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FENDER「FIRST ANNIVERSARY SPECIAL NIGHT」に行ってきた

タイムアウト東京

FENDER「FIRST ANNIVERSARY SPECIAL NIGHT」に行ってきた

東京・原宿にあるフェンダー初の旗艦店・FENDER FLAGSHIP TOKYOのオープン1周年のセレブレーションウィークに先駆けて行われた『FIRST ANNIVERSARY SPECIAL NIGHT』に行ってきた。

去年原宿を友達と歩いていた折、完成間近だったこの店を見かけて『ええ!? 原宿にフェンダー出来んの!? なんで!?』とかいって騒いだのがFENDER FLAGSHIP TOKYOに対する僕のファースト・インプレッションであり、それ以降もべつに訪れることもなく、いっつも『ふーーーん』ぐらいの感じで通り過ぎていたのだが、このたび初めて足を踏み入れたのだ。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

で、感想はというと、普通に面白い。楽器のみならず、フェンダーが手掛けたライフスタイル製品各種や、美味しいコーヒーやサンドイッチ等をラインナップしたカフェも展開されているので、“ギター? ギターってあれでしょ? フィリピンの首都だよね”というぐらいギターに興味のない人でも楽しめるだろう。人生で一度でも『ギターってかっけーな』と思ったことがある人ならば尚更だ。楽器屋というと機材が所狭しと張り巡らされたセセコマシイ印象があるが、FENDER FLAGSHIP TOKYOはまるで美術館の如しである。スペースをゆったりと取った空間は解放感に溢れていて、シンプルに場所として居心地が良い。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

フェンダー製楽器をあらゆる観点から堪能できる

地下一階から三階までを繋ぐ螺旋状の階段部には、フェンダー製のギターやベースを使用するミュージシャンたちの写真パネルが掲示されている。ジミ・ヘンドリックス、マディ・ウォーターズ、ジョン・フルシアンテ、田淵ひさ子、ボブ・ディラン、ビリー・アイリッシュなどなど、古今東西のスターがズラリと並んだそのさまは、ちょっとした写真展の如きである。昔の広告写真なんかもあるのだが、サーフィンしながらジャガー弾いてる男性がうつっていたりしてシンプルにどういう状況なんだよと思う。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

それから超レジェンドが使っていたギターも展示されている。リッチー・ブラックモアとかジェフ・ベックとかエリック・クラプトンのギターとかがあって“うおーすげー!”って興奮してたら“ウドー音楽事務所に寄贈”とか書いてあったりして、やっぱウドーはハンパねーとか思う。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

マスタービルダー(トップクラスの職人)が手がけたギター群が並ぶ三階フロアは、シンプルに壮観である。“目がよろこぶ”という表現があるが、マジで視神経と脳が繋がってる部分が喜んでいるのが解る。スーパーカーとかバスケットシューズなんかもそうだと思うが、機能美とキッズ・マインドが高いレヴェルで融合したデザインというのは、見ているだけで本当に心が躍る。

ほかにも地下フロアにカフェが併設されていたりして、とにかくじっくりゆっくり楽器と向き合えるような設えになっている。失礼な話、“原宿のフェンダーって経営大丈夫なのかしら?”とか思っていたのだが、これだけ配慮が行き届いていればそりゃあお客さんも来るワケだ。まぁそんな感じで、招待客がひしめき合う店内をウロチョロしていたらマーティ・フリードマンがいたのでかなりテンションがアガった。高校時代に朝青龍を見たときと同じぐらい嬉しかった。

ジミヘンのインプロを想起させるライヴペインティング

んで、この日の特別プログラムが始まった。最初は書家の柿沼康二によるライヴ・ペインティングである。ジミヘンの“マシンガン”が流れる中、全身を使ってダイナミックにペンキを次々と塗りつけていたのだが、正直僕はこういうパフォーマンスの鑑賞作法がよくわからない。いいとか悪いとか好きとか嫌いではなく、なんというか、知らない国の伝統の踊りを観ているみたいな気分になる。僕はこのパフォーマンスを査定する言葉を持っていないが、少なくとも柿沼氏はずっと“破格”をやっていたと思う。破格は一瞬なら誰でもできる。だが人間には恒常性が備わっているので、どんなことでも少し続けるとすぐに定型化してしまう。パターナリーに陥らず、ずっと破格をやり続けるというのは大変難しいことだ。こじつけるようなまとめで恐縮だが、その縦横無尽な破格振りは、戦場の混沌をトレスした“マシンガン”のインプロヴィゼーションに似ていなくもないと思った。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

イケてる不良の兄ちゃん

その次はCharのトークショーである。ギターマガジンの元編集長のひとと対談形式で行われたコーナーだったのだが、CharはマジでCharだった。キムタクがキムタクであるように、あるいは窪塚洋介が窪塚洋介であるように、CharはマジでCharだった。“カッコつける”というのが単なるポーズではなくDNAレベルで組み込まれている人間だけが放てる、ナチュラルな色香。御年69歳だそうだが、その振る舞いやたたずまいはまさに“イケてる不良の兄ちゃん”そのものだ。

『俺ギター興味ねえもん。ブリッジとナットの違いも三日前に知ったし』と嘯き、ストラトキャスターの魅力を聞かれても『名前がカッコいい』と不遜に言い放つそのさまは、まさに永遠のロック・キッズである。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

いろいろな話をしていたが、とりわけ印象に残ったのは、アメリカのフェンダーの工房にギターを製作しに行ったときの思い出話である。創業以来、工房の専用マシンでピックアップのコイルを巻いている職人がいて、その人にマシンを使わせてもらってコイルを巻いたのだそうだが、のちのち話を聞くとその職人はこれまで他の誰にもそのマシンを触らせたことはなかったのだという。

そして最終日、その工房で『いろんなギタリストのためにギターを作ってきたけど、ここまで来てくれたのはお前が初めてだ』と言われてギターを贈呈されたとき、Charは泣いたのだという。それは俺にとってグラミー賞をもらうより遥かに価値があることだった、というCharの目は美しかった。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

マジでロック(としか言いようがない)

で、この日を締めくくったのがCharのスリーピース形式のライヴである。こういったインストアライヴというのは半ばお祭り事であるゆえ、音響とかはまぁそれほど重要視されないのが常であるが、さすがフェンダー、しっかり良い音だった。Charのギターサウンドもかなり素晴らしい。中音域が豊かで、歪みに独特のキレとコクがあり、なんというか“ロック”な音なのだ。プレイもテクニックがどうとかいう以前に(テクニックも勿論凄いと思うが)、ニュアンスの表現がいちいちすごい。聴いていると本当にワクワクする。ロック音楽が本来持っていた、プリミティヴな興奮。電気的というか、本当に頭の芯がビリビリ痺れる感じだ。なんと途中で飛び入りを募り、同道公祐、Ken(L'Arc~en~Ciel)とのセッションまで飛び出した。30分のショーケースだったが見所満載スター性爆裂で大満足であった。

画像提供:Fender Flagship Tokyo

いまこうして振り返るに、とてもいいイベントだった。世界初のフェンダー旗艦店の今後の発展を祈りたいところであるが、まぁ僕ごときが祈らなくてもいい感じに続いていくんじゃないかと思う。だっていい感じの場所だもの。

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