日常で乗るマクラーレン #06: トラブルは突然に
PFのアートディレクター兼代表が、自ら7年にわたり所有するマクラーレンについて語る連載。今回は、いつかはやってくると思いつつも、突然訪れたエンジン関連のトラブルについて紹介する。
いつかは来ると覚悟していたが
前回、「10年目の工業製品、相応の心構えは必要だ」「突然走れなくなるようなトラブルはなく優秀」などと言っていた矢先、埼玉県川口市にあるスタジオ兼ガレージに向かっていた時の事。
首都高速を降りて一般道を走り到着まであと数km、信号待ちのタイミングで、ファンの回転数がいつもより高い事に気づいた。その日は気温が25°くらいで、4月中旬としては高かったが、水温計が通常通りセンターを指していたのでそのまま目的地に向かった。
到着し、ガレージに車を止めて気づいた。何かの液体が漏れている。量としてはエアコンの水かな?と思えるくらいの少量だったが拭き取ってみるとグリーン色の冷却水だ。
「ついに来たか……」と思うと同時に、前回の点検整備時にウォーターホースの部分交換と、増し締めをした事を思い出した。その箇所あたりからの漏れを想像したが、エンジン上部からは確認できないし、アンダーカバーは下部全面を覆っているので、覗き込んだところで何も見えない。
まずはマクラーレン有明に電話し、トラブルの発生と経緯を報告する。動かして大丈夫かとの問いには「冷却水がどのくらいの量残っているか次第」ともしながら「様子を見ながら注意して帰ってきてください」との事だった。
冷却水の漏れはエンジン停止状態では確認できず、「きっとそれ程漏れていないだろう」と、直感的に思ってしまった。今思い返せば安易で理論的ではない発想だった。ポジティブな性格は時として厄介だ。
仕事を済ませて、車に乗り込んでイグニッションをオンにすると、メーターパネルでは通常通りの動きをしているようだ。「多分大丈夫だろう」エンジンスタートボタンを押すと普通にエンジンがかかりアイドリングを始めたので出発する。
しかし、ガレージを出発して5分ほど走ったところで水温計がイエローゾーンに突入、「コレは明らかに異常事態だ……」様子を見るタイミングも全く無い。少しパニクりながらも安易なポジティブ発想を反省しつつ、すぐに帰宅は不可能と判断しガレージにUターンした。
到着するまでに水温計のインジケーターは何度かレッドのラインまで到達し、スロットルには制御が入り5km/h程のスピードを強いられた。ガレージに戻り車を止めると、やはり少量の冷却水漏れが確認できる。
まだ水量が残っているのは確かだが、水温の上昇スピードからして、きっとかなり漏れているだろう、そう言えば冷却水量の確認もオイル量と同様、アナログな目視はできない。
そして10年目のMP4-12Cは不動となった
マクラーレン有明に再度連絡し、入庫の予約をする。前日にタイヤを注文してあったので同時に交換作業も依頼した。
タイヤは自身で持ち込んだ。ホース類などの部品が日本に在庫していれば良いがイギリスからの輸送になるとかなり時間がかかる。
せっかくのゴールデンウィークは車なしの生活だなぁ、と残念な気持ちになるが、それ以上に重症でない事を祈った。
ホースバンドの交換だけで済めば御の字だが、それでもきっと数十万円にはなるだろう。何かが起これば、ひと桁万円という修理はまずありえない。
ゴールデンウィークも過ぎマクラーレン有明から見積もりが届く、タイヤ交換費用(タイヤ自体は含まず)も含めて ¥280000と思ったよりも高額ではなくホッとした。
しかし、ここから追加の費用が発生する場合もあるから気を抜けない。ホースを交換してプレッシャーが掛かった状態で正常に動作するかが、まだ分からない。その他の不具合箇所が発見されることもあり得るのだ。
検査結果は軽症。
それから1週間が過ぎ、水漏れの原因が判明。前回整備時とは関係のない箇所の、ホースの穴あきであった。外側からは確認できないほどの小さな穴があり、中を覗くと内側の欠けの方が大きい事が確認できた。
何かが干渉したものではなく劣化の類いと思われる。やはり金属以外の部品に関しては初期ロットにこのようなケースが多いのだろう。
原因だったホースを交換し、他の部分からの漏れはなかったので当初の見積もり以外の費用は発生せず、タイヤ交換費用(タイヤ代は別)を含む全ての合計金額は見積もり通りとなった。あれこれ心配していたものの、軽症だったと言える。
ともあれ、元気に走れる状態になり、ニュータイヤを奢り久々に良いコンディションになった。
次回は、敢えて承認タイヤのピレリを差し置いて選択した「ミシュラン パイロット スポーツ4S」の印象について報告したいと思う。