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緑と人をつなぐ場所。200年の古民家が育むコミュニティ 山口市「樹庵」

山口さん

山口市大内長野。まだまだ田畑が残っている集落の間に片隅に、築200年を超える古民家「樹庵(じゅあん)」があります。(山口市大内長野135)茅葺きの屋根と様々な木々の緑に包まれたその家は、長い年月を経てもなお地域に息づき、人と人をつなぐ居場所となっています。

ここを拠点にコミュニティスペースを運営しているのが、山口県立大学名誉教授(専門:社会福祉)の加登田惠子(かとだけいこ)さんです。

【写真はこちら】今と昔が交差する「樹庵」

加登田惠子さん、看板の文字は加登田さんの手書きです。

地域に開かれた「交流の場」

中でも長く続いたのは、加登田さんのお母様(97歳)を中心に、市内の女性たちが集った手芸サークル「樹庵アトリエ部」。月1回の定例会が楽しみとなり、仲間づくりの場ともなっていました。アトリエ部のメンバーが中心になって、樹庵の前の持ち主であった103歳のお祖母様に習ったレシピで「味噌づくり」をしたこともあるそうです。また、小さな芋畑では、毎年秋になると地域の障害児デイサービスを運営するNPOのみなさんが、さつまいも収穫に来られました。

そのほかにも、大学生の地域活動ゼミや子ども会の研修会、老人クラブの行事などに場所を提供したり、オリジナルイベントとして音楽家を招いて「ファミリー・コンサート」を開いたり、手芸グループによる作品展等も開催されました。さらに、海外からの友人や留学生を迎えての交流会では、レトロな雰囲気が、現代的な建物では味わえない、ゆとりの空間だと外国人にも好評でした。

日頃は「樹庵クラブ」と名付けた親しい仲間たちと、野菜づくりやBBQを楽しみ、収穫の喜びを分かち合える場所となっています。中でも農作業をゼロから指導されたり、町内会とのパイプ役を果たしたのは、ご近所の農家の吉野由一さんです。

自然に憧れて辿り着いた場所

「樹庵」を運営する加登田さんは広島市の街なかで生まれ育ち、長じては長く関東で生活をされ、農家とは全くご縁がなかったそうです。仕事のご縁で山口市に移り住み、そこで思いがけず出会ったのが大内長野の田園風景でした。

「身近に、こんなに静かでのどかな場所があるなんて驚きでした。木々や田畑に囲まれた暮らしにずっと憧れていたんです」と振り返ります。

2009年、吉野さんとの偶然の出会いをきっかけにこの古民家を購入。「樹庵」と名付けたのは、庭の木々に鳥や動物たちが集まるイメージから。実際には栗や柿などの果樹が植えられ、四季折々の表情を見せてくれるそうです。

母屋外観。中もある程度リフォームがされているが、昔ながらの田の字に部屋が配置されている。

古民家が未来につなぐもの

とはいえ、築200年の家を守っていくことは容易なことではありません。日頃の家屋の手入れや畑の維持作業は、樹庵クラブの仲間と共に行っています。加登田さんは「古民家を中心に、自然と人とのつながりが広がっていく」と微笑みます。緑の風に吹かれたり、縁側で日向ぼっこをすると、皆さん「のんびり」癒されます。それに、夜は月も満点の星もキレイ。

「古い建物は過去の記憶を抱えています。そこに新しい人や出来事が重なることで、未来に伝えたい物語が生まれるのだと思います」「樹庵」は、古民家というハードだけでなく、人と人、人と自然を結ぶ「ソフト」として機能している。そこに、これからの地域社会のヒントがあるように感じられます。

お茶室もあります

これからの「樹庵」へ

築200年の古民家を舞台に広がってきた「樹庵」の活動。加登田さんは、これからの展望についても率直に語ってくださいました。「私自身が元気で活動できるのは、あと10年ぐらいでしょう。その間に、この宝物をどう地域とつなぎ、次の世代に引き継いでいけるかを考えるのが課題です。」

樹庵は人が集い、のんびり、つながり、癒されるコミュニティの場。その役割を未来へと託すために、気負わず、今できることを積み重ねていく――。

離れ外観、右手に母屋がある。

人と自然と、そして福祉

大内長野の緑に囲まれた「樹庵」は、世代を超えた人々が出会い、共に過ごす場所。加登田さんのライフワークである「福祉」と「共生」の思想が、日々の暮らしの中に息づいています。畑で採れた野菜を分け合い、季節の行事を楽しみ、笑い声が響く空間。そこには、教科書では学べない「生きる知恵」と「つながりの力」があります。

200年の時を刻んできた古民家は、今もなお新しい物語を紡ぎながら、地域の未来を見守っているのです。

畑仕事がとても楽しいと話す加登田さん

お知らせ

【わくわく♪手しごと交流会】

10月12日(日)10時~15時 樹庵にて

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