発語のない3歳息子、幼稚園から転園を決意!でも地域は療育園激戦区で!?
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
幼稚園から療育園へ転園?療育の先生からの提案
わが家の長男りーは、3歳を過ぎても発語がなく、指差しをしないなど発達に遅れが見られたものの、加配の先生のサポートを受けながら幼稚園に通っていました。幼稚園年少の終わり頃、並行して通っていた児童発達支援施設の先生から、「りーくん、療育園へ転園しませんか?」と提案を受けました。
先生が療育園への転園を勧めた理由――それは、療育時間が足りないことでした。当時りーが通っていた児童発達支援施設は月に15日利用していました。1日の療育時間は幼稚園が終わってからの14時から17時の3時間です。
一方、幼稚園から療育園に転園すると、療育時間は10時から14時の4時間、利用日数も25日と増えます。さらに療育園では先生の数も多く、少人数(多くても3人)にそれぞれ担当の先生がつき、その子に応じた対応をしてくれるということでした。
児童発達支援施設の先生の「療育時間を増やせば、りーくんはきっともっと伸びる」「りーくんの成長をそばで見守りたいけれど、療育園に通えばもっとできることが増えるはず」という言葉を受け、療育園へ転園する方針を固めました。
療育編への転園を決意!しかし簡単にはいかず……
とはいえ、私たちの住んでいる地域は”療育園激戦区”でした。今申し込んでも定員はいっぱいのため、すぐには入れないこと、申し込んだとしても人数や障害の程度によっては入れない場合もあることを知った私たちは、すぐに行動にうつすことになりました。
まずは療育園の見学に行きました。そこでは最初に療育内容についての説明を受けました。クラス編成は年齢順ではなく、それぞれの課題や発達段階に応じて分かれているとのことでした。
そして部屋や療育で使う運動器具などを見せてもらいました。そこにはりーの好きそうな跳躍器具やブランコなどもあり、りーもうれしそう。「ここに通えたら、りーらしく楽しく過ごせるのかな」と希望は膨らんでいきました。
診断を受けに児童精神科を受診
次に、療育園へ通うためには医師の診断が必要だったため、診察を受けることになりました。診断名は中度知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)。
りーを診察した医師は、決して育て方が悪かったからなったわけではないということを強調して言ってくれました。ある程度予想はしていましたが、診断名を聞くとなんだかホッとしたのを覚えています。
それから診断書を作成してもらい、療育手帳と特別児童扶養手当の対象となることを教えてもらいました。手帳や手当、療育園へ転園する旨を伝えに役所に行きましたが、ここは夫が書類の作成や申請に行ってくれました。
そして結果が出る冬。1年間だけですが療育園へ通えることになりました。
いよいよ療育園へ転園。温かく迎え入れてくれた先生方
療育園の入園説明会があり、りーと一緒に向かうと先生方が温かく迎え入れてくれました。そして「よく来てくれたね」「上手に靴が脱げたね」と、りーのすることを一つひとつ褒めてくれました。
最初は警戒していたりーも優しい先生方を見て安心したようで、帰る頃には手を繋いで仲良くなったようでした。
そして3月、幼稚園を退園しました。児童発達支援の先生から転園を勧められた時、もっと早く行動できなかったのか、最初から療育園のほうが良かったのかと思うこともありました。でも、幼稚園ではりーのことを気にかけてくれるお友だちができました。今でも会う機会があると、りーのほっぺをむにむにと触ってくれ、りーもうれしそうです。
幼稚園で過ごしたことは無駄ではなかった、と思っています。りーの療育園での様子については、また別の機会に書かせていただきます。
執筆/かしりりあ
(監修:室伏先生より)
療育園への転園の契機や手続き、幼稚園と療育園の違いなどについて詳細を共有いただき、ありがとうございました。外来でも、幼稚園と療育園のどちらに入園するか、というご相談はよくいただきます。療育園では、一人ひとりに合った支援を受けられる可能性が高いですが、帰宅時間が早いので共働きの場合には勤務の調整が必要なこともあります。また、保護者同士のつながりができることもメリットと思います。一方で、幼稚園では、先生のマンパワーが療育園に比較して少なく、個別の支援が受けにくい可能性が高いですが、ほかのお子さんからのさまざまな刺激を受けることが期待できます。また、りーくんのように、児童発達支援への通所と組み合わせて通園することが可能な場合もあります。
現在は、療育園を含む、どの療育施設も混み合っていて希望してすぐに入れるわけではないこともありますので、私たちも親御さんへの情報を、どのタイミングで、どのように伝えていったら良いか、試行錯誤しています。どちらが適しているかということは、お子さんの知的発達の程度や、お困りの内容だけでなく、地域のリソースによっても異なりますので、お子さんをよく知っている医師・心理士、療育先のスタッフ、園の先生方や、市区町村の担当部署などとも相談できるといいですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。