変わるお墓の常識 「サブスク供養」という選択肢
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きょうは、「墓じまい」についてのお話。「お墓をどうしよう、そろそろ考えないと…」という方も多いのでは。実際に、お墓の遺骨を別の場所に移す「改葬」の件数は、この10年で およそ2倍に増えているそうです。
著名人の墓も例外ではない…墓じまいの今
そうした中、豊島区にある「雑司ヶ谷霊園」では、ある変化が起きているようです。雑司ヶ谷霊園の管理事務所長・山口 康平さんに伺いました。
雑司ヶ谷霊園・管理事務所長 山口 浩平さん
雑司ヶ谷霊園って文化人が多い。有名なのは夏目漱石さん。あとは小泉八雲さんとかですね。数年前から、「墓マイラー」っていうんですかね、そういう著名人の墓を巡るというようなことをされるような方々もいらっしゃってですね、こういうマップに掲載しているのは50人弱ぐらいですね。
当然お墓ですから、お墓には持ち主さんがいらっしゃいますので、著名人のお墓でも、墓じまいをされる方もいらっしゃいます。例えばよくあるのは「後継者がいない」ということで、自分の代で、墓じまいをしようという方もいらっしゃったりしますので、所有者の方の、我々としても意思を最大限尊重するしかないので、返還されるということに関してね、我々としてはどうしようもないというかですね、はい。
著名人の墓も「墓じまい」がぽつぽつと出てきているようです。
<東京メトロ 東池袋駅や雑司が谷駅、池袋駅からほど近い「雑司ヶ谷霊園」>
雑司ヶ谷霊園は、都内では青山霊園に次いで2番目に規模の大きな都立霊園。明治7年に創設されてから今年で151年目の歴史ある霊園ですが、夏目漱石、小泉八雲、ジョン万次郎など、多くの文化人が眠る場所で、来園者に無料で渡しているマップにも、著名人の墓の場所が記載されています。
<雑司ヶ谷霊園では、案内MAPを無料で配布しています>
<よく見ると著名人のお墓の場所も記載されています。例えば「夏目漱石」など…>
<MAP裏面には、雑司ヶ谷霊園に眠る著名人の一覧表があります>
敷地内に様々なお墓がある中で、少し前に「泉鏡花」の墓石が消えたことが話題になっていたのですが、たしかに、霊園にある掲示板でも、「泉鏡花」という案内表示の上からシールが貼られていました。
<霊園内の掲示板には、テープで上からマスキングされた名前もあります。うっすら「泉鏡花」と読めます。「泉鏡花記念館」のSNSによると、別の場所へ移されたことが明かされていました>
お墓もサブスクの時代?
墓じまいした後は、このように新たな場所に移すケースもあれば、合葬という形で永代供養されることもあります。
一方で、一般的なお墓とは異なる、新たな弔いの形も出てきています。それは、「定額制で利用できるお墓」、いわば 「お墓のサブスク」が登場しているんです。どのような仕組みなのか?このサービスを始めた、株式会社 佛英堂(ぶつえいどう)の、野呂 英旦さんに伺いました。
株式会社 佛英堂・専務取締役・野呂 英旦さん
ざっくり言うと檀家にならずとも、お寺さんにお墓に持たせていただいて供養していただけるっていう。
昨今、墓じまいする方が結構増えて、その理由として多いのがやっぱり跡継ぎがいなかったりとか、いるんだけれども遠方にいたり、もしくはちょっと跡継ぎを任せられないかなみたいなところが増えてきてますので。これまでの檀家になって、手厚い供養っていうよりかは、もう少し、わかりやすいお墓を作りたいなと思って作らせていただきました。
初期費用がまず38万5千円で、月額が3300円になるんです。この料金体系っていうところが、サービスの特徴にはなってくるかなと思いますね。
最近、お墓にも 「定額制のサービス」 が登場しました。その名も 「偲墓(しぼ)」。このサービスでは、最初に38万5000円 を払って、毎月3300円 を支払うと、お寺が法要(供養)や管理をしてくれる仕組みです。
では、普通のお墓とどう違うのか?
まずお墓がコンパクト。一般のお墓は大きくて高価ですが、「偲墓」は 炊飯器ぐらいの大きさ(20センチ角)。しかも、骨つぼを兼ねている ので、別に遺骨を納める場所を作る必要がありません。
さらに、引っ越ししてもお墓を移せます。全国44カ所のお寺に安置でき、住む場所が変わっても移動できます。
そしてなにより、費用がわかりやすい。一般のお墓は 墓石だけでおよそ160万円 かかるのが普通だそうで、さらにお寺に「お布施」を納めることも多いものですが、「偲墓」は檀家になる必要もなく、お布施もなしなので、お金の心配が少なくすみます。
移動可能+いつでも辞められる
こうした理由から、「お墓をどうしよう」と悩む人たちに選ばれているようです。そしてこのサービス、もう一つ大きな特徴があるそうです。提携するお寺の一つ、三重県の 浄誓寺(じょうせいじ) では、住職の 稲森 栄政さんに伺いました。
「 浄誓寺(じょうせいじ) 」住職 稲森 栄政さん
いつ辞めてもいいです、好きな期間だけで。
なので3年とかで辞める方いましたよ。その方は奥さんが亡くなりはって、「3年間はちゃんと供養させてほしいです。あとは永代供養墓でいいです、ただお墓を建てるまでお金ないんですわ」っていう。3年で終わって、永代供養墓に移して、その後、来れるときにお参りに来てはります。
言ってましたよ、「自分の中で決着がつきました」って言ってましたよ。まずいきなり永代供養墓って「うーん」ってなる方もおられるんで、やはりちょっと永代供養の前にワンクッション置きたいよねっていう方もいてました。「お墓を建てる」か、「永代供養」かの2択しかなかったのが、選択肢が増えた。
結婚や転勤で お墓がある場所から遠くに引っ越す 人だけでなく、自分の好きなタイミングで始めて、やめたいときにやめられる仕組みが、利用者のニーズに合っているようです。
供養にも費用がかかりますが、だからこそお寺のあり方も、時代に合わせた選択肢が求められているのかもしれません。
取材後記:新しい「墓じまい」の形
愛知県の稲垣石材店では、墓じまいをした後の墓石をリメイクするという新しい取り組みを行っています。通常、墓じまいではお墓を解体・撤去し、更地に戻すことが一般的ですが、稲垣石材店の「メモリアル お墓じまい」では、処分される石を 手のひらサイズのミニお墓に加工したり、キーホルダーや数珠にリメイクすることができます。
お墓の石は非常に硬く、加工には手間がかかりますが、「大切な人を納めていた場所を、ただ処分してしまうのは寂しい」という気持ちに寄り添い、新しい供養の形として提案されました。費用は、お墓の撤去と永代供養込みで約16万円。さらに、オプションとして、プラス5万円でミニチュアのお墓。プラス8万円で墓石を使った数珠を作ることができます。
「お墓を維持するのが難しい…でも、何か形として残したい」そんな人たちの新しい選択肢となっているようです。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材:田中ひとみ)