「あいうえお」がこの順番なのはなぜ? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「A」を含むオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「がさがさ」「だらだら」「ぱかぱか」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年10月号から、母音の「A」を含むオノマトペに宿るイメージを見ていきます。
母音 Aを含むオノマトペ
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「あいうえお」はある順番で並んでいます。それは何でしょう? 第十一回(二〇二五年二月号)では、五十音の行が、各子音の発音の位置に従って、口の奥から前へと並んでいることに触れました。母音の順番にも音声学的な理由があります。
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大袈裟に「あーいーうーえーおー」と言ってみてください。各母音を発音する際、舌はどの辺りにあるでしょう? 「あ」は最も大きく口を開くため、舌の位置は最も低くなります。反対に、「い」は口の開き方が最小で、舌が前に出ます。「う」も舌の位置が高めですが、「い」よりも後ろに下がります。つまり、「あいう」は口の中で三角形の頂点となる音なのです(下図)。一方、「え」と「お」はその中間に位置します。「あ」という母音は、「あっ!」や「わー!」のようにとっさに出てしまうほど基本的な音です。そこから順に大きな対比を作っていくことで、「あいうえお」の順番となるのです。
世界の言語を見渡してみても、どの言語でも使われているのは「あ」と「い」で、次に一般的なのは「う」、その次が「え」と「お」なので、五十音順になっています。コミュニケーションのためには、音どうしが発音し分けやすく、聴き分けやすい必要があります。そのため、この順番になるのです。
各母音に宿る意味は、まさにこの発音上の特徴を反映します。まず、句例に出てくるオノマトペから語根を抜き出してみましょう。語根とは、繰り返しや語尾を除いた、オノマトペのもととなる要素でした(二〇二四年四月号参照)。つまり、「ぐわら」「さや」「だら」「ばさ」「はら」「ぱか」「まざ」「わや」です。いずれもア段のみで構成されています。一つ目と二つ目の母音が同じオノマトペ語根は全体の32%にも及び、基本パターンといえそうです。
ア段が表すのは、その開口度を反映した大きなイメージです。「ぐわらり」からは氷柱の大きさが窺えます。「さやさや」と楓の葉を揺らす夏の風は、「そよそよ」とそよぐそよ風よりも強めです。
『NHK俳句』テキストでは、「はらはら」「ぱつかぱつか」「まざ」「わやわや」といったオノマトペが表すイメージや、母音の選び方が俳句に与える印象についても解説しています。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年10月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『音とことばのふしぎな世界』(川原繁人著・岩波書店)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ』(浜野祥子著・くろしお出版)/Akita, K.et al. (2013). Mimetic vowel harmony. Japanese/Korean Linguistics, 20/Moran, S., & McCloy, D. (eds.) (2019). PHOIBLE 2.0. MPI-SHH
◆トップ写真:grandspy_Images/イメージマート(テキストへの掲載はありません)