島 太星「歌はやればやるだけ成長できるから面白い」~ミュージカル『四月は君の嘘』インタビュー
2025年8月、ミュージカル『四月は君の嘘』がキャストを一新して3年ぶりに再演される。
原作は新川直司による同名コミック。アニメ版や実写映画版でも大ヒットを記録し、世界的な人気を誇る名作だ。若者たちの音楽への情熱や切ない想いが繊細に描かれるストーリーを、ミュージカル界の巨匠フランク・ワイルドホーンが色鮮やかな音楽で彩る。
キャストは主人公の元天才少年ピアニスト・有馬公生役を岡宮来夢と東島 京、個性的なヴァイオリニスト・宮園かをり役を加藤梨里香と宮本佳林、公生の幼馴染・澤部椿役を希水しおと山本咲希、公生の友人で人気者の渡 亮太役を吉原雅斗と島 太星が、それぞれWキャストで務める。
今回は、サッカー部の部長で女子からの人気も高い渡 亮太役に挑む島 太星に話を聞いた。直近ではミュージカル『フランケンシュタイン』のアンリ/怪物役に大抜擢され、見事に演じきって存在感を発揮していた島。インタビューでは舞台上の姿とは180度異なる、チャーミングで愛らしい人柄が感じられた。
「周りに光を与える太陽のような存在でありたい」
ーー「命懸けで臨む」と製作発表で話していらっしゃった『フランケンシュタイン』の公演が、無事に終わりましたね。
生きるか死ぬかの覚悟だったので、こうして生きててよかったなあと思います(笑)。僕にとって『フランケンシュタイン』は本当に挑戦だったんです。あんなに責任を強く感じる作品は初めてで、大千穐楽までずっと緊張した日々を過ごしていました。終わったらホッとできると思っていたのですが、今は逆にプレッシャーを感じています。次は『四月は君の嘘』という素敵な作品が決まっていますが、「じゃあそのあとは?」と考えるとドキドキなんです。だからお客様には、どうかこれが当たり前だと思わないでいただきたい(笑)。奇跡のような流れでここまで辿り着いているので、過度な期待はしないでもらえたら……!
ーープレッシャーを感じやすいタイプなんですね。
そうなんです。ファンの方からの期待や応援はもちろん嬉しいですよ。みなさんにもっと喜んでもらいたいという想いが元々強いんです。だからこそ、高い山を登ったからにはもう下りるわけにはいかないなと。『四月は君の嘘』から次に繋がるように、とにかく頑張りたいですね。
ーー『四月は君の嘘』に渡役での出演が決まったときは、どう感じましたか?
怪物から学生の役になるなんて、どうなってしまうんだろうというのが正直な気持ちでした。高校生の渡 亮太として生きることができるのか、稽古場で苦戦しそうだなと今の段階では感じています。
ーー苦戦というのは?
渡は明るくて人気者。でも何も考えていないわけではなくて、心の奥に熱いものを持っています。公生を気持ちの面でサポートする役回りですが、一方の僕はここまでずっと支えられてきた人間なんです。それに僕は渡のように考えて人を楽しませるようなタイプではないんですよ。彼はみんなのムードメーカーでもあるので、稽古場からもそういうオーラを出せたらいいなあと思います。
ーー島さんはいつもムードメーカー的存在なのかと思っていました。
僕は何も考えていない、予期せぬムードメーカーなんです(笑)。しかも急に闇が出てくるので、“闇渡”になっちゃうかもしれません(笑)。もちろん彼にもいろんな葛藤はあると思うのですが、周りに光を与える太陽のような存在でありたいですね。これから深いところまで渡 亮太を知った上で演じていきたいです。
ーー今回のカンパニーの中ではどんなポジションになりそうですか?
実はそれがちょっと不安なんですよ。『フランケンシュタイン』は大先輩方がいる環境だったので、頼りっぱなしだったんです。でも今回は同世代で年下の方もいますし、うまく立ち回れるかなあと。なるべく僕を年上だと思ってもらいたくないですね。最前線で活躍されている俳優さんばかりですし、僕はまだまだ先輩の立場に立てるような人間ではないので。
ーーお話を聞いていると、島さんはとても謙虚なんですね。
僕、多分一生かかっても調子に乗れないタイプなんですよ。常に謙虚でありたいとも思います。稽古場では「おはようございます! よろしくお願いします! お疲れ様でした!」と、気合いMAXで頑張ります!
「この作品で歌う意味を大事にして臨みたい」
ーー昨年、韓国でミュージカル『四月は君の嘘』を観劇されたそうですが、いかがでしたか?
素敵な空間で切磋琢磨しながら稽古をしてきたのだろうな、ということが伝わってくるカンパニーでした。学園モノならではの、若さ溢れるエネルギーもたくさんいただきました。自分たちもチームで一丸となって作品を作り、お客様にそれを体感してもらえたら嬉しいなと思います。
ーー劇中、渡がメインで歌う「The Beautiful Game」はサッカーの試合のシーンなので、激しい動きがある中での歌唱になります。
僕にとっては高くもなく低くもなく、微妙な音域のナンバーなんです。それを動きながら安定して歌うのに苦労しそうですね。高いか低いか、どちらかであればそのポジションでブレずに歌えると思うのですが、この曲はどちらでもない中間の音。稽古を通して、安定したポジションを一刻も早く見つけたいです。
ーー『四月は君の嘘』は、フランク・ワイルドホーン作品の中でも特にポップスの要素が強い音楽だと思います。島さんがアーティストとして歌を歌うときの感覚は活かせそうですか?
そこは稽古場で話し合いながら決めていきたいですね。ミュージカルは劇中で発するセリフを歌で表現しますが、ポップスの歌唱で言葉をしっかり届けるのはなかなか難しいなと感じています。役の気持ちと一致した状態で歌うことや、この作品で歌う意味を大事にして臨みたいです。
ーー島さんにとって、ミュージカルでの歌とアーティストとしての歌は違うものなのでしょうか。
実は最近、よくわからなくなってきました。以前はミュージカルの仕事のあとにポップスを歌うのがすごく難しいと感じていたんです。でも最近思うのは、歌は言葉が伝わらないと意味がないんじゃないかということ。ポップスでもミュージカルでも、歌で言葉を伝えることに変わりはないのかもしれないなと。
ーー言葉に重きを置くようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
やっぱり『フランケンシュタイン』での経験だと思います。本稽古が始まる約1年半前から歌稽古をさせていただいていたので、その期間を通して言葉を伝える大切さを学びました。何より、共演させていただいた中川晃教さんや加藤和樹さんをはじめとする先輩方の姿を通して、ミュージカルの難しさも改めて実感したんです。そこから自分の歌への意識が大きく変わったと思います。
ーーご自身の歌声の変化も感じますか?
ずっと近くで見てくれていたマネージャーさんも含め、明らかに成長していると自分でも感じます。低いところから高いところまで、これまで出なかった音域が出るようになりました。低音から高音までをスムーズに繋げることもできるようになったと感じています。
昔から、言葉で細かく説明されるより「この骨のこの辺りから声が出る」みたいなイメージをした方が声を出しやすい感覚があったんですよね。だから最近は、声楽や喉の解剖学などを本で勉強しています。それによると、約40個の筋肉が連動しないと正しい声は出せないんだそうです。今後のお仕事のために、自分の歌声のことももっと知るべきだと思いますし、僕にとっては歌声が一番成長を望める部分なので、これからも育てていきたいですね。
ーー6月4日には、所属されているボーイズグループNORD(ノール)が9周年を迎え、島さん自身もデビューから9年が経ちました。
歌を始めたのが中学1年生のとき。NORDの活動を始めたのは18歳。今は27歳になります。18歳の頃は「これ以上歌は上手くならないだろう」と本気で思っていたんですよ。だけど数年後に当時の自分の歌を聞いたときに「え、過去の自分めっちゃ下手じゃん。今の方が歌えているぞ」と、毎年これを経験しているんです。今9年が経ち、歌はやればやるだけ成長できる、限界はないのかもしれないな、と感じています。だから歌は面白いですね。
ーーアーティストとしての活動はもちろん、ミュージカルでのこれからの進化も楽しみにしています。
最近の経験を通して、自分には成長できる伸びしろがまだまだ有り余っていることに気付けました。いい情報をたくさんインプットして、それをアウトプットできるようになりたいと思います。『四月は君の嘘』では、お客様に「島 太星じゃない、渡 亮太がそこにいた」「新しい島 太星を見た」「と思ってもらえるような役作りをしていきたいです。精一杯頑張ります!
取材・文=松村蘭(らんねえ) 撮影=福岡諒祠