社長の住所、登記簿「非公開」がスタート 約2割は与信判断に「マイナス評価」で事業に影響も?
10月1日に商業登記規則等の一部が改正され、株式会社の代表取締役の住所の一部非公開を選択できるようになったことを受け、東京商工リサーチ(東京都千代田区)は10月18日、代表者住所の一部非公開についてアンケート調査を実施した。
調査結果によると、住所を一部非公開にした企業との取り引きは、取引企業の約2割が「与信をマイナスにする」と回答するなど、事業の拡大やビジネスの新規参入が難しくなる可能性も出ていることが明らかになった。
約半数は「わからない」、社長の住所の「非公開選択」を知らない企業も多く
アンケートは10月1日から8日にかけて実施。1年以内に代表者の住所の非公開を選択するかは、5125社中、「する(した含む)」は1363社(26.6%)で、「しない」は1330社(25.9%)と拮抗(きっこう)した。「わからない」は2432社と全体の半数(47.4%)近くを占め、非公開選択を知らない企業も多いことがうかがえた。
規模別では、「する(した含む)」は大企業(453社)で106社(23.4%)、中小企業は4672社中、1257社(26.9%)だった。また、「わからない」は大企業が255社(56.2%)、中小企業が2177社(46.6%)と大企業が10ポイント近く高かった。
業種別では、「する(した含む)」と回答した企業は、クリーニング業や美容室など「洗濯・理容・美容・浴場業」が53.3%で最も高い傾向にあった。次いで、「職業紹介・労働者派遣業」(48.5%)、検量業など「運輸に附帯するサービス業」(40.6%)と続き、幅広い業種で非公開を選択する企業が広がるもよう。
社長の住所非公開で金融機関の与信判断硬化、最多は「情報通信」
代表者住所の非公開を「しない」と回答した企業に理由について、1238社中で最も多かったのは、「非公開にできることを知らなかった」が388社(31.3%)だった。10月1日に商業登記規則が改正されたものの、認知度が低いままのスタートとなったことが浮き彫りになった。
次いで、「非公開手続きが煩雑と感じるため」が318社(25.6%)、「取引先の与信判断の硬化が懸念されるため」が271社(21.8%)と続き、「しない」理由の中には、非公開にすることで与信低下を懸念する企業が多いこともわかった。
「取引先の与信判断の硬化が懸念される」と回答した企業を産業別で見ると、最も構成比が高かったのは「農・林・漁・鉱業」と「金融・保険業」でそれぞれ28.5%だった。
また、「金融機関の融資支援の硬化が懸念される」は、「情報通信業」の21.3%が最も高く、次いで建設業の19.7%、不動産業の17.0%と続き、東京商工リサーチは「事業継続に借入金や信用取引が大きなウェイトを占める業種が目立つ」と分析している。
中小企業大企業全企業金融機関の融資姿勢の硬化が懸念されるため176社(15.23%)13社(15.66%)189社(15.26%)取引先の与信判断の硬化が懸念されるため247社(21.38%)24社(28.91%)271社(21.89%)商取引で取引先への提出書類の増加が見込まれるため195社(16.88%)19社(22.89%)214社(17.28%)行政手続きで提出書類の増加が見込まれるため239社(20.69%)19社(22.89%)258社(20.84%)非公開手続きが煩雑と感じるため306社(26.49%)12社(14.45%)318社(25.68%)非公開にできることを知らなかった366社(31.68%)22社(26.50%)388社(31.34%)その他136社(11.77%)10社(12.04%)146社(11.79%)回答社数1155社83社1238社
7割が「与信に影響しない」と回答も、2割がマイナス評価に
取引先の代表者住所が非公開となった場合の与信判断の変化について、5390社の中での最多は「判断に影響はない」(3668社)となり、約7割(68.0%)が変化しないと回答した。東京商工リサーチは「与信上必要な代表者住所を把握済みの企業も多く、すぐに影響は出ないようだ」と指摘している。
マイナス評価に関しては、「ややマイナス」が16.7%(905社)、「大いにマイナス」が2.9%(159社)で、「マイナス」は合計19.7%と約2割だった。
中小企業大企業全企業大いにマイナス148社(3.01%)11社(2.25%)159社(2.94%)ややマイナス797社(16.25%)108社(22.17%)905社(16.79%)判断に影響はない3357社(68.46%)311社(63.86%)3668社(68.05%)ややプラス17社(0.34%)1社(0.20%)18社(0.33%)大いにプラス5社(0.10%)1社(0.20%)6社(0.11%)決めかねている579社(11.80%)55社(11.29%)634社(11.76%)回答社数4903社487社5390社
「マイナス」回答の高さを産業別に見ると「金融・保険業」が36.5%と最も高く、次いで、「卸売業」(26.9%)、「農・林・漁・鉱業」(26.1%)と続いた。さらに業種を細分化してみると「マイナス」との回答が最も多かったのは「貸金業,クレジットカード業等非預金信用機関」で半数が「マイナス」と回答した。
社長の住所公開、ストーカーや過剰な営業行為で起業の妨げに
株式会社の代表取締役の住所の一部非公開を選択できるようになるまでは、会社法で代表者住所を登記する必要があり、登記事項証明書などに住所が記載され、この住所公開が、起業の妨げやストーカー、過剰な営業行為などにつながると危惧されていた。
商業登記規則等の一部が改正されたことで、選択すれば住所は区や市町村の行政区画まで表示され、番地などを非表示にできる。
今回の改正について、東京商工リサーチは「一般的な商取引では、代表者住所から資産状況、差し押さえの有無、破産歴などを確認するが、住所非公開ではこうした情報取得が煩雑になり、信用供与が限定されることも想定される」とコメントしている。
東京商工リサーチの発表の詳細は同社の公式ホームページで確認できる。