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バショウカジキとヒシコバンの<共生関係>が明らかに? アクアマリンふくしまの担当者に話を聞いてみた

サカナト

バショウカジキのエラ内へ潜り込もうとするヒシコバン 2023年11月(撮影:アル)

大型の海洋生物に吸着して生活するコバンザメ

これまではコバンザメ側が一方的に得をする「片利共生」の代表例と考えられていましたが、実は双方にメリットのある「相利共生」の可能性もあるのではないか? そんな、とても興味深い研究結果が、福島県の水族館「アクアマリンふくしま」より発表されました。

今回、この研究論文の主著者であるアクアマリンふくしま・飼育展示部の森俊彰主任技師にお会いする機会に恵まれ、詳しいお話をお聞きすることができました。

片利共生と相利共生とは?

異なる生物種間での関係は、大きく分けて「相利共生」「片利共生」「寄生」の3つに分類されると言われています。

相利共生は両方の生物に利益がある関係で、片利共生は一方の生物のみに利益がある関係。寄生とは、一方の生物には利益があり、もう一方には不利益がある関係を指します。

共生関係の一例、ホンソメワケベラのクリーニング行動(撮影:アル)

コバンザメと大型海洋生物の関係は、コバンザメにとっては捕食者から身を守る、少ないエネルギーで長距離を移動できる、エサのおこぼれなどを食べられる──といった利益が大きい一方、吸いつかれた側にとっては利益がないように見えることから、これまで片利共生の典型的な例として教科書などで紹介されてきました。

しかし今回、水族館での飼育下観察の結果、コバンザメの一種「ヒシコバン」とバショウカジキの関係において、ヒシコバンによるクリーニング行動が確認されました。このことから双方に利益のある「相利共生」の可能性もあるのではないか、という研究結果が発表されたのです。

バショウカジキとヒシコバンの関係について詳しく聞いてみた

今回、なぜこのような「定説」をくつがえす発見となったのか。アクアマリンふくしまの森主任技師に詳しく話を伺いました。

「疑問」が出発点 なぜエラの中に入るのか?

━━まずは、今回の発見のきっかけについてお教えいただけますでしょうか。

実は、私はバショウカジキの飼育担当ではないのですが、ある日、バショウカジキの飼育担当者から「カジキにコバンザメの仲間が付着しているので、できれば取り除きたい」という話を聞きました。

━━なんと!最初は「取り除きたい」という話だったのですね。

ええ。当初は「バショウカジキの遊泳の邪魔になったり、体表を傷つけるのでは」とも考えていたので。そんなある日、別のスタッフが撮影した動画を見る機会がありました。

その動画には、ヒシコバンがバショウカジキのエラを出入りする様子が映っていました。ヒシコバンが普段はバショウカジキのエラの中に入っているということが分かり、非常に驚きました。「この行動はなんなのだろうか」という疑問が出発点です。

バショウカジキのエラから泳ぎ出るヒシコバン 2023年11月(撮影:アル)

━━具体的には、バショウカジキとヒシコバンのどのような行動が特徴的だったのでしょうか。

まず「他の魚のエラに入って生活している」という点ですね。エラというのは魚にとって重要器官ですので、そこに入って生活しているという点がシンプルに驚きでした。

実は、先行研究を調べると、大型魚のエラの中からコバンザメの仲間が出てくるという知見は古くからいくつか報告されています。ただ、主に漁獲サンプルからの調査結果だったこともあり、その理由についてはこれまであまり深く研究されていませんでした。

今回は水族館での飼育下だったため、行動観察をする機会に恵まれました。観察していると、エラの中に入られているものの、バショウカジキに嫌がるようなそぶりがあまり見られない──これが2つめの重要な発見でした。

バショウカジキは泳ぐ速度を落としてクリーニングを要求する

━━今回の論文の中でポイントとなるのは、その「ヒシコバンのクリーニング行動」「バショウカジキのクリーニング要求行動」という点だったとありましたが、具体的にどのような行動なのかを教えていただいてもいいでしょうか。

バショウカジキのクリーニング要求行動としては、まず「泳ぐ速度を落とす」。そのために尾びれを振るのを止めて推進力を落とします。エラを大きく開いてヒシコバンが出てくるのを促しているようにも見えますし、あとはブレーキをかけるために背びれを広げたりもします。

バショウカジキの大きな背びれ、2024年11月(撮影:アル)

━━あの背びれを広げる行動は、ブレーキングだったんですね!

そうですね。同じ水槽を泳ぐカツオもターンする際に背びれを広げる行動をするのですが、それと同じような感じです。バショウカジキの場合はあの大きな背びれなので、なおさら大きな制動力を得られるのかもしれません。

野生下の観察結果では餌となる小魚を追い込む際にも背びれを使うようですが、今のところ当館の水槽内では、イワシを追うときに背びれを広げるというのはあまり観察されていません。

マイワシを捕食しようとするバショウカジキ 2020年10月(撮影:アル)

生きものの共生関係は多様

━━なるほど! ただただ「背びれを広げた美しい姿」を撮影するのに夢中で、その理由にまで思いが至っていませんでした(反省です)。この「クリーニング行動」の観察から、これまで「片利共生」とされてきた関係が実は「相利共生」の可能性があるという研究結果が導き出されたのでしょうか。

いえ、実はそう単純でもないんです(笑)

生きものの共生関係って「相利共生」「片利共生」「寄生」の3つに分けられるってよく言いますが、生きものを観察していると必ずしもそう綺麗に分けられる概念ではないと感じます。

━━なるほど、確かにそれは一理ありますね。水族館でよく見られるホンソメワケベラのクリーニング行動なんかも、宿主側が嫌そうにしているときもありますよね。

そうそう。あれ、ホンソメワケベラも本当は宿主の粘液を食べるのが好きらしいという説もありますし(笑)

「相利共生」と「片利共生」って人間が主観的に決めた概念であって、実は「0か100か」で決められることではないのだろうと思います。

━━つい「片利共生か相利共生か」という観点で考えてしまいがちなテーマですが、確かにその通りですね。

コバンザメの学名(属名)のRemora って、ラテン語で「邪魔者」というような意味なんですよね。昔の人もコバンザメを見て直感的にそう思っていたんだ、という。

一方で、古くからバショウカジキとヒシコバンはこのような関係を続けてきたのだと思います。バショウカジキを解剖してみると、エラの構造が他の魚とは異なり、ヒシコバンを収納しやすい構造になっているようにも見えるのです。

この共生関係がいつごろからどのように進化してきたのかなど、非常に興味深く思っています。

━━貴重なお話を、本当にありがとうございました。今後も更なる新発見に期待しています!

確かに「まとわりつかれて迷惑そう」と勝手に思っていました 2023年11月(撮影:アル)

「共生関係」の奥深さ

コバンザメは「片利共生をするちゃっかり者」。そんなイメージが覆され、「コバンザメによるクリーニング行動」という非常に興味深い行動が観察された、今回の研究結果。

一方で「片利共生と相利共生は必ずしも明確に区別できるものでもない」という、生き物たちの共生関係の奥深さにも気付かされました。

これからも、バショウカジキの飼育展示への挑戦を始め、アクアマリンふくしまでの調査研究活動を心から応援しています。

(サカナトライター:アル)

参考文献

アクアマリンふくしま-お掃除屋さんはエラの中? 「世界初!バショウカジキとコバンザメのふしぎな関係を解明」

SPRINGER NATURE Link:Symbiotic cleaning relationship between a sailfish (Istiophorus platypterus) and remoras (Remora osteochir)

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