来日記念!これだけは聴いておきたいエリック・クラプトン「クリームの素晴らしき世界」
2025年4月、80歳を迎えたエリック・クラプトンの日本武道館公演が開催される。1974年以来、半世紀にわたって日本のステージに立ってきたクラプトンの魅力とは何なのか。今回、Re:minder では『来日記念!これだけは聴いておきたいエリック・クラプトンの名作アルバム』と題して5枚のアルバムを紹介する。まず最初は、1968年リリースのブリティッシュ・ロックの名盤、クリーム『クリームの素晴らしき世界』(Wheels of Fire)から。
1966年にクリーム結成
グレアム・ボンド・オーガニゼーションのジンジャー・ベイカー(dr)が、ヤードバーズやジョン・メイオール&ブルースブレイカーズで活躍していたエリック・クラプトン(g)とのバンドを画策。クラプトンは、マンフレッド・マンでも活動していたジャック・ブルース(b)がベースならばと提案した。
クラプトンは、ブルースがジョン・メイオール&ブルースブレイカーズやエリック・クラプトン&ザ・パワーハウスに参加していた時に共演。ボーカルと高い演奏技術に感動して、彼とのバンドを望んだ。ジャック・ブルースとジャー・ベイカーが在籍していたグレアム・ボンド・オーガニゼーション時代から2人の不仲は有名だったが、ベイカーはこの提案を飲み1966年にクリームが結成された。
2枚組でリリースすることが計画されていた「クリームの素晴らしき世界」
そのクリームが1968年にリリースした3枚目のアルバムが『クリームの素晴らしき世界』(Wheels of Fire)だ。当初はライブ演奏を含む2枚組アルバムでリリースすることが計画されていたが、最終的には1枚目がスタジオ録音、2枚目がサンフランシスコのウィンターランドとフィルモアでのライブという構成となった。
ブルースが5曲、ベイカーが4曲提供。残りの4曲はカバーという構成で、ブルースが10曲でリードボーカルを担当。また、ブルースは、ベース以外にもチェロ、ハーモニカ、ギター、鍵盤などをプレイ。もともとはハーモニカの演奏をきかっけにベラハウストン・アカデミーに進学して、同校でチェロを専攻。後年のソロアルバム『モンクジャック』(1995年)では全曲でピアノを演奏したり、ゲイリー・ムーアの『コリドーズ・オブ・パワー』(1982年)ではボーカルで参加したりと、マルチミュージシャンとしての実力は当時から折り紙付きだった。
そう、クリームはあくまでもブルースを中心としたバンドになっていた。スタジオサイドは、クラプトン、ブルース、ベイカーに加え、ほとんどの楽曲でプロデューサーのフェリックス・パパラルディも演奏に参加している。パパラルディも本業はベーシストだが、ボーカル、鍵盤、ヴィオラ、トランペットなどをプレイするマルチミュージシャンだ。1969年からはレスリー・ウェスト(g)やコーキー・レイング(dr)らとマウンテンを結成して活躍。日本のクリエイションともコラボレーションをした。
3人が火花を散らしながらアドリブを繰り広げる「クロスロード」
といっても、現在でもクラプトンがレパートリーとしている「クロスロード」や「ホワイト・ルーム」が収録されており、ギタリストに専念したクラプトンのプレイを聴くことができる重要アルバムだ。
ロバート・ジョンソンのカバーである「クロスロード」は、本作で唯一、クラプトンがボーカルをとった。3人が火花を散らしながらアドリブを繰り広げるソロパートが圧巻だ。一時期は、世界中のほとんどのギタリストがこの曲のクラプトンのソロをコピーしたとまで言われていた。
クラプトンは、ほとんどをAマイナーペンタトニックスケールで、一部Aメジャーペンタトニックスケールでプレイしている。ブルースのベースパートも同様で、ギターを煽りまくるベースラインは多くのベーシストに影響を与え、リードベースの始祖と言われるようになった。
「ホワイト・ルーム」はジミ・ヘンドリックスへのオマージュ
「ホワイト・ルーム」は、ブルース作の楽曲。彼はジミ・ヘンドリックスへのオマージュとしてこの楽曲を書いたが、ヘンドリックスからは “俺にもこんな曲が書けたらいいのに” と言われたという。特徴的なイントロの5/4拍子のパートは、ブルースとベイカーがともに自らが生み出したと主張していた。パパラルディがヴィオラで彩りを加えている。クラプトンは、Dマイナー・ペンタトニックスケールでワウペダルを使用したソロを提供している。
「荒れ果てた街」(Deserted Cities Of The Heart)と「政治家」(Politician)も重要曲で、共にブルース作。「荒れ果てた街」はアップテンポの8ビートのナンバーだが、途中に3/4拍子が挿入されるプログレッシヴな構成。本アルバムではDマイナー・キーだが、『ライヴ・クリーム Vol.2』(1972年)では、Eマイナー・キーで収録されており、より攻撃的なサウンドに変化している。「政治家」はブルース進行のナンバーで、クラプトンはC#マイナーペンタトニックスケールで2本のリードギターをダビング。それぞれが関連性の無いフレーズが重なり、サイケデリック色を濃くしている。
世界での総売上が3,500万枚以上
ハウリン・ウルフのカバー「スプーンフル」、ミシシッピ・シークスのカバー「トップ・オブ・ザ・ワールド」、アルバート・キングのカバー「悪い星の下に」(Born Under a Bad Sign)はブルースのスタンダード。この3曲は3人のみの演奏で、トリオならではのインタープレイを堪能できる。
ブルース色が強い中、ベイカーも「時は過ぎて」(Passing The Time)や「ねずみといのしし」(Pressed Rat and Warthog)など4曲を提供。互いにバンドのイニシアチブを握るべく個性的な楽曲を提供した。クラプトンはあくまでもギタリストとして、のびのびとしたプレイを披露。なお、2本のアコースティックギターのアンサンブルが印象的な「おまえの言うように」(As You Said)は、2本のギター共ブルースがプレイ。ブルースがハーモニカとボーカルを担当した「列車時刻」(Traintime)とともに、クラプトンは不参加だ。
アルバムは、世界での総売上が3,500万枚以上を記録。世界で初めてプラチナ認定を受けた2枚組のアルバムとなった。激しいインタープレイの連続と、ブルースとベイカーの確執で疲弊したクラプトンは、解散後にベイカーやスティーヴ・ウィンウッド(vo、g、key)らとアンサンブル重視のブラインド・フェイスを結成。その後は、アーシーなサウンドのデラニー・アンド・ボニー&フレンズや、デレク・アンド・ドミノスに参加していく。