あほの坂田。(浦島坂田船) テーマは前職の“看護師”ーー思いやりと愛があふれたワンマンツアー・最終公演をレポート
AHO NO SAKATA LIVE TOUR 2025 -Nurse-
2025.6.28 幕張メッセ国際展示場4・5・6ホール
4人組ボーカルユニット・浦島坂田船のメンバーであるあほの坂田。。2025年5月27日に7thソロアルバム『Nurse』をリリース後、6月に全国6都市で『AHO NO SAKATA LIVE TOUR 2025 -Nurse-』と題したワンマンツアーを開催した。なぜ“Nurse”かといえば、それはあほの坂田。の前職が看護師だったから。コミュニケーション能力や観察力、共感力、想像力、判断力、責任感、向上心があり、慈愛と明るさに満ちたあほの坂田。のホスピタリティに、あらためて瞠目したツアーだった。ここでは、ソロとしては最大規模のキャパシティである千葉県・幕張メッセ国際展示場4・5・6ホールにて6月28日に行われた最終公演の模様をお伝えする。
「こんにちは、となりの診療所 千葉院へようこそ!」とAIキャラクターがかわいらしく語りかける問診風オープニング映像があけると、ライブのキービジュアルそのまま、白に赤を配した看護師風衣装に赤のカーディガンを羽織ったあほの坂田。が、自身の誕生日と同じ“1205”室のドアを開けナースカートを運びながら病室を模したステージに登場。ちなみに、バンドメンバーは入院患者さながらパジャマ姿。徹底している。
あほの坂田。のイメージカラーである赤のペンライトが数多揺れる客席を見渡し、「人がいっぱいだなぁ! 楽しんでいこうぜ!」と笑顔を見せて始まった1曲目は、「So happy!!!」だ。ピンクのスクラブをまとったダンサーと一緒にカルテを手にステップを踏んだり、血圧を測ってみたりといった看護師ムーブ、<君といる ここにいる だから幸せ>と客席に向けて放つ特大ラブに大歓声が上がる。
「幕張! いい1日にしような!」と呼びかけた「共鳴Tune!」では、聴診器や点滴スタンド、病院用パーテーションを用いた斬新なパフォーマンスを披露。MCで「スーパーヒーロー」メロディのナースコールが鳴り、「今すぐそちらに向かいますね!」と応えたあほの坂田。は、千葉公演限定曲の「NO DRIVE, NO LIFE」でトロッコに乗り込み客席通路へ。コールもクラップもとんでもなく熱を帯びていく。
浦島坂田船のメンバーであるうらたぬき、志麻、センラのコーラス<僕ら止まれない>と緑・紫・赤・黄のメンバーカラーライティングにもぐっときた「ポジティブ・パレード」。赤い照明やパーテーションに映るシルエット、点滴もあほの坂田。の艶っぽい歌声を強力アシストした「LOVE×MAGiC」。クランケとなった坂田家たち、そこかしこに仕込まれたドキドキ要素に最後まで心臓がもつだろうか。
黒い丸椅子にちょこんと腰かけ、銀縁のメガネをかけたあほの坂田。が受け持ち患者の問診票に次々と目を通していったお悩み診断。「3年ぐらい前から急に赤い物が気になって気になって、赤い物があるたびに手が止まって仕事にならない。(中略)病名を教えてください。」という悩みに、「病名をつけるのであれば……」と見事タイトルコールにつなげて「病名は愛だった」へ。ダークトーンから眩いクライマックスに向かうドラマティックな照明演出で、恋焦がれもがき苦しむように歌い温もりを求めたあほの坂田。。そのさまに思わず息を呑んだ。
ステージがピンクのライトに染まった「Drip」は、最新アルバム『Nurse』のオープニングを飾るナンバー。オトナな女の色香漂わせる吐息交じりの歌声にしても、ダンサーとのしなやかで挑発的な振り付けにしても、囁くような<焦らしてあげる…><満たしてあげる…>にしても、刺激的すぎる。さらに、ダンサーを引き連れ花道を通ってセンターステージへ進むと、不敵な笑みを浮かべその手には注射器が。なんて不埒なナースなんだ。
センターステージをいかし、「もっとこい!」と全方位を煽った「シザーナイフ」。あほの坂田。は、メインステージに戻ると赤いカーディガンを脱ぎ、「救急外来だ!」とダンサーのモノボケに次々ノリツッコミ。キレッキレだ。最後のボケを忘れるというミスもご愛敬で、ネタで使うはずだった自身の幼少期写真パネルを持ったまま『Nurse』収録の「助けてナースコール!」へ。病室用ベッドに腰かけたり寝っ転がったりベッドの上で飛び跳ねたり、ダンサーから腕に極太お注射を打たれちゃったり、お願いポーズやハートポーズにしてもかわいいに振り切って、坂田家は心の中でただただナースコールを押すしかない。
「みなさんに寄り添いたい、なにかあったら助けたい、もっともっとみなさんのことを大事にしたい、そんな気持ちで今回のアルバムを『Nurse』と名付けました」と言って、ひとりひとりに届くよう気持ちを込めて歌ったのは「君だけのピエロ」。みんなが笑顔になれるなら、喜んでくれるなら。一途なその想いは、これまでもこれからも変わらないのだろう。
国家試験に合格し2年間看護師として病院勤務をしていたというあほの坂田。。幕間VTRでは、看護師の日常やあるあるなどをアップしているYouTubeチャンネル『NASMEN CHANNEL』のイデ氏をゲストに招き看護師クイズにチャレンジ。想定外のハプニングに見舞われながらも検温、退院指導、ナースコール対応など次々とクリアし、イデ氏から「全体に優しさがにじみ出ていました」という賛辞を受けつつも、総合評価はまさかの不合格。罰ゲームとして黒髪ボブの女医に扮したあほの坂田。、ドキっとするほどさまになっていたしまんざらでもなさそう!
ラメをあしらったアイボリー系シャツ+デニムパンツに着替えて再びステージに現れたあほの坂田。。千葉公演限定曲「サリシノハラ」で泣かせたと思えば、ダンサーも総出の歌謡ロックな「チェック・ナイト」では巻き舌も絶好調だ。あほの坂田。といえばな「スーパーヒーロー」に続き、トロッコに乗り込んでセンターステージに到着した「SNOBBISM」では途端にシニカルモードで迫力あるがなり声も。「マグネティック」では果てしなく<君に堕ちて>いくし、変幻自在なあほの坂田。から一瞬たりとも目が離せない。
「去年は日本武道館で、今年は幕張メッセ。田舎でただごっこ遊びをしていたボンクラが、考えられないですよ。一緒にごっこ遊びする人ができて、それを聴いて楽しんでくれる人ができて、続けていたら仲間に出会って。東京に出てくるとき、2年チャレンジしてダメだったら地元に帰ろう、と思ってやってみたらうまくいっちゃってさ。いつ帰るんだろうって思ってたら、ここが帰る場所になってました。みなさんにも、この場所が帰る場所だと思っていてほしいんですよ。僕、この場所は死ぬ気で守りますから。そして、みんながこの場所をいつか忘れてしまってもこの曲が思い出すきっかけになればいいなと思っています」
そう前置きして歌ったのは、『Nurse』に収録の「カルテ」。作詞・作曲を手掛けたまふまふが意図した通り、ひしひし伝わるあほの坂田。の優しさ、温かさに、どうしたって心が動く。とんでもない余韻を残した「少女レイ」にしても然り、あほの坂田。の表現力は深まり続けている。
坂田家へはもちろん、こたぬき(うらたぬきファンの呼称)、志麻リス(志麻ファンの呼称)、センラー(センラファンの呼称)、crew(浦島坂田船ファンの呼称)への愛も等しく叫んで、演出のファイヤーボールが勢いよく噴き上がる「My Fight」へ。センターステージへ進んだ「独断」にしても、「無駄≠無駄」にしても、魂燃やすエモーショナルなロックナンバーは、やっぱりあほの坂田。によく似合う。
本編ラストは、エレキギターを弾きながら歌った千葉公演限定曲「Calc.」。ありったけの愛が、そこにはあった。
アンコールは、あほの坂田。がアコースティックギターを手に丁寧に歌った千葉公演限定曲「きみへ」でスタートし、「POP INTO YOU」ではあほの坂田。のマスコットキャラクターであるケンちゃんと一緒にトロッコに乗ってアリーナ通路をぐるり。坂田家も含めみんなで記念撮影し、最後の曲に選んだのは「未完成ユートピア」だった。あほの坂田。もダンサーもケンちゃんも楽しく軽やかにステッキパフォーマンスを繰り広げて、坂田家も一緒に大合唱。胸に残ったのは、<明日はきっといい日になる>という明るい希望だ。このツアーで感じたあほの坂田。の思いやりと慈しみを、坂田家はいつまでも忘れないだろう。
文=杉江優花
撮影=小松陽祐(ODD JOB)、加藤千絵(CAPS)