元なでしこジャパンの半田悦子さん(静岡県サッカー協会女子ユースダイレクター)が語る女子サッカーの歴史と“今”
SBSラジオの静岡サッカー熱血応援番組「ヒデとキトーのFooTALK!」に、元なでしこジャパン代表、静岡県サッカー協会の女子ユースダイレクターに就任した半田悦子さんをお招きしました。聞き手はパーソナリティのペナルティ・ヒデさんと鬼頭里枝さん(2025年1月21日放送)
3連覇を果たした藤枝順心の強さは?
ヒデ:先日の全日本高校女子サッカー選手権の藤枝順心の3連覇、どうご覧になりましたか?
半田:全試合現地(ノエビアスタジアム神戸)で見ました。今回は危なげなかったというか、本当に強かったですね。
ヒデ:2ゴールぐらいから「凄すぎんな」って思っちゃいました。彼女たちの何がすごいんですか?
半田:順心スタイルという積み上げたものがありますね。特に攻撃のパターン。ディフェンスの背後を使うのがむちゃくちゃ上手くて、戦術が素晴らしい。
ヒデ:どの角度からも決められるというイメージがありましたね。セットプレーもそうだし、本当にいろんな形から取れますよね。
半田:もちろんパターンがあるといっても、結局はその場の状況で判断します。相手によって変えることがいくつもある中で、連動できる強さがあります。あと、今年はコーナーで点が取れた。キャプテンのキックが素晴らしかったですね。
ヒデ:個の能力も強度の高さも感じられた大会で、優勝するべくして優勝したのかもしれません。
女子サッカーは特別ではなかった
鬼頭:半田さんのプロフィールです。静岡市清水区(旧清水市)生まれ。小学3年生の頃にサッカーを始め、清水第八スポーツクラブ(現在は清水第八プレアデス)や清水FCレディース(1990年に鈴与清水ラブリーレディースに改名)などで活躍され、1981年に女子日本代表に初選出されています。
ヒデ:俺が藤田俊哉と初めて清水FCと船橋FCで対戦した年だ。
鬼頭:その後1996年アトランタオリンピックなど多くの国際大会で活躍。1997年に現役引退しました。引退後は指導者として常葉大橘の中学、高校で女子サッカー部の監督を歴任し、S級指導者資格を取得。
2021年にWEリーグのちふれASエルフェン埼玉の監督に。そして昨年、静岡県サッカー協会女子ユースダイレクターとなり、若手育成に尽力されています。
ヒデ:私ですら清水第八は知ってますから。
半田:え、知ってます?
ヒデ:昨年末に当時の女子サッカーの特番がありまして。
半田:見ました。あれは評判良かったですよ。
ヒデ:もう号泣ですよ。「サッカーなんて」みたいな人たちが、いざオリンピックが見えてきたら応援してくれて、よかったですね。
鬼頭:その中心に半田さんがいらっしゃったんですね。
ヒデ:女の子たちがサッカーを途中で諦めてた時代に、食らいついた皆さんがいたということです。そもそも出身が清水だから、女子も普通にサッカーをやってたんですか?
半田:女子サッカーチームが小学校に結構あって、清水でリーグ戦をやってたんですよ。だから、女子サッカーが特別なものという感覚が全くなかったです。
鬼頭:日本で清水だけじゃないですか?(笑)
ヒデ:女の子はポートボールとか、バスケ、バレーボール部でしたよね。
小学生時代、男子チームを8−0で下した
鬼頭:小学生時代のタレコミが来ています。「半田さんや木岡二葉さんが所属していた入江小学校、めちゃくちゃ強かったです。自分は1学年下の江尻小の男子チームで、0対8で負けたことが今でも忘れられません。同学年の他チームにもそんな負け方をしたことはなかったから、とても強かったです」
ヒデ:すごい!覚えてますか?
半田:覚えてないですよ(笑)
鬼頭:負けたほうは覚えてる。
半田:でも、女子チームも男子チームと試合はやらせてもらってたと思います。
ヒデ:澤穂希の後輩に中村憲剛がいるわけですよ。「澤さんすごかった」って。「ガシって当たっても倒れない」って言ってた。当たった時、カキーンって音がしたらしいですよ。
鬼頭:鉄骨みたいに?なわけないわ(笑)木岡二葉さんという方は?
半田:小学校の時から引退するまでずっと同じチームで、もちろん代表も一緒でした。彼女は本当にテクニシャンで中盤を作る選手でしたが、私はどっちかというと枝で、走ってばっかりでした。
ヒデ:その頃から当たり前のように清水という街にはサッカーボールを蹴っている女の子がたくさんいたんだ。
鬼頭:小学生の時からサッカー好きだったんですか?
半田:サッカーをやりに行くっていうよりも、友達と遊びに行くみたいな感じでした。
前例なき道歩んだ現役時代
ヒデ:世界のサッカーはどうでしたか?
半田:私たちがやってる時、初めは代表とかなくて、ただ好きでサッカーをやっていました。そのうちにワールドカップとか、オリンピックの正式種目になるっていう話が後からついてきたんですね。
だけど、どんなものか分からなくて、初めてワールドカップに出た時はコテンパンにされました。自分たちの試合が終わって日本に帰った後、自分でお金を払って中国まで決勝を見に行ったことも。決勝戦、男子がやってるようなプレーだと感じましたね。
ヒデ:国立競技場で澤選手たちがみんなでグラウンドを歩いて、女子サッカーを応援してくれってアピールしてたのを覚えてます。
半田:初めの頃は予算もそんなになかったですし、遠征もあまり行けなかった。強化試合もできませんでした。
ヒデ:もちろん家事育児と同時に別の仕事をして…。大変だったでしょ?
半田:今みたいな環境がなかったから、それが当たり前みたいな感じでした。
ヒデ:そうか。前例がないから。
半田:もうそれしかないから。遠征費も出さなきゃいけない時もあって、それがなければ行けなかった。
ヒデ:うさぎ跳びが当然だと思ってた時代だからね。国際舞台はキラキラしていましたか?
半田:1996年のアトランタオリンピックに出場した時は、出発する前の取材がもう全然違いましたね。
ヒデ:注目度も違いますよね。
半田:オリンピックで初めて正式種目になったこともあり、最初はすごく注目されていました。ただ、成績が悪かったので帰りはシーンとしていました。
ヒデ:もうしょうがないっす。スポーツの世界はやっぱりそうですよ。優勝する前なんて、なでしこも全然取り上げてくれなかった。だからこそ強くなきゃいけない。そういうご苦労があったんでしょうね。
ユースダイレクターはどんな仕事?
鬼頭:去年からは静岡県サッカー協会で女子のユースダイレクターという仕事をやってらっしゃいます。
半田:きっかけは(東日本大震災後に静岡で活動していた)JFAアカデミー福島が、福島に帰ることが決まったことでした。静岡県の女子サッカーとかなり対戦してもらっていて、福島がいたからレベルがキープできた面もあったんです。
アカデミー福島がいなくなるということで、静岡女子サッカーのレベルが下がらないようにするにはどうしたらいいか。男子のユースダイレクターが女子も男子も見る形はあるんですが、女子専属を作ったらどうかということになりました。
ヒデ:僕、遅すぎるぐらいだと思うんですよね。女性のダイレクターが女子を見るってすごく自然というか。
半田:専属で雇うとなると…。予算などの問題でユースダイレクターがまだいない県もあります。静岡は女子のユースダイレクターができたことで、他県からも「さすが静岡だね」と言われるらしいです。
鬼頭:誇らしいですよね。
ヒデ:半田さんはユースダイレクターとしてどういったお仕事を?
半田:強化の部分も、普及も、指導者養成もやります。あと、国体U-16に帯同させていただいたり。自分自身に何ができるかを探しながら、いろんなところに顔を出して、いろんな話を聞いています。
ヒデ:ディレクターと一緒だからね。全部自分でやって、作り上げて。やりがいはあるでしょうけど、楽しいですか?
半田:今までとはかなり違う立場でサッカーと向き合う時間が多くなりました。本来のサッカーの楽しさをもう1回追求してるところですね。
静岡県にWEリーグのチームがほしい
鬼頭:「ここが大変、これが足りない」という課題はありますか。
半田:静岡は藤枝順心が優勝して国体も優勝してる中でも、WEリーグのチームがまだありません。なでしこリーグで静岡SSUボニータさんがすごく頑張ってくれて、静岡の縮図ができてはいるんですが、WEリーグのチームができることで子どもたちも夢と希望がもっと持てて、もっと先が見えるようになるのではと思っています。
ヒデ:静岡でやってた高校生の子たちが他県に行っちゃってますね。
半田:そうなんですよね。大学進学でも他県に行っちゃったり、藤枝順心の良い選手もWEリーグの違うチームに行ったりしています。とにかく入り口ができてほしいなと心の底から思っています。
サッカーで人生を豊かに
ヒデ:女子のサッカー人口は右肩上がりなんですか?
半田:昔に比べたら選手もチームも少しずつ増えています。生涯サッカーとして、私たちの年齢ぐらいになってもサッカーを楽しんでる方もいます。本当に勝ちを目指すチームに入りたい子はそういうチームに入ればいいし、ちょっと遊びで楽しくやりたい選手はそっちに入ればいい。「自分はここでやりたいな」というチームが見つかることがすごく大事なのかなと思いますね。
ヒデ:個人的な目標やダイレクターとしての活動における最終的な目標は?
半田:選手や子どもたちがサッカーを楽しめるようになること。私もそうでしたけど、結局サッカーをやめた後もサッカーの仲間との縁は切れない。人をたどると、誰かと繋がるみたいな。
スポーツをやることによって人生が豊かになるっていうのはちょっと大げさなんですけど、そうしたことを目指せるような子どもになってもらいたいです。スポーツを好きになってもらいたいなってすごく思いますね。
ヒデ:最終的に一緒にボールを蹴ってた友達は残りますしね。今女子のワールドカップが日本で行われるんじゃないかって話も出てきてます。静岡が手を挙げてくれると思うんですよね。
半田:日本代表も今、千葉玲海菜(れみな)ちゃんという藤枝順心出身の子がいますが、今は代表もそんなに多くないので、静岡県の選手が代表に入ってもらいたいなと思います。やっぱり、いるといないで応援の仕方も変わりますから。
ヒデ:出身が静岡だったら応援してあげようってなりますもんね。ラジオを聞いている皆さんにメッセージを!
半田:女子サッカーを通していろんなことを経験できるので、まずはサッカーの楽しみを知ってもらいたいです。これから普及活動もいろいろしながら、みんなとともに女子サッカーを盛り上げていきたいと思います。よろしくお願いします。