大規模調査×銀行データが明かす副業のリアル 職種別に見る「働き方」とその目的
副業が一般化しつつある昨今、「副業=全て同じ」といった一括りの認識では、実態を捉えきれない状況が明らかになってきた。短期的な所得補てんを目的とするギグワークと、キャリア形成やスキル活用を目的とする専門職の副業では、就業者の属性や収入水準、継続性に大きな違いが見られる。
2つの最新調査が、副業の実態に潜む構造的な差異を浮き彫りにしている。ひとつは早稲田大学(東京都新宿区)とみずほ銀行(東京都千代田区)の共同研究による銀行データ分析、もうひとつはパーソルイノベーション(東京都港区)が発表した定点観測調査だ。
フードデリバリー型ギグワークは、生活防衛の「緩衝材」
早稲田大学教育・総合科学学術院の黒田祥子教授と大西宏一郎教授の研究チームは6月27日、匿名化された銀行口座データを活用し、フードデリバリー型ギグワーカーの実態を実証的に分析した結果を明らかにした。調査期間は2016年から2021年におよび、預金残高やギグ就業履歴などを時系列で解析したものである。
分析の結果、フードデリバリー型のギグワーカーは若年層・男性・低流動性層が主流であり、就業直前には預金残高が徐々に減少していた傾向が確認された。とくにコロナ以前では、ギグワーク開始時に預金残高が10万円未満だった人は、全体の7割を超えていた。
さらに、コロナ禍では中高年や女性、比較的資金に余裕のある層も新たに参入し、就業層の多様化が進んだことも判明した。開始後1か月での離脱率が3、4割に達することからも、ギグワークが「短期的な所得補てん」の役割を果たしていることがうかがえる。
本研究は、早稲田大学とみずほ銀行が締結する共同研究契約に基づく取り組みで、金融データを通じた労働供給行動の可視化は、景気や家計資金の変動と就業選択の関係を捉える上で貴重な知見といえる。
職種によって異なる副業の実態
一方、副業マッチングサービス「lotsful」を運営するパーソルイノベーションが同日結果を公表した「副業実態調査」では、スキルや経験を生かす「ビジネス職」において、月収30万円以上を得る副業者が多数存在することが示された。同調査は、20歳から59歳のビジネスパーソン男女8865人を対象に、2025年5月に実施されたものである。
副業実施率は直近半年で38.6%から42.2%に上昇し、副業意向も48.3%から51.8%へと増加した。平均月収では「20〜30万円未満」が14.4%で過去最高を記録した。中でも、「経営者層」で月収30万円以上の副業者が49.8%、「広報職」で43.6%、「事業開発職」で41.3%と、高度なスキルを有する職種において高収入が実現されている。
このように、フードデリバリー型ギグワークとビジネス副業では、就業者層や収入構造、目的意識が根本的に異なることが明確となる。副業を一括りにするのではなく、職種や背景に応じた多様な働き方として捉える視点が求められている。
早稲田大学教育・総合科学学術院/ウェルビーイング&プロダクティビティ研究所の黒田祥子教授は、今回の研究について「コロナ禍をきっかけに、働き方が大きく変化するなかで、ギグワークという新しい就業形態がどのように広がり、誰にとってどのような役割を果たしているのかを、データで丁寧に可視化したいと思い、この研究に取り組みました。生活にゆとりがないときにも、自分の裁量で働ける選択肢があるということは、多くの人にとって大きな安心につながるはずです」と語る。
多様化する副業の実態を理解することは、これからの働き方を考える上で欠かせない視点となる。
早稲田大学・みずほ銀行の調査結果の詳細は早稲田大学公式ウェブサイトで、パーソルイノベーションの副業に関する定点調査の詳細は、同社ウェブサイトで確認できる。