うちわの老舗 攻めの経営 株式会社稲藤 代表取締役社長・稲垣雄介さん(38)
1本の竹を編んで作る三重県指定伝統工芸品「日永うちわ」を生産する、1881(明治14)年創業の「稲藤」(四日市市日永)の5代目。伝統を守りながらも、攻めの経営で「次の一手」に挑む。
4代目の父・嘉英会長(67)からは「好きなことをすればいい」と言われ、大学卒業後は輸送機器メーカーに就職。調達部門で働いたが、子どものころから見てきた祖父や父の姿が脳裏にあり、25歳の時に稲藤に入社。「日永うちわの灯を消すな」という代々の心意気を受け継いだ。
2019年12月に5代目を継承したが、ほどなく新型コロナウイルス感染拡大の時期を迎えた。人との接触を減らすことが呼び掛けられる中、「会えないからこその贈り物」をアピール。狙いが当たって贈答品の売り上げの好調につながり、「新たな戦略のきっかけにもなった」と振り返る。
うちわは「夏に使うもの」というイメージが強いが、同社は「年中使ってもらえるもの」を目指している。うちわだけでも商品は20種類ほどあり、中には持ち手と扇面の間にあるかご状の空間に香り玉を入れ込み、置くだけでも香りが広がる「香るうちわ」などもある。伝統を守りつつも時代のニーズに合わせ、春から初夏にかけて新商品を発表している。
同社の従業員数は30代から70代の約30人で、職人は日永うちわの製作技術の保持者である母・和美さん(62)を含めて7人。店舗は鈴鹿市を含めて計2店舗を展開している。
近年は京都でうちわのインバウンド需要が高まり、日永うちわも「まだまだ伸び代は十分」と話す。本社内には製作体験のスペースがあり、受け入れ体制は万全。海外進出も視野に入れている。
秋以降に繁忙期を迎えるギフト商品やカレンダーなども販売している。従来は贈答品の個人客へのアプローチが強かったが、身内だけで行う冠婚葬祭の増加など人々の価値観の変化を受け、昨今は法人向けの営業を強化。今では個人と法人の割合は逆転しているという。
結婚相談所も運営
また、祝い事の贈答品を扱ってきた延長で、17年からは結婚相談所「マリッジサポートBBI」も運営している。最近は本社に隣接する約1千300平方メートルの土地を購入し、複数の診療科を備えた医療モールの建設計画を進めており、更なる経営の多角化を図っている。
家では3男1女の父親。多忙な中でも一緒に食事や送り迎えなど、家族の時間を大切にしている。
中学から大学まで打ち込んだ柔道は三段の腕前で、得意技は背負い投げ。四日市青年会議所や四日市商工会議所青年部、四日市法人会青年部会、消防団の活動にも尽力している。
「いろんなことを幅広く吸収していきたいタイプ」と自己評価する稲垣社長。「伝統と信頼をこれからも大切にしていきたい」と語った。