4歳自閉症息子との家族旅行。準備は完ぺき!のはずが「帰りたい」「食べたくない」トラブル多発!?
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
夏休みは恒例の三世代旅行へ!子どもが喜びそうなプランを計画
今年の夏休み。わが家はたーちゃんと夫と私、そして私の両親の三世代で旅行をしました。大好きなじぃじ、ばぁばと思い出をつくってほしくて、毎年1回はこのメンバーで安近短の旅行をしています。
今回は、近くにファミリー向けの遊園地のある、プール付きのホテルに2泊することにしました。遊園地やプールに喜ぶたーちゃんの姿を想像しつつ、私も旅行の計画を楽しく練っていました。
旅行1ヶ月前。不安感が強いたーちゃんの心づもりができるように、旅行の話をよく持ち出したり、泊まるホテルや遊びに行く遊園地の動画を見せました。その時のたーちゃんは「早く旅行にいきたい!」と言っており、場所見知りはしないだろうと私も夫も考えていたのです。
準備は完ぺき!のはずが、旅行にトラブルはつきもので……
そして、旅行当日。自宅から車で1時間ほどの場所でまずは大好きなじぃじばぁばと合流し、レストランで食事をするはずが……。
なんと、じぃじばぁばと会って早々、たーちゃんは「おうちに帰りたい」とぐずり出してしまいました。たーちゃんの好きな食べ物もありましたが、「食べたくない、帰りたい」と言って聞かず。ほかのお客さんの迷惑にもなりかねないので、私と夫とたーちゃんの3人はお昼ごはんを食べず、早々にホテルへ向かいました。
まだチェックイン時間前のロビーでぐずぐずのたーちゃんと時間を潰しながら、「たーちゃんの無理のない旅行にしたいけど、楽しみにしていた予定が変更になってがっかり……」と私は心の中で大人げなく思っていました。初日には観光する予定もありましたが、たーちゃんの機嫌が直りそうにないので、チェックインしてからも3人でずっとホテルで過ごすことに。
ホテルの部屋はすぐに気に入ったたーちゃん。大好きなカードゲームをして、たーちゃんの気持ちが上向いてきたところで、私も気を取り直して、ホテル併設のプールへと誘ってみます。しかし、たーちゃんは「プール行かない!」の一点張り……。気持ちは上向いても、切り替えることは苦手なたーちゃん。カードゲームをやめることができずにいました。
結局、じぃじとばぁばがホテルに来てからも、部屋でカードゲームばかりでした。
ホテルの広い食事会場での夕飯は、慣れない場所やたくさんの人に緊張しているのか、ほとんど食べてくれず、早く部屋に戻りたいとぐずります。そして、戻ってきた部屋でお菓子をポリポリ……。
「絶対喜ぶはず」と思った遊園地でも、まさかの入園拒否!?
2日目。予定していた遊園地では、看板に書いてあったキャラクターが怖かったらしく、入口で大泣き。「絶対入らない!」と、断固拒否でした。「たーちゃんの好きな乗り物や、かき氷もあるよ!」と説得しましたが、ホテルにトンボ返りすることに。
以前の私ならば、想像していた旅行にならずにイライラしてしまったかもしれません。しかし、たーちゃんの特性を理解したうえで、たーちゃんが楽しんでくれることをこの旅行では最優先にしていたので、気持ちを切り替えることができました。特性がなければ、「たーちゃんは入れるかな?遊んでくれるかな?泣かないかな?」という心配をすることはないのに……と思うことはありますが、予定通りにいかないこともあると分かっていました。
私の父と母には迷惑をかけましたが、スケジュール通りに旅行を完遂することが目的ではないと共通認識を持っていたので、突然の予定変更でも受け入れてもらえました。結局、たーちゃんは旅行のほとんどをホテルの部屋でカードゲームをして過ごしました。
2日目の午後。たーちゃんにつきっ切りでホテルに籠っていた私たち夫婦を見かねてか、「たーちゃんを預けて2人で出かけてきたらどうか」と父と母が提案してくれました。どうせならば、と子連れでは行けないような場所へ、数時間出かけさせてもらうことに。想像していた家族旅行ではなかったけれど、予定を柔軟に変えて、たーちゃんも大人も楽しめる旅行になったのではないかと思います。
予定通りにはいかなかったけれど。楽しめたのなら結果オーライ!
3日目。帰りの車内で「旅行、何が楽しかった?」とたーちゃんに聞くと、「カードゲーム!」と返してくれました。じぃじやばぁばと、大好きなカードゲームができて楽しかったようです。
大人が想像していたような旅行にはならなかったけれど、たーちゃんがホテルステイをエンジョイしてくれたのなら、それで良かったのだと思うことにしました。
旅行は良くも悪くも刺激がたくさんあります。予想しない事態になった時も、大人が気持ちを切り替えてプランを変更し、本人に無理のない旅行にすることが大事だなと学びました。もしかすると、旅行への心づもりが必要だったのは、たーちゃんではなく私のほうだったのかもしれません。
難しいこともあるかもしれませんが、障害のあるお子さんも保護者の方も旅行を楽しんで、たくさんの素敵な思い出をつくることができたら良いな、と思います。
執筆/みかみかん
(監修:井上先生より)
4歳半という年齢から考えると、家以外の場所に行くということだけでも、お子さんにとっては大きな刺激になります。ましてや泊りがけの旅行に行くということは、本人にとってもご家族にとっても、大きな冒険だったと思います。おじいさんおばあさんも一緒ということで、そういう面でも気を遣われたと思いますが、みんなで一緒に楽しむということを唯一の目標にするのではなく、それぞれが行った先で楽しみを見つけていくという点からは、素晴らしい旅行体験だったのではないでしょうか。今後お子さんが成長していく中で、行ける場所や楽しめる場所は広がってくると思いますし、その中で少しずつ良い思い出が重ねられるといいですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。