやすい理由と統計データ

近年、気候変動の影響により夏季の気温が上昇し続けており、熱中症のリスクが高まっています。特に高齢者は熱中症にかかりやすく、その危険性は年々増加しています。

消防庁の「令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」によると、2023年の熱中症による救急搬送人員は91467人で、そのうち65歳以上の高齢者は50173人と全体の54.9%を占めています。この数字は、高齢者が熱中症のハイリスク群であることを如実に示しています。

出典:『令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況』(総務省)を基に作成

高齢者が熱中症にかかりやすい主な理由は以下の通りです。

体温調節機能の低下
加齢とともに、汗をかく機能や血流を調整する能力が低下します。 のどの渇きを感じにくい
高齢になると、脱水状態であってものどの渇きを感じにくくなります。 基礎疾患の存在
高血圧や糖尿病などの持病がある場合、熱中症のリスクが高まります。 服薬の影響
利尿剤や睡眠薬など、熱中症のリスクを高める薬を服用している場合があります。

これらの要因により、高齢者は熱中症の危険性を自覚しにくく、適切な対策を取りづらい状況にあります。

介護施設での熱中症対策の現状と課題

介護施設における熱中症対策は、入居者の命に直結する重要な課題です。しかし、多くの施設で十分な対策が取られていないのが現状です。

介護施設での主な課題は以下の通りです。

室温管理の不徹底
適切な温度設定や空調設備の管理が不十分な施設が多い。 水分補給の不足
入居者の水分摂取量を適切に管理できていない。 職員の知識不足
熱中症に関する正しい知識や対処法を十分に理解していない職員がいる。 マニュアルの未整備
熱中症予防や発生時の対応マニュアルが整備されていない施設がある。

これらの課題に対処するため、介護施設では以下のような対策が求められています。

室温・湿度の定期的なチェックと記録 個別の水分摂取計画の作成と実施 職員への定期的な熱中症対策研修の実施 熱中症予防・対応マニュアルの作成と定期的な見直し

これらの対策を確実に実施することで、介護施設での熱中症リスクを大幅に軽減することができます。

熱中症に関する誤解と正しい知識の重要性

熱中症に関する誤解や迷信は、適切な予防や対処を妨げる要因となります。以下に、代表的な誤解とその正しい理解を示します。

熱中症に関する誤解と正しい理解 誤解1「室内にいれば熱中症にならない」
正しい理解:室内でも熱中症は発生します。特に空調設備のない部屋や、夜間の就寝中にも注意が必要です。 誤解2「のどが渇いたら水を飲めばよい」
正しい理解:のどの渇きを感じたときには、すでに軽度の脱水状態に陥っています。喉の渇きを感じる前から、こまめな水分補給が重要です。 誤解3「熱中症は真夏の暑い日だけの問題」
正しい理解:梅雨明けの時期や、急に暑くなった日など、体が暑さに慣れていない時期こそ要注意です。 誤解4「スポーツドリンクさえ飲めば大丈夫」
正しい理解:水分補給は重要ですが、それだけでは不十分です。室温管理や適切な休息も併せて行う必要があります。

これらの誤解を解消し、正しい知識を普及させることが、熱中症予防の第一歩となります。介護施設では、職員や入居者、その家族に対して、定期的な啓発活動を行うことが重要です。

熱中症に関する正しい知識を身につけ、適切な予防策を講じることで、高齢者の熱中症リスクを大幅に軽減することができます。次のセクションでは、高齢者の熱中症症状とその早期発見のポイントについて詳しく解説します。

高齢者の熱中症症状と早期発見のアラーム:介護従事者が知っておくべきポイント

高齢者の熱中症:一般的な症状と見逃しやすい兆候

高齢者の熱中症は、若年層と比べて症状が現れにくく、急激に重症化しやすいという特徴があります。そのため、介護従事者は高齢者特有の熱中症症状を十分に理解し、早期発見に努めることが重要です。

一般的な熱中症の症状には以下のようなものがあります。

めまい・立ちくらみ 頭痛 吐き気・嘔吐 倦怠感・脱力感 筋肉のこわばりやけいれん 意識障害

しかし、高齢者の場合、これらの典型的な症状が現れにくいことがあります。代わりに、以下のような見逃しやすい兆候に注意を払う必要があります。

いつもと違う様子(元気がない、ぼんやりしている) 会話の受け答えがおかしい 歩き方がふらつく、動作が鈍い 顔色が悪い、皮膚が乾燥している 尿の量が少ない、または濃い色をしている

これらの兆候は、一見すると熱中症とは関係ないように見えるかもしれません。しかし、高齢者の場合、これらの微妙な変化が熱中症の初期症状である可能性があります。

65歳以上の高齢者は熱中症の重症化リスクが高く、軽症と思われる症状でも迅速な対応が求められます。特に、認知症やコミュニケーション障がいのある高齢者の場合、自覚症状を訴えることができないため、より注意深い観察が必要です。

熱中症のアラーム:日常観察で押さえるべき5つのポイント

高齢者の熱中症を早期に発見するためには、日常的な観察が欠かせません。以下の5つのポイントを押さえることで、熱中症の兆候を見逃さず、迅速な対応につなげることができます。

体温の変化
通常の体温よりも0.5℃以上高い場合や、急激な体温上昇が見られる場合は要注意です。定期的な体温測定を行い、変化を記録することが重要です。 皮膚の状態
皮膚が赤くなっている、触るととても熱い、または逆に冷たく湿っているなどの変化に注意しましょう。特に、首や腋の下、太ももの付け根などの部位をチェックします。 発汗の状況
高齢者は発汗機能が低下しているため、汗をかいていなくても熱中症の可能性があります。逆に、異常な大量発汗も注意が必要です。 行動の変化
普段と比べて動きが鈍い、落ち着きがない、いつもより眠そうにしているなどの行動変化に注意しましょう。 水分摂取量
水分摂取量が急に減少した場合や、尿の回数が減った、尿の色が濃くなったなどの変化は脱水のサインかもしれません。

これらのポイントを日常的にチェックし、記録することで、熱中症の早期発見につながります。異常を感じたら、すぐに涼しい場所への移動や水分補給などの対応を取ることが重要です。

症状別の対応方法:軽度から重度までのケース別ガイド

熱中症の症状は、軽度から重度まで幅広く、その対応方法も症状の程度によって異なります。ここでは、症状の程度別に適切な対応方法を解説します。

熱中症の症状と対応方法 軽度(Ⅰ度)の症状と対応
症状:めまい、立ちくらみ、筋肉痛、汗が止まらないなど
対応 涼しい場所へ移動させる 衣服を緩め体を冷やす 水分・塩分補給 中等度(Ⅱ度)の症状と対応
症状:頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感など
対応 涼しい場所へ移動、体を積極的に冷やす 意識がはっきりしている場合は水分と塩分を補給する 自力で水分摂取できない場合や症状が改善しない場合は、すぐに医療機関を受診する 重度(Ⅲ度)の症状と対応
症状:意識障害、けいれん、高体温(40℃以上)など
対応 直ちに救急車を要請する(119番通報) 涼しい場所へ移動させ、衣服を脱がせる 体を積極的に冷やす(氷のう、保冷剤、濡れたタオルなどを使用) 意識がない場合は、水分を無理に飲ませない

熱中症で救急搬送されたうち、67.2%が軽症です。

出典:『令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況』(総務省)を基に作成

高齢者の場合、軽度の症状でも急速に悪化する可能性があるため、早めの対応が重要です。特に、独居高齢者や認知症の方の場合、症状を訴えられないことがあるため、周囲の人々の観察と迅速な対応が生命を守る鍵となります。

また、熱中症の対応では、体温管理が極めて重要です。体温が40℃を超えると多臓器不全のリスクが高まるため、迅速に体温を下げることが重要とされています。

介護現場では、これらの症状と対応方法を全職員が理解し、素早く行動できるよう、定期的な研修や訓練を実施することが求められます。次のセクションでは、介護施設での具体的な熱中症予防対策について詳しく解説します。

介護現場での熱中症予防対策:室内環境管理から個別ケアまで

室内での熱中症リスク:温度・湿度管理の重要性と具体的な対策

介護施設内での熱中症予防には、適切な室内環境管理が不可欠です。特に、温度と湿度の管理は最も重要な要素の一つです。特に、高齢者は温度変化に対する体の適応力が低下しているため、より厳密な環境管理が求められます。

消防庁が発表したデータを見ても、住居で熱中症となり救急搬送されている割合が最も高いです。

出典:『令和5年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況』(総務省)を基に作成

以下に、室内環境管理の具体的な対策を示します。

1.温度管理

室温は28℃以下、できれば26℃前後に設定する エアコンや扇風機を効果的に使用する 定期的に温度計で室温をチェックし、記録する

2.湿度管理

湿度は70%以下に保つ 除湿器を使用し、必要に応じて換気を行う 湿度計を設置し、定期的にチェックする

3.遮熱対策

カーテンやブラインドを使用し、直射日光を遮る 窓ガラスに遮熱フィルムを貼るなど、室内への熱の侵入を防ぐ 緑のカーテン(ゴーヤなどの植物)を活用する

4.空気の流れの創出

扇風機や送風機を使用し、室内の空気を循環させる 2つの窓を開けて風通しを良くする

5.クールスポットの設置

施設内に冷房の効いた涼しい場所(クールスポット)を設け、定期的に利用する 廊下や共用スペースにも冷却ミストや扇風機を設置する

これらの対策を実施する際は、個々の入居者の体調や好みに配慮することが重要です。例えば、エアコンの風が直接当たることを嫌う方もいるため、風向きや強さの調整が必要です。

また、環境省の「熱中症予防情報サイト」で公開されている暑さ指数(WBGT)を活用し、外出や屋外活動の可否を判断することも効果的です。WBGTが28℃を超える場合は、原則として屋外活動を控えるなどの対応が推奨されています。

個別ケアにおける熱中症予防:水分補給と体調管理の実践法

高齢者の熱中症予防には、個々の状態に応じた細やかなケアが必要です。特に重要なのは、適切な水分補給と日々の体調管理です。

【水分補給の実践法】 1日あたりの目標水分摂取量を設定する(一般的に1.2~1.5L程度) 定期的な水分補給のタイミングを設ける(1~2時間ごとが目安) 個々の嗜好に合わせた飲み物を用意する(お茶、スポーツドリンク、ゼリー飲料など) 経口補水液を活用し、塩分も同時に補給する 食事の際にもスープや汁物を積極的に提供する

水分補給の際は、一度に大量の水分を摂取するのではなく、少量ずつこまめに飲むことが重要です。また、認知症などで自発的な水分摂取が難しい方には、介助者が積極的に声かけを行い、確実に水分を摂取できるようサポートします。

【体調管理の実践法】 毎日の体温測定と記録(朝晩2回、必要に応じて日中も) 食事量や排泄状況のチェック 皮膚の状態(乾燥、発汗、発赤など)の観察 日々の活動量や睡眠状況の把握 服薬管理(特に利尿作用のある薬の確認)

これらの情報を日々記録し、変化を継続的に観察することで、熱中症のリスクを早期に発見できます。また、個々の持病(糖尿病、心疾患など)や服薬状況に応じて、より細やかな管理が必要な場合もあります。

特に以下のような方々はより注意が必要です。

一人暮らしの高齢者 認知症の方 寝たきりの方 肥満の方 持病のある方(特に循環器疾患、糖尿病、精神疾患など)

これらの方々に対しては、より頻繁な声かけや見守り、細やかな体調管理が求められます。

施設全体で取り組む熱中症対策:マニュアル作成と職員教育のポイント

介護施設全体で効果的な熱中症対策を実施するためには、明確なマニュアルの作成と、全職員への徹底した教育が不可欠です。

【熱中症対策マニュアルの作成】

効果的なマニュアルには以下の要素を含めることが重要です。

熱中症の基礎知識(定義、症状、リスク要因など) 予防対策(環境管理、水分補給、体調管理など) 発症時の対応フロー(症状別の対応方法、救急要請の基準など) 記録様式(体温、水分摂取量、症状チェックリストなど) 緊急連絡先リスト(協力医療機関、家族連絡先など)

マニュアルは、施設の特性や入居者の状況に応じてカスタマイズし、定期的に見直しと更新を行うことが重要です。

【職員教育のポイント】

全職員が熱中症対策を適切に実施できるよう、以下のような教育を行います。

定期的な研修会の開催(年に2回以上、夏季前には必ず実施) 実践的なシミュレーション訓練(発症時の対応、救急要請の手順など) 最新の熱中症情報の共有(気象情報、予防法の最新知見など) 個別ケア計画への熱中症対策の組み込み方の指導 新人職員への重点的な教育

特に、夜間や休日など、職員体制が手薄になる時間帯での対応についても、十分な教育と訓練を行うことが重要です。

【PDCAサイクルの実施】

熱中症対策の効果を高めるため、以下のようなPDCAサイクルを実施します。

Plan(計画):マニュアルの作成、年間の対策スケジュール立案 Do(実行):マニュアルに基づく対策の実施、職員教育の実施 Check(評価):熱中症発生状況の分析、対策の効果検証 Act(改善):分析結果に基づくマニュアルの改訂、新たな対策の導入

このサイクルを毎年繰り返すことで、より効果的な熱中症対策を実現できます。

【地域や家族との連携】

施設内だけでなく、地域の医療機関や消防署、入居者の家族とも連携し、熱中症対策に関する情報共有や協力体制の構築を行います。例えば、地域の医療機関と連携して、熱中症に関する勉強会を開催したり、家族に対して熱中症予防の啓発資料を配布したりすることが効果的です。

以上のような取り組みを通じて、介護施設全体で一貫した熱中症対策を実施することが可能となります。高齢者の熱中症は予防可能な健康リスクです。適切な環境管理と個別ケア、そして施設全体での取り組みにより、入居者の皆様が安全に快適に過ごせる環境を整えることができるのです。

熱中症対策は、単に夏を乗り切るための一時的な取り組みではありません。年間を通じた継続的な取り組みとして位置づけ、施設全体の安全文化の一部として根付かせていくことが重要です。

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